アップルが2020年10月に発表した5G対応の新iPhone 12シリーズ。まずは20年10月23日に発売された「iPhone 12」と「iPhone 12 Pro」を使い込んでみた。ビジネスパーソンにお薦めできるiPhone 12シリーズの特徴を解説する。
4つの「5G対応iPhone」、違いはどこ?
まず新しい5G対応iPhone 12シリーズ4機種の大まかな違いと特徴を整理しよう。
基準となるモデルは6.1インチのSuper Retina XDRディスプレイを搭載する「iPhone 12」だ。背面には広角と超広角レンズのデュアルレンズカメラを搭載。カラーバリエーションは新色のブルーを含む5色。ストレージは64/128/256GBから選べる。
本機と同じ性能を持つ「iPhone 12 mini」は5.4インチのSuper Retina XDRディスプレイを搭載するコンパクト機だ。画面占有率の高いオールスクリーンデザインのiPhoneとして最も小さなハンドヘルドサイズのiPhoneになる。
「iPhone 12 Pro」はiPhone 12のカメラ性能を強化した上位モデルだ。望遠レンズを追加したトリプルレンズカメラを搭載する。6.1インチのSuper Retina XDRディスプレイはiPhone 12と同じ仕様。カラーバリエーションは4色。128GBから始まる256/512GBのストレージサイズが選べる。
そしてiPhone史上最大サイズのモデルが、今回ラインアップに加わった6.7インチのSuper Retina XDRディスプレイを搭載する「iPhone 12 Pro Max」だ。大きさ以外の本体のデザイン、仕様の多くはiPhone 12 Proと共通だ。広角レンズのカメラはセンサーのサイズがさらに大きく、望遠レンズのカメラを高倍率にした。動画撮影時には高度な手ぶれ補正機能が働くところなど、カメラ性能は4機種の中でトップに位置付けられる。
5G対応に合わせてデザインを一新
4つのiPhone 12シリーズはいずれもアップルが自社で開発する最新の「A14 Bionic」チップを頭脳として搭載する。iPhoneによる高精細な動画の撮影、およびiOSに初期搭載されている「写真」アプリによる編集は、iPhone 11 Proと比べてさらに余裕を持って速くこなせる。
5GはSub6(サブシックス)と呼ばれる4G LTEと互換性の高い通信方式をサポートする。5Gがつながらない場所では、従来通り4G LTE方式で通信できる。これはiPhoneに限らず他の5G対応スマホの場合も同じだ。
生体認証は、本体フロント側に搭載するTrueDepthカメラによる顔認証「Face ID」をiPhone 11シリーズから引き継ぐ。現行モデルではiPhone SEだけが搭載する指紋認証Touch IDセンサーが、オールスクリーンデザインのiPhoneに搭載される機会は今回も見送られた。
iPhone 12シリーズの本体は側面パネルのエッジを立たせたシャープなデザインに変わった。6.1インチのiPhone 12もしっかりとしたグリップ感が得られるので、片手で持ってもスムーズな操作が可能だ。
フロント面には、強化ガラスで知られる米コーニング社とアップルが共同で開発した新素材「Ceramic Shield」を使っている。ガラスに透明なナノセラミック素材を混ぜて強度をアップした。耐落下性能は従来のiPhoneと比べて4倍も高くなったそうだが、むしろバッグに入れたiPhoneの画面が、鍵などの持ち物に擦れて細かい傷が付くのを防げるのがいい。液晶保護フィルムを着けずに使えそうだ。
カメラ性能が「Pro」に匹敵するiPhone 12
アップルは直販サイトでSIMロックフリーのiPhone 12シリーズを販売している。注目はストレージが64GBのiPhone 12は8万5800円(税別、以下同)、iPhone 12 miniは7万4800円と、お手ごろ価格で購入できる5G対応スマホである点だ。
