ツインバード工業の全自動コーヒーメーカーがヒットしている。2018年10月に発売した「CM-D457B」、19年11月に発売した「CM-D465B」ともに、21年の年始早々から各店舗で品切れになるほどの人気となった。21年3月初旬の時点では各ECサイトでの在庫は戻ってきているものの、同社のオンラインストアでは一部品切れ状況となっている。なぜここまでヒットしたのか、その理由を探った。

ツインバード工業が2019年11月に発売した全自動コーヒーメーカー「CM-D465B」。直販価格は4万9280円(税込み)
ツインバード工業が2019年11月に発売した全自動コーヒーメーカー「CM-D465B」。直販価格は4万9280円(税込み)

コーヒー界の“レジェンド”が監修

 ツインバード工業の全自動コーヒーメーカー「CM-D457B」は、名店・カフェ・バッハ(東京・台東)店主の田口護氏が監修したことで、発売当初から大きな話題となっていた。同氏は自家焙煎の第一人者として知られており、バリスタも使える本格的な実用書も含めて数十冊もの著書を出版するコーヒー界の“レジェンド”だ。

 CM-D457Bは3杯用(450ミリリットル)と容量が少なめなことから、発売から約1年後に6杯用(900ミリリットル)の「CM-D465B」を発売。どちらも多くのコーヒー愛好者に注目され、人気となっていた。その魅力は名店のハンドドリップの味を再現する手法と、五感を刺激するためのこだわりにある。

 豆を計量してミルにセットし、水タンクに水を入れる。ドリッパーにペーパーフィルターをセットして本体に設置するところまではどの全自動コーヒーメーカーも同じだ。ミルに付いているミルダイヤルでコーヒーの挽(ひ)き目(粗挽き/中挽き/細挽き)を選び、メニュー(豆から挽く、粉から入れるなど)、抽出温度(83℃、90℃)、蒸らし湯量を設定。スタート/ストップボタンを押すと抽出がスタートする。

 スタートするとミルが動作し始めてコーヒー豆を挽いていく。本体とドリッパーの間には約2センチのすき間が空いており、コーヒー豆が少しずつ挽かれて粉になっていく様子を見られるのがユニークだ。

CM-D465Bの操作部。表示もシンプルなミニマルデザインのダイヤルが並ぶさまは、飛行機のコックピットなどに憧れた元・少年の心をくすぐる
CM-D465Bの操作部。表示もシンプルなミニマルデザインのダイヤルが並ぶさまは、飛行機のコックピットなどに憧れた元・少年の心をくすぐる
本体とドリッパーの間には約2センチのすき間が空いており、コーヒーが挽かれる様子が見える
本体とドリッパーの間には約2センチのすき間が空いており、コーヒーが挽かれる様子が見える

 豆を挽き終わるとドリップ開始。6カ所の穴からお湯が出てきてコーヒー豆をぬらすと、まずはダイヤルで設定した杯数分の時間だけ蒸らしを行い、しばらくすると本格的なドリップが始まる。6カ所の穴からシャワーのようにお湯が出ては止まり、出ては止まりを繰り返す。

 最初のうちは比較的等間隔で同じようにドリップしているように見えるが、後半になるとお湯の流量が少なくなり、じっくり仕上げているような印象を受ける。すき間からドリップの様子がしっかりと見えるだけでなく、挽きたてでいれたコーヒーの香りが立ち上ってくるのでテンションが上がる。

まずは山型になったコーヒー粉を崩していく
まずは山型になったコーヒー粉を崩していく
ドリップしていくうちに、湯気が立ち上り、香りが漂ってくる
ドリップしていくうちに、湯気が立ち上り、香りが漂ってくる
コーヒーの出来上がり
コーヒーの出来上がり

