スバルのスポーツワゴン、新型「レヴォーグ」が2020年10月15日に正式発表された。最新の高度運転支援システム「アイサイトX」を搭載し、安全性に磨きをかけた。最新モデルの実力を検証しつつ、「安全」をブランドの柱として確立させようというスバルの狙いを探った。

スバルの人気スポーツワゴン、レヴォーグの新型。価格は310万2000円から409万2000円(税込み)
スバルの人気スポーツワゴン、レヴォーグの新型。価格は310万2000円から409万2000円(税込み)

地道な努力の積み重ねで「安全」ブランドを構築

 すがすがしいまでにトレンドを追わず、“らしさ”を貫く。それが、新型「レヴォーグ」の開発に当たってスバルが選んだ道だ。具体的には、イマドキはやりのSUV(多目的スポーツ車)……ではなく、ワゴン・スタイルを踏襲。パワートレインにはイマドキはやりのハイブリッド機構……ではなく、スバルの真骨頂である水平対向ボクサーエンジンとシンメトリックAWDの組み合わせを選択している。

 世界シェアの1%を占めるにすぎない――その事実を知れば、なぜ、スバルがトレンドを追わないかが理解できるだろう。トヨタやフォルクスワーゲンのように世界シェアの10%以上を押さえている自動車メーカーなら、地域ごとの需要に寄り添ったマーケティングを展開する必要もあるだろう。だが、世界の「100台に1台」という時点で、個性を貫く意味が生まれる。

 スバル自身が考える「らしさ」の中でも、最も重視しているのが安全性の追求だ。ここで1つ、マーケティング分野に詳しい人なら、当然、疑問に感じることがあるはずだ。外観のカッコよさや室内の快適性といったパッと目につく点よりも、あえて目に見えない安全性能にこだわるのは、なぜなのだろう……と。

新型レヴォーグは悪天候にも強い4WD(スバルはAWDと呼ぶ)を全グレードで標準装備する(画像提供/スバル)
新型レヴォーグは悪天候にも強い4WD(スバルはAWDと呼ぶ)を全グレードで標準装備する(画像提供/スバル)

 実際、自動車の安全性能は、長らくコストセンターだと思われてきたし、正直なところ、コストを押し上げる要因であるのは否めない。しかも、万が一の事故のときにだけ「あってよかった」と感じる装備なだけに、ユーザー側も安全装備にお金をかける意識が低かった。

 ところが、ことスバルに関しては最大の市場である米国で、「スバル=安全」のイメージでブランドを構築しているのだ。何しろ2019年の販売台数が約104万台であるのに対し、米国市場だけで70万台を販売しているのだから、いかに北米市場がスバルにとって大きな位置を占めるかが分かるだろう。

 では、なぜ米国で「スバル=安全」というブランドを構築できたのか。実は米国IIHS(Insurance Institute for Highway Safety=道路安全保険協会)によって行われる安全性評価において、スバルは常に好成績を収めてきた。その積み重ねによって、安全性がスバルの価値としてユーザー層に浸透しているのだ。

 例えば20年には、最高評価となる「トップセイフティピックプラス(TSP+)」を4つ、「トップセーフティピック(TSP)」を5つも受賞している。安全基準をクリアしているだけか、と侮ることなかれ。このIIHSによる評価は突然、厳しいテストが加わることで有名なのだ。米NCAPという米国の衝突安全基準をクリアしていても、IIHSのテストでは悪い結果が出ることもある。独自で厳しい基準を設けている上に年々、厳しくなるのだから、ここで高い評価を獲得し続けるのが、いかに難しいことかが分かるだろう。

 今回も「スバルはX年連続で受賞……」と強調したいところだが、スバルはずっとトップセーフティピックを受賞し続けているため、今さら感が漂うのは否めない。筆者が記憶する限り、05年にはすでに「レガシィ」で受賞していたのだから、スバルの安全装備に関しては筋金入りと言っても過言ではない。

「レヴォーグ」は国内市場の大黒柱

 新型レヴォーグは2代目に当たるが、事実上はそのレガシィの後継モデル。レガシィが日本市場向けとしては大型化しすぎたため、14年にボディーサイズや装備面といった日本市場特有の要求を満たすべく専用開発されたのがレヴォーグだ。日本市場の縮小に伴い、本国のプライオリティーが高くなくなった日本の自動車メーカーもあるが、ファンの声を無視せず、律義に日本市場向けモデルをつくり続けるのも“スバルらしさ”だろう。

こちらは比較試乗用に用意された初代レヴォーグ。今乗ってもその走りのレベルは高い
こちらは比較試乗用に用意された初代レヴォーグ。今乗ってもその走りのレベルは高い

 初代レヴォーグは「STI Sport」なる最もスポーティーな仕様の割合が30%と高い。またベースモデルとなる1.6リッターターボモデルの累計販売台数も11万台と、スバルの国内市場を支えてきた大黒柱だけに、今回のモデルチェンジにかける意気込みは相当なものだろう。

 市販に先立って、最大のセリングポイントである「アイサイト」の進化ぶりを体験できる先行試乗会が開催された。アイサイトとは、「ぶつからないクルマ?」のコマーシャルで一世を風靡した安全装備である。エントリーを担う「XV」や「インプレッサ」でも、アイサイトが標準装備されていることもあって、スバル車には「クルマが自分で止まる機能が搭載されている」というイメージが定着している。