国内では春から大手通信キャリアが5G対応のモバイル通信サービスを開始している。既に中国や韓国の端末や、国内ではシャープが5G対応で10万円を切る5Gスマホを送り出して話題を振りまいている。20年10月にはグーグルも5G対応で10万円を切る新しいPixelシリーズを発売したばかりだ(関連記事:手ごろな高級機 グーグル「Pixel 5」は5Gスマホの定番になるか)。
今後5Gサービスの普及を後押しするのは、恐らく10万円を切るミドルレンジ価格帯のスマホだろう。そこにアップルがしっかりとハイスペックで、なおかつ値ごろ感のあるiPhone 12とiPhone 12 miniを投入してきたことで、5Gの普及に弾みが付きそうだ。
発表後から注目されるiPhone 12 miniは、コンパクトサイズのスマホ人気が高いアジアと欧州の市場で引き合いが強くなると思われる。5Gスマホは高速通信時にモデムから発生する熱の処理と、これに伴う駆動時消費電力の効率化が当面の課題とされている。特に前者については筐体(きょうたい)が大きいほうが、放熱処理のための内部構造が工夫しやすくなる。にもかかわらず、あえて「世界最小サイズの5Gスマホ」としたことでアップルの技術力をアピールすることが、iPhone 12 miniを投入する1つの狙いなのだろう。
ハイスペックな2つのiPhone 12 Pro/Pro Maxは、アップル製品の熱烈なファンや最先端のガジェットを好むコア層のハートをしっかりつかむだろう。ただビジネスパーソンにとって最もお買い得なモデルは、機能面で「Pro」に肉薄するiPhone 12だ。
何よりiPhone 12はカメラの出来が非常に優秀だ。特に開放絞り値がF1.6という、iPhone 12 Proと同じ明るいレンズを搭載した広角カメラでは、明るい場所と暗い場所の両方で精細感のある色鮮やかな写真が撮れる。最も使用頻度の高い広角カメラの底力が一段上がったことにより、ビジネスシーンで必要とされる写真や動画の記録はデジタルカメラを持たなくてもiPhone 12で事足りてしまうだろう。
ビジネスシーンでいつ5Gが役に立つのか
今回、auの5G対応のSIMカードをiPhone 12 Proに装着して、東京都内を中心に5G通信が利用できる場所を歩いてみた。5G対応エリアについては、サービスを提供する各通信キャリアがWebサイトなどでマップを公開している。しかし実際はこのマップはそれほど当てにはならない。まだ5Gが心地よく使えるエリアは限定的というのが、実際に使ってみた印象だ。
ただ5Gで接続できた場合は、やはり4G LTEと比べて数倍以上速い下り(ダウンロード)側の通信速度を得られることが多かった。上り(アップロード)のリンクも十分に速く、安定している。5Gによる高速で安定した通信環境が確保できれば、ビジネスシーンならビデオ会議がより快適だろうし、オンラインストレージを介したファイル共有もスムーズにできるに違いない。
5G通信の特徴である「高速・大容量/低遅延/同時多接続」のメリットを最大限まで引き出せるといわれる「ミリ波」のサービスを待たなくても、現状のSub6でつながれば、5Gの恩恵は十分に受けられそうだ。今後はオフィスや住宅エリアにも、できるだけ早く5Gエリアを広げてもらいたい。
MagSafeの登場でiPhoneアクセサリーが活気づく
アップルが発表したiPhone 12シリーズの新しいMagSafeアクセサリーも面白い。iPhone 12シリーズの背面に設けられているマグネットに吸着してバッテリーをチャージできるワイヤレス充電器や本体ケース、レザー製のパスケースなどがiPhone 12シリーズと同時に発売された。
ワイヤレス充電は好みが分かれるところだが、iPhoneに素早く着脱できるアクセサリーの使い勝手は悪くない。マグネットでしっかりと固定されるので外れにくい。ミニプロジェクターのようなプレゼンテーションにも使えるツールや車載用アクセサリーなど、iPhoneの機能を拡張するアクセサリーが数多く発売され、市場が活気づくことを期待したい。
(写真/山本 敦、画像提供/アップル)