ドリップの様子を見せるための静電気対策

 ツインバード工業マーケティング本部マーケティング部の小林由希奈氏は「コーヒーをいれる時間を楽しむために、香りも広がってドリップの様子が見えるすき間を設けるアイデアにたどり着いたのですが、これを実現するのに苦労しました」と話す。コーヒー豆を挽くと静電気を帯びてしまい、そのままでは粉が飛び散ってしまう。これを技術的にクリアするのが大変だったのだ。

 静電気対策は至ってシンプルだ。ドリッパーの樹脂に金属が練り込まれており、ドリッパーが本体の除電レバーに触れると静電気が逃げるようになっている。ミルの上部にも除電部品が付いているという。静電気を帯びるのなら、セルフのガソリンスタンドにある静電気除去シートのように逃がせばいい、と考えれば分かりやすい。だが、導電性樹脂と導電レバー、さらには導電材料製の底板まで導線を経由してアースしている徹底ぶりには恐れ入る。「この仕組みは特許を出願(特開2020-031852)している」(小林氏)とのことだ。

本体奥に、静電気を除去するための除電レバーが配置されている
本体奥に、静電気を除去するための除電レバーが配置されている
導電性樹脂を用いた4~6杯取り用のドリッパー
導電性樹脂を用いた4~6杯取り用のドリッパー
こちらは1~3杯取り用のドリッパー。4~6杯取り用に重ねて使うのがユニーク
こちらは1~3杯取り用のドリッパー。4~6杯取り用に重ねて使うのがユニーク

テレビ番組で紹介されて大ヒット

 発売は2年以上前にもかかわらず、21年に入ってすぐにCM-D465BとCM-D457Bの2モデルが大人気になったのは、20年12月30日に放送されたテレビ番組『アメトーーク!』(テレビ朝日)の「家電芸人」コーナーに、CM-D457Bが登場したのがきっかけだった。元料理人でお笑いコンビ「和牛」の水田信二氏がお薦めのコーヒーメーカーとして紹介。監修に携わった田口護氏が2000年の九州・沖縄サミット(主要国首脳会議)でコーヒーをサーブしたところ、コーヒー嫌いの米クリントン大統領(当時)がそのコーヒーを飲んだというエピソードも語られた。

 「コーヒー好きの間では人気があって徐々に浸透してきた中、味にこだわりのあるお笑い芸人さんが愛用されていて、これは本当にいいと紹介していただいたのがヒットの大きなきっかけです。21年の年始の販売台数は、前年の約10倍まで伸びました」とツインバード工業マーケティング本部マーケティング部部長の金東建氏は語る。

 「おいしいコーヒーメーカーを探しているコーヒー好きの方には、既に届いていたと思います。ニーズはありましたが、これまで届いていなかった方にまでしっかり届いたという印象」(小林氏)

ツインバード工業マーケティング本部マーケティング部の小林氏と、同社の知名度を上げたコーヒーメーカー(左がCM-D465B、右がCM-D457B)
ツインバード工業マーケティング本部マーケティング部の小林氏と、同社の知名度を上げたコーヒーメーカー(左がCM-D465B、右がCM-D457B)

 売れ行きが急上昇した背景にテレビ番組の後押しはあったにせよ、CM-D465B/CM-D457Bが成功したのは、何といっても田口護氏が監修し、太鼓判を押したところにある。

 「他社からも共同開発をしたいという話がありましたが、田口先生も中途半端なものは出したくないという気持ちがあったそうです。当社の開発メンバーが試作品を持って、ぜひ力をお貸しいただきたいとお願いしたときに、頑張って作った試作品の構造の部分を評価していただき、一緒にやっていただける流れになりました。ひたむきな職人のものづくりを田口先生に評価していただいたのが大きいと思います」(小林氏)

機械で実現した田口氏のノウハウ

 専門家が監修したツインバード製品では、美容研究家の山本幸恵氏が協力した防水ヘッドケア機「セレブリフト」などもあるが、「担当者が試作品をお持ちしたところ、自分の手に近い動きを再現してくれたことで気持ちが動いたと山本先生が話していました」と金氏は語る。

