カシオ計算機の腕時計「G-SHOCK」シリーズは熱心なファンが多い。2020年9月に発表された秋冬モデルの中でも異彩を放つのが、ベゼルとバンドをユーザー自身で交換できるG-SHOCK初の機能を持つ「DWE-5600CC-3JR」。着せ替えの楽しみとファン心理に訴えるストーリーを盛り込んだ製品だ。
G-SHOCKは高い耐衝撃性能とデザインが大きな魅力。ユーザーがバンドを交換できるモデルはこれまでにもあったが、「DWE-5600CC-3JR」は耐衝撃性確保において重要なベゼルも交換できるようにしたのが特徴だ。製品には時計のコアとなるケースに交換用ベゼルが2種類、交換用バンドが3種類付属する。希望小売価格は3万800円で、実勢価格は2万7800円前後(いずれも税込み)だ。
カシオ計算機 羽村技術センター 開発本部 開発推進統轄部 プロデュース部 第一企画室の泉潤一リーダーは、「G-SHOCKはベゼルやバンドを交換できないというイメージを払拭したい。気分やファッションに合わせて交換できるようにすることで、買った後の楽しみ方を訴求できる」と狙いを語る。
ユーザーが自分でベゼルを交換できるようになったのは、内部のモジュールを囲むケースに強度のあるカーボンファイバー強化樹脂を採用したからだ。ケースの4カ所には小さなツメがあり、ベゼルはそこに引っ掛けて固定する。
「ツメの造形が細かく、従来の素材では強度に不安があった。カーボンファイバー強化樹脂により、ユーザーが繰り返しベゼルを交換してもツメが破損しない強度や耐久性を保てるようになった」(泉リーダー)
G-SHOCKの製品企画で重視しているのは、「CMF」と呼ぶカラー、マテリアル、フィニッシュの3要素だという。DWE-5600CC-3JRでは、まずカーボンファイバー強化樹脂というマテリアルによりベゼルを交換可能にしたわけだ。
「G-SHOCKでは世界観と技術の融合というストーリーを大事にしている。ただデザインを変えるだけなく、技術の進歩を取り入れ、これまでの製品をいかに超えていくかが大事。ユーザーもそれを期待している」(泉リーダー)
デザインで面白いのは、G-SHOCKのロゴが一見すると見当たらないことだ。ロゴはケース側面にあり、ベゼルを取り外さないと見えない仕掛けになっている。これもカーボンファイバー強化樹脂によるもので、ケースに細かな加工ができるようになったからこそ実現した。
ベゼルやバンド、文字盤、バックライトなど各所に、内部に入っている基板の回路をモチーフにしたデザインを施した。バンドの一部はスケルトンにして金色のグラフィックを施すなど、カラーやフィニッシュでも新しい試みを取り入れている。
DWE-5600CC-3JRは初代G-SHOCKの流れを受け継いだスクエア型のデザインで、ソーラー充電や電波時計の機能がないシンプルなモデルだ。新しい試みを盛り込んだモデルを出すに当たり、このデザインと仕様を選んだのは、まずコアなファン層を狙うためだ。
「初代G-SHOCKのデザインには根強い人気がある。G-SHOCKの一番のファンに楽しんでもらうために、このデザインにした。着せ替え可能といっても、ただの色替えでは訴求しづらい。ストーリーを出したいので、コアなファン向けに内部基板の回路をデザインに盛り込んだ」(泉リーダー)
着せ替えは簡単。バックライトに驚き
実際に製品を手に取り、まずバンドを外してみた。付け外しは一般的な時計のバンド交換と同じ要領で、固定しているバネ棒を動かせば簡単に外せる。
次にベゼルを外してみた。外すための工具が付属するが、工具がなくても指先でベゼルを押し広げれば外せる。取り付けもベゼルをかぶせて押し込むようにすれば簡単だ。取り付けるとこれまでのG-SHOCKと同様にケースと一体化して、言われなければ取り外し可能とはわからない。
ケースは薄くコンパクトで側面にはへこみがあり、そこに埋め込む形でG-SHOCKのロゴが入っている。製品を初めてみたときに違和感を抱いたが、それは表面にG-SHOCKのロゴが見当たらなかったからだろう。
驚いたのはバックライトをつけたときだ。普通なら文字盤のディスプレー全体がただ明るくなるだけだが、このモデルは内部基盤の回路をモチーフにした模様でバックライトが点灯する。さらにそれがディスプレー周囲に施された模様と相まって1つのデザインになっている。G-SHOCKのファンなら思わずにやりとさせられそうな仕掛けだ。
DWE-5600CC-3JRにはベゼルは2種類、バンドは3種類付属するので、6種類の組み合わせが楽しめる。黒のベゼルに、バンドの1つは緑の回路デザイン、もう1つは黒とグレーのデザインにするといった、3つのパーツすべてをばらばらに選んでも面白いだろう。交換用のバンドやベゼルの種類がもっと増えれば、楽しみ方が大きく広がりそうだ。
この着せ替えの仕組みを使えば、例えばユーザーが好みのケース、ベゼル、バンドを選んで組み合わせるセミカスタムオーダーを展開することもできるだろう。今後のG-SHOCKの展開に影響を及ぼすかもしれない意欲的なモデルだ。
(写真/スタジオキャスパー)