レノボ・ジャパンが2020年10月に発売した「ThinkPad X1 Fold」は画面がぐにゃりと曲がり、折り畳めるモバイルPCだ。折り畳んでコンパクト、広げるとタブレットやデスクトップPCとして使える。高額だが、PCを頻繁に携帯する人やエグゼクティブ層に訴求できるかが売れ行きを左右しそうな「人に見せたくなるPC」だ。
ThinkPad X1 Foldはタッチ操作に対応した13.3型有機ELディスプレーを搭載するノートPCだ。最大の特徴はディスプレーが中央で180度折り曲がる点で、折り畳むと手帳のような形になり、軽快に持ち運べる。製品には外付けのワイヤレスキーボードと手書き入力できるペンが付属する。20年12月24日現在の直販価格は32万7426円(税込み)からとなっている。
この折り畳める機構により、様々なスタイルで利用できる。まず、折り曲げた状態でキーボードを載せれば小型ノートPCになる。狭い場所や膝の上でPCを広げて作業したいときに便利なスタイルだ。
広げると解像度2048×1536ドットの、やや大きめの13.3型タブレットになる。縦横比率は4:3で、縦向きでも横向きで使いやすい。
そして横向きにすると電子書籍を見開きで読みやすくなる。少し折り曲げると書籍を持っている感覚で読める。漫画など見開きページのある電子書籍を楽しむのによさそうだ。
背面にはスタンドを備えており、横向きに広げて自立させられる。これを机の上に置き、手前にキーボードを配置すれば、コンパクトな液晶一体型デスクトップPCに早変わり。このスタイルにすると、大きな画面と置く位置を自由に選べるキーボードにより、小型ノートPCスタイルよりも楽に作業できる。
ThinkPad X1 Foldは、コンパクトに折り畳めるので小さいかばんでも持ち運びやすく、その機構を生かして柔軟なスタイルで使えるのが最大のメリットだ。レノボ・ジャパンでは、PCやタブレットで仕事をしたり、スマートフォンで予定を確認したりするなど、複数のデバイスを持ち歩いて使っている人に向いたデバイスと位置付けている。複数のデバイスの機能をカバーすることで、フレキシブルな働き方を提案するのが狙いの製品だ。
美しく実用性の高い折り畳み機構
折り畳んた状態で手に持つと、コンパクトだがずっしりと重みのある印象だ。直販モデルの重さは約973グラム、付属キーボードは約178グラムで、合計すると1.15キログラムになる。13型クラスのモバイルノートは1キログラムを下回る製品が増えているので、やや重めだ。
しかし、折り畳むことで非常に持ち運びやすくなる。一般の13.3型モバイルノートをかばんに入れて運ぶとき、ディスプレー天面などを圧迫して壊れはしないか心配になる。平面サイズが半分になるThinkPad X1 Foldではそうした心配はあまりしなくて済む。小さいので出し入れが楽にできるし、小さいかばんにも入る。
ディスプレーの開閉はストレスなくスムーズにできる。見事なのは開いても折り目やシワが全く目立たないことだ。光にかざすとようやく筋が確認できる程度で、タブレットスタイルやデスクトップPCスタイルで使うときに意識させられることはない。
耐久性は実際に長期間使用しなければ確かめられないが、ThinkPadブランドのPCは高い耐久性を特徴の1つとしており、レノボ・ジャパンではThinkPad X1 Foldでも同様の品質を確保したとしている。表面は固く、付属のペンで強めに手書き入力をしても問題ない。明るさや鮮やかさなどの画質も良好だ。
折り曲げた状態で片側にキーボードを載せると、マグネットで正しい位置に固定される。載せると同時に、キーボードで隠れた部分の画面が無効化され、タスクバーやアプリは自動的に表示中の画面に移動し、コンパクトなモバイルノートPCを広げた状態になる。薄いキーボードでストロークは浅いが、やや固めの打鍵感で気持ちよく入力できる。少々厚みはあるが、膝の上に載せて作業したり、カフェの狭いテーブルで作業したり、あるいは路上で腕に抱えてキー入力したりといった使い方ができる。
大型タブレットやデスクトップPCにもなる
広げてタブレットとして使ってみた。まず13.3型というのはタブレットとしてはかなりの大きさで、例えば12.9型の米アップルiPad Proより大画面だ。サイズが大きく解像度も高いため、縦向きにすると縦長のWebサイトの閲覧にちょうどいい。ディスプレーを開くと完全にフラットになり、画面中央の折り目を気にせず利用できる。
横向きにすると電子書籍が読みやすい。電子書籍コンテンツをいくつか試したところ、画面サイズが大きく見開きページをきれいに表示できるので、特に漫画を読むときに快適だった。ただし前述のように重さが973グラムあるので、片手で持ち続けるのは厳しい。両手で持って使うのが基本になるだろう。
横向きの状態で背面のスタンドを広げると、自立させられる。角度調整はできないが、この状態で手前にキーボードを置けば前述のように液晶一体型のデスクトップPCとして使える。13.3型というとコンパクトなモバイルPCのディスプレーを想像するが、ThinkPad X1 Foldは縦横比率が4:3と正方形に近いため、実際にはかなり大きく見える。オフィスや自宅などで作業場所を確保できる場合は、このスタイルで使うのが便利だ。マウスを付け加えるとさらに使いやすくなる。ネット動画を視聴するのにも向いている。
背面は革カバーで覆われているが、このカバーはディスプレーを折り曲げる動作に合わせてスライドする。その他、高い弾性を持つカーボン素材を採用したり、ヒンジ部分を三軸織物を参考にした構造にして強度を高めたりなど、開発した日本の大和研究所の技術が盛り込まれている。
直販モデルはCPUがインテルCore i5-L16G7、メインメモリーは8GBで増設は不可、ストレージは512GBのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)を搭載する。CPUは開発コードネーム「Lakefield」で知られ、コンパクトで消費電力の低いデバイス向けに開発されたものだ。そのためCore i5搭載だが高い処理性能が必要な用途向きではなく、Webサイトの利用や、オフィスアプリなどビジネスアプリの利用がメーンの人向きだ。拡張端子はUSB3.1 Gen2対応のUSB Type-C端子を2つ備える。
人に見せたくなるPC
ThinkPad X1 Foldは大きなディスプレーを折り畳み、小さくして持ち運べるのが最大の魅力だ。折り畳みはスムーズで、モバイルノートPCスタイルやデスクトップPCスタイル、タブレットスタイル、どれも不便を感じることなく利用できた。自宅、外出先、オフィスなどどんな場所でも使えるフレキシブルなPCというコンセプトを実現できている。
直販価格が32万円台からとかなり高額だが、デザインや折り畳み機構は人に見せたくなるし、日本の技術を生かした新しいコンセプトのPCというストーリーにも魅力がある。目新しく話題作りにつながるPCを求めるアーリーアダプターやエグゼクティブ層にアピールできれば人気が広がりそうだ。
(写真/スタジオキャスパー)