ソニーの「REON POCKET(レオンポケット)」は、本体と体が接触する部分を冷やしたり温めたりすることで、夏や冬に快適な環境を提供するウエアラブルサーモデバイスだ。2020年7月1日の発売当時、“着るクーラー”として話題となった。21年3月8日には新たな専用アクセサリー「ネックバンド」の発売で、懸案だった“専用下着”が不要に。ソフトウエアアップデートも実施され使いやすくなり、ユーザー層を広げそうなレオンポケット。その進化のほどを探った。

スマホから操作ができるソニーのウエアラブルサーモデバイス「レオンポケット」
スマホから操作ができるソニーのウエアラブルサーモデバイス「レオンポケット」
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発売直後に1万台を完売、注目を浴びる理由とは

 レオンポケットは専用インナーウエアのポケットに装着した状態で、本体の一部を首元にあてがうと接触冷感・温感が得られる一風変わった端末。これにより夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるというのが特徴だ。衣服内の空気を実際に循環させているわけではないが、その特徴を端的に伝えるため、ここではあえて「ウエアラブルエアコン」と呼ぶことにする。

iOS/Android対応のモバイルアプリでCOOL/WARMモードの切り替えや本体の詳細設定ができる
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 ソニーのスタートアップ創出と事業運営を支援する「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」によって、レオンポケットは2019年にそのコンセプトが発表された。製品は当初、ソニーのクラウドファンディングサービス「First Flight」でローンチされた。20年4月から支援者への提供を開始、同年7月1日には一般販売もスタートした。

 ソニーが満を持して臨んだ一般販売は快調な滑り出しを切った。「初回出荷を予定していた1万台を、わずか発売2日間で売り切った」と、当時の勢いを振り返るのはレオンポケットを担当するソニーREON事業室統括課長の伊藤健二氏だ。

 一時期はソニーの直販サイトでも入荷待ちの状態が続いたが、現在は購入可能となっている。本体の価格は1万4300円(税込み、以下同)。レオンポケットの専用インナーウエアは1着1980円。そして後述する、今回新たに投入された専用アクセサリーのネックバンドは1430円となっている。

レオンポケットの開発に携わるソニーの伊藤健二氏に、発売後の手応えや今後の展開を聞いた
レオンポケットの開発に携わるソニーの伊藤健二氏に、発売後の手応えや今後の展開を聞いた
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 レオンポケットは冷感と温感の両方を1台のデバイスで得られる。温度調整やタイマーなどの設定は、専用アプリをインストールしたスマートフォンで行う。伊藤氏によると一般発売の直後、夏の暑い時期には男性の購入者が増えて、寒くなった冬の12月ごろには女性が多く買い求める傾向が見られたという。

 実際に使ってみると注目を集める理由がよく分かる。本機のようにスマホと連携して簡単に温度調節ができるウエアラブルエアコンなど、今まで存在しなかったからだ。充電すれば繰り返し使える「冷感」が得られるアイテムは他社からも発売されているが、ネックスピーカーのような首かけタイプで、どうしても目立ってしまう。近年、日本の夏の暑さは尋常ではない。夏の通勤などで手軽に携帯できるこんなデバイスを、多くの人が待ち望んでいたからこそ、これほどの人気につながったのだろう。

 伊藤氏によると、発売後もレオンポケットユーザーから多くの反響が寄せられているとのこと。ソニーとしても、新たな製品カテゴリーであるウエアラブルエアコンに市場性が見えたことから、「今後は自信を持って、製品のブラッシュアップやソフトウエアによる機能アップデートが提供できるだろう」と伊藤氏は笑みを浮かべる。

新アクセサリー「ネックバンド」の狙い

 21年3月8日には、レオンポケットの新しい専用アクセサリーとなるネックバンドが発売された。レオンポケットの冷温効果を最大限生かすには、専用インナーウエアは必須アイテムだ。専用インナーウエアはシャツやジャケットの内側に“肌着”として身に着けることを前提としている。しかしコロナ禍で在宅勤務となるビジネスパーソンが増え、外出も控えるようになったことから、スーツやシャツを着る機会が減ってしまった。そのため「インナーウエアを着なくてもレオンポケットを使えるようにしてほしい」という声が多く寄せられたこともあり、今回ネックバンドの開発に至った。

レオンポケットの専用インナーウエア。本体を装着すると少したるんでしまうため、やはり上からシャツなどを着て端末を保持する必要がある
レオンポケットの専用インナーウエア。本体を装着すると少したるんでしまうため、やはり上からシャツなどを着て端末を保持する必要がある
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 専用ネックバンドの形状はレオンポケットを固定するプレートと、首を巻き込むようにして肩に乗せて装着するバンドの2ピース構成。首回りが約30~44センチのユーザーが身に着けられるように設計されている。専用ネックバンドを使えば女性もレオンポケットが手軽に使えるようになりそうだ。