 それに対し、コーヒーメーカーの再現手法は異なる。田口氏のハンドドリップの動きを再現する……ということではなく、「『結果的に同じ味になるように機械でやる』という調整に苦労しました」と小林氏。

 6カ所の穴から内向きにシャワーのようにお湯が出る仕組みだが、まるで人が手で回し入れるようないれ方にプログラムを調整していった。83℃と90℃というのはおいしいコーヒーをいれる上で田口氏が指定した温度だが、「その温度も上げて、下げて、上げてとか、細かく調節しています」(小林氏)という。

 「ハンドドリップだと、コーヒー豆を挽いた後に平らにならしてから入れるのが基本ですが、機械だとどうしても山のようになってしまいます。それが平らになるようなお湯の出し方など、細かい工夫が詰まっています」(小林氏)

本体上部に配置したミル
本体上部に配置したミル
ミル部は取り外しができるようになっている
ミル部は取り外しができるようになっている

 特許情報を見ると、挽かれたコーヒー粉が抽出具から漏れにくくする仕組み、山状にたまったコーヒー粉をお湯だけでならす仕組み、振動や騒音を抑えるミル装置など、この製品に関連する特許が9件出願されている(現在公開されているのは8件)。「抽出具内のコーヒー粉の偏りを軽減」する技術などはメンテナンス性などの理由からか採用されていないが、「均一に豆を挽いて」「均一にならし」「ハンドドリップのように均一にお湯を注ぐ」ための技術開発には、おいしいコーヒーに対する執念すら感じられる。

 現在、ユーザーからは「マイドリッパーを使いたい」という声があると小林氏は語る。

 「こだわりのあるお客様の要望にお応えしたいのは山々ですが、除電の問題があってなかなか難しい。ドリッパーの溝や形、高さなども田口先生に監修していただいているので、そこを少し変えるだけでも味が変わってしまいます。ハンドドリップできるようにミルだけのモードも付いています」(小林氏)

 ミルは取り外して付属のブラシで洗浄できるようになっている。

 「お手入れ性はお客様にとってもかなり大きなニーズなので、そこは考慮しました。ミルを取り外して掃除できるのはなかなか他社にもない特徴だと思います」(小林氏)

付属のブラシで掃除できるメンテナンス性の高さも魅力だ
付属のブラシで掃除できるメンテナンス性の高さも魅力だ

日本メーカーであることを知らしめたい

 一方で水タンクはコスト面から取り外しができないようになっている。クエン酸洗浄モードは備えているが、少し残念な点ではある。

水タンクは取り外しができない
水タンクは取り外しができない

 また、黒以外の本体カラーに対する要望もあるそうだ。

 「部屋のインテリアを統一されている方も増えてきているので、どの製品も白で統一したいという要望がありますが、コーヒーメーカーなので実現は難しい。しかし当社は新潟の燕三条の企業なので、磨き技術とコラボしたステンレスを採用するといったアイデアは出ています」(小林氏)

 ツインバード工業として、今回のコーヒーメーカーシリーズに懸ける思いは強い。同社は1951年に新潟県三条市に誕生し、21年に創立70周年を迎える老舗メーカーだが、日本のメーカーだと認識している人はそれほど多くないだろう。

 「このコーヒーメーカーのような“ヒーロー商品”を足がかりに、まずツインバードが日本のメーカーだということを皆さんにお伝えするのが1つのミッションです」(金氏)

 職人的なものづくりと社風からか、同社にあまり派手な印象はない。しかし今回のコーヒーメーカーのヒット、そして70周年を迎えるということもあり、ブランドの再構築に向けて本格的に動こうとしている。地方都市の老舗メーカーがどう変革していくのか。コーヒーメーカーの新モデルも含め、今後の展開には期待が持てそうだ。

(写真/安蔵靖志)

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