米アップルは2020年10月23日、第4世代の「iPad Air」を発売した。上位モデルの「iPad Pro」に迫る高性能モデルだ。今回、ビジネスパーソンの視点で魅力的な仕事の道具となり得るか検証してみた。
「ワンランク上」でiPad全体のニーズを刺激
2019年の秋に米アップルが発売した第7世代の「iPad」は、3万円台からという低価格ながら独自開発の高性能A10 Fusionチップと、ドキュメントの閲覧・作成などの作業に最適な10.2インチのRetinaディスプレイを搭載して売り上げを伸ばした。初めて別売オプションとしてアップル純正のSmart Keyboardに対応し、Bluetoothワイヤレスマウスも使いやすくなったこともあり、iPadをノートPCの代わりに選ぶビジネスパーソンが増えた。
このスタンダードクラスのiPadユーザーが、ワンランク上のiPadに買い替え・買い増しを考えているなら、今回の新しいiPad Airが視野に入ってくる。アップルには「iPadからステップアップしたくなるiPad」をラインアップに加えることで、iPad全体のニーズを刺激しようとの狙いがありそうだ。
新iPad Airは指紋認証センサーのTouch IDを内蔵するトップボタンを本体の側面フレームに移し、画面占有率の高いオールスクリーンデザインに生まれ変わった。画面サイズは10.9インチ、アップルのデバイスとして初めて新世代のA14 Bionicチップを搭載したことで、マルチタスクも軽快にこなせる。
フラッグシップである11インチの「iPad Pro(128GB・Wi-Fiモデル/8万4800円・税別、以下同)」と、何もカスタマイズの手を加えていないボトムラインの販売価格を比べると、iPad Air(64GB・Wi-Fiモデル/6万2800円)のほうが2万2000円も安い。しかもカラーバリエーションは5色をそろえる。スタンダードクラスのiPadよりも高性能で見栄えもするiPad Airは、仕事環境に差を付けたいビジネスパーソンに最適なデバイスと言えるだろう。
Magic Keyboardが仕事の生産性を高める
では具体的にどのような機能がビジネスシーンで役に立つのか。
先に述べた指紋認証センサーのTouch IDの搭載で、マスクを着けたままでもiPad Airの画面ロックが解除できる。上位モデルのiPad ProはFace IDによる顔認証を採用しているため、マスクを着けたままのロック解除ができない。パスコードの入力が必要だ。頻繁にポケットやバッグから出し入れするiPhoneに比べて、iPadの画面ロックを解除する機会は多くはないものの、withコロナ時代の今、外出を伴うミーティングやプレゼンテーションの機会にiPad Airを取り出し、マスクを着けたままでも素早く仕事モードに突入できるのは便利だ。
アップルが20年4月に発売したiPad用Magic Keyboardは、新iPad Airでも使える。Magic Keyboardのタイピング感はとても安定しているし、キーボードバックライトを搭載しているため暗い場所でもキーが打ちやすい。「フローティングカンチレバー」によりiPad Airの画面の傾きを調節しながら、iPadとキーボードを膝に乗せた状態でも軽快にタイピングができる(関連記事:iPad ProにMagic Keyboardは必要なのか?)。
Magic Keyboardにはトラックパッドが搭載されているのでマウスとしても使える。当然、iPad Airの表裏をぐるっと包み込む保護カバーの役割も担う。
ステレオスピーカー内蔵、ビデオ会議の音声が聞きやすい
さらにMagic Keyboardには充電用のUSB Type-C端子があり、iPad Air背面のSmart Connector端子を経由してiPadのパススルー充電ができる。その間、iPad Air本体のUSB端子が空くので、USBストレージを接続してドキュメントの読み書きなども行える。iPad AirをノートPC的に使いこなすのであれば、Magic Keyboardはぜひそろえたい。
iPad Airには画面を横に構えたポジションで、左右側面に開口部が向く2基のステレオスピーカーが内蔵されている。ビデオ会議で試してみると、サウンドはとても力強く、人の声がよく聞こえる。マイクも内蔵しているのでハンズフリー通話が可能だ。
iPad Airは高速無線LAN規格の802.11ax(Wi-Fi 6)をサポートしている。同じ規格に対応するWi-Fiルーターと組み合わせれば、ビデオ会議などの通信がとても安定する。20年秋に発売された新しい第8世代のiPadが対応するのは802.11acまでなので、将来性を考えればWi-Fi 6対応のiPad Airを選んでおくのが得策だろう。
実力はiPad Proと互角
iPad Airには最新のA14 Bionicチップが搭載された。これにより、例えば2つの画面に1つずつアプリを同時に表示して操作できる「Split View」機能によるマルチタスクがスムーズにこなせるようになった。
動画再生やゲームなど、プロセッサーに負荷のかかりそうなタスク処理も安定している。例えば部屋の空きスペースに家具の立体グラフィックを表示して、部屋の模様替えをシミュレーションできるAR(拡張現実)アプリも動作は軽快だ。
一般的なビジネス用途の範囲であれば、A14 Bionicを搭載するiPad Airと、1つ前の世代のチップをベースに強化を図ったA12Z Bionicを採用するiPad Proの実力は互角と言って差し支えないだろう。
軽量コンパクトで書き味も優れている第2世代のApple Pencilに対応する点も含め、新iPad AirはビジネスパーソンがノートPCの代わりとして本気で乗り換えを検討する価値のあるiPadに仕上がっている。その実力は「ほとんどiPad Pro」と評価できる。値が張るためiPad Proの購入をためらっていたビジネスパーソンや多くのクリエイターにとって、魅力的な選択肢となり得るに違いない。
(写真/山本 敦)