 実際にネックバンドを試してみると、本体の重みで生地が少したわむ専用インナーウエアに比べ、レオンポケットの接触部分が首元の正しい位置にフィットしたまま安定し、装着感も悪くない。涼しさ、温かさが最大化され、効果が長続きしそうな実用性の高いデザインに仕上がっている。

新発売のレオンポケット専用のネックバンド
新発売のレオンポケット専用のネックバンド
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レオンポケットで十分な冷感を得るためには、本体の排気口から空気を流れやすくするようにネクタイを外したり、シャツの第1ボタンを外したりして身に着けるように推奨されている。ネックバンドは排気口を塞がないように本体を装着するとスペースができるように形状を工夫した
レオンポケットで十分な冷感を得るためには、本体の排気口から空気を流れやすくするようにネクタイを外したり、シャツの第1ボタンを外したりして身に着けるように推奨されている。ネックバンドは排気口を塞がないように本体を装着するとスペースができるように形状を工夫した
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 最初はバンドが少し硬いように感じたが、慣れれば違和感は薄れてくる。しばらくすると、レオンポケットを装着していることを忘れそうになった。

 伊藤氏は「素材の硬さを変えていくつか試作をしてみたが、最も高い安定感が得られるこの素材を選んだ」と振り返る。ネックバンドを身に着けて、上から襟付きのシャツを羽織ってしまえば、バンドの部分を含めて本体がきれいに隠れる。背中側から見てもレオンポケットを装着していることがほとんど分からない。「目立ちにくいデザインに仕上げることに徹底してこだわり抜いた」(伊藤氏)。

専用ネックバンドを装着中。襟元からもバンドがほとんど見えない
専用ネックバンドを装着中。襟元からもバンドがほとんど見えない
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背中から見てもレオンポケットの膨らみがほとんど気にならない
背中から見てもレオンポケットの膨らみがほとんど気にならない
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 従来はS・M・Lの3サイズ展開だった専用インナーウエアは、発売直後からもっと大きなサイズを求める声が多く上がっていたことから、21年3月からXLとXXLサイズを追加した。また、これまで冷感・温感モードのどちらも安全に使えるように、連続で使用できる時間を最大30分までとしていた。こちらも様々な用途にレオンポケットを使うユーザーからのフィードバックを踏まえ、ソフトウエアアップデートにより最大連続駆動を1時間に延長した。

専用アクセサリー拡充でレオンポケットを強く

 伊藤氏は今後、中核となるレオンポケットの周辺に様々な専用アクセサリーを増やして、同時にソフトウエアアップデートによる機能拡張も積極的に行いながらレオンポケットを中心としたプラットフォームを強化したいという展望を話してくれた。

20年11月に実施されたソフトウエアアップデート以降、レオンポケットをUSBケーブルで給電しながら使えるようになった。冬の寒い中、膝掛けなどに本機をくるんで体を温めていると、室内暖房器具の設定温度を少し下げたりできるので省エネにもなる。夏はエアコンが冷えすぎる環境が苦手という方にもお薦め
20年11月に実施されたソフトウエアアップデート以降、レオンポケットをUSBケーブルで給電しながら使えるようになった。冬の寒い中、膝掛けなどに本機をくるんで体を温めていると、室内暖房器具の設定温度を少し下げたりできるので省エネにもなる。夏はエアコンが冷えすぎる環境が苦手という方にもお薦め
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 今後、外部の異業種パートナーとのコラボレーションも仕掛けながら、エコシステムの拡大を図ってもらいたい。レオンポケットを装着したまま着られるスタイリッシュなシャツや、軽く体を動かすスポーツシーンにも適したトレーニングウエアなどもニーズがありそうだ。冬場は首元だけでなく、足腰もレオンポケットで温められる膝掛けのようなアイテムが必要だと感じた。アパレルや日用雑貨のメーカーと組めば、さらに多様な展開が期待できる。

 レオンポケットがヒットしたことで、ソニー全体でこれを主力商品に後押しする動きも活発化しているようだ。スマホで簡単に操作できるコンシューマー向けのウエアラブルエアコンは今のところライバルがなく、またレオンポケット自体の完成度も高い。最適な時期を見計らって海外進出すれば、特に高温多湿なアジアの諸国から歓迎されそうだ。

 レオンポケットがソニーの新たな看板商品になるのか。これから迎える2021年の夏も、引き続きウエアラブルエアコンから目が離せない。

(写真/山本 敦)