 その実力を検証すべく、実際に試乗したインプレッションをお届けしよう。

シャープな印象、新型レヴォーグに先行試乗

 青空が広がるテストコースに、ずらり並んだ新型「レヴォーグ」。世間はとにかくSUVブームだというのに、このスバルの基幹車種はワゴンスタイルを踏襲している。ボンネットの下には、アイサイトと並ぶスバルの象徴ともいえる水平対向エンジンが鎮座。搭載される新型1.8リッター直噴ターボユニットは全グレード共通で、これまた新型のリニアトロニック(CVT、無段変速機)と組み合わせることで最高出力177ps、最大トルク300Nmを発揮する。

よりシャープな印象となった新型レヴォーグ。コの字形のヘッドランプは水平対向エンジンをイメージしたもの
よりシャープな印象となった新型レヴォーグ。コの字形のヘッドランプは水平対向エンジンをイメージしたもの

 この水平対抗ユニットもまた、“スバルらしさ”の1つ。エンジン内で向かい合うピストンが、互いに振動を打ち消し合う。さらに重心が低いため、走りの魅力を引き出せる理想のエンジンといわれている。しかし実際には、スバル以外ではポルシェくらいしか量産していない。個性的であるということは、裏を返せば汎用性に乏しく、すべて専用開発になってコスト高につながるためだ。

 それでもあえてスバルがこのエンジンにこだわり続けるのは、「安全なクルマをつくる」ことを追求し続けるため。「きちんと走って、曲がって、止まる」という基本性能は、運転のしやすさ、ひいては安全性につながる。当然のようにも思えるが、現実には「法規を満たしていれば十分」とギリギリまでコストを削減する選択肢もある。しかしながら、スバルは航空機メーカーに端を発するだけに、安全性への意識は常に高い。走行性能の追求と、アイサイトのような先進安全機能を標準装備することとは、実は同じ考えの延長線上にあるのだ。

リヤランプもヘッドランプに合わせたコの字形を採用。ベースグレードのGTは17インチ、上位グレードのGT-HとSTI Sportは18インチタイヤを装着する(写真はSTI Sport)
リヤランプもヘッドランプに合わせたコの字形を採用。ベースグレードのGTは17インチ、上位グレードのGT-HとSTI Sportは18インチタイヤを装着する(写真はSTI Sport)
スバルの六連星をイメージした六角形のグリル(ヘキサゴングリル)とボンネット上のエアインテーク(空気取り入れ口)がスバル車の特徴だ
スバルの六連星をイメージした六角形のグリル(ヘキサゴングリル)とボンネット上のエアインテーク(空気取り入れ口)がスバル車の特徴だ
流行のSUVではなく、重心の低いワゴンスタイルを貫くのは「走りへのこだわりのため」とレヴォーグの開発責任者を務めたスバルの五島賢氏(商品企画本部プロダクトゼネラルマネージャー)は語る
流行のSUVではなく、重心の低いワゴンスタイルを貫くのは「走りへのこだわりのため」とレヴォーグの開発責任者を務めたスバルの五島賢氏(商品企画本部プロダクトゼネラルマネージャー)は語る

 19年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカーと比べて、量産に伴って、エクステリア・デザインのエッジが抑えられたものの、先代モデルと比べてシャープになった印象だ。デザイン言語も従来までの「Dynamic × Solid」から、「BOLDER」へと刷新している。従来はスバルブランド全体のメッセージを伝えてきたが、「より大胆に」を意味する「BOLDER」とした背景には、個々のモデルの個性を大胆に打ち出す意図がある。といっても、まだまだ控えめな印象だが……。

 ヘキサゴングリルとコの字形ランプを強調した顔立ち、サイドからリアエンドに続くキャラクターライン、ぐっと踏ん張ったタイヤなどが力強さを演出している。コの字形ランプは自慢の水平対向エンジンを象徴し、力強く張り出したタイヤはこちらもスバルの個性であるAWDを象徴している……なんてウンチクはさておき、頼もしさを感じるスタイリングだ。

「視界の良さ」や「走りの良さ」も安全性能のうち

Aピラーによる死角を最小限に抑えた見晴らしの良さもスバルの伝統の1つ
Aピラーによる死角を最小限に抑えた見晴らしの良さもスバルの伝統の1つ

 ワゴンスタイル故に、SUVやミニバンと比べると低い位置に座るにもかかわらず、運転席からの見晴らしがよく、後席やサイドの視界もしっかり確保されている。運転席に滑り込んで、シートに素直に身を委ねるだけで正しいドライビング・ポジションが取れ、視界を確保するためにのぞき込んだり、首を左右に強く振ったりする必要もない。細かい点に感じるかもしれないが、これが特に長距離ドライブでは、疲れにくさとなり、ひいては安全性につながるのだ。

新型レヴォーグは旧型と乗り比べれば誰でもはっきり分かるほど走りの質が向上している
新型レヴォーグは旧型と乗り比べれば誰でもはっきり分かるほど走りの質が向上している

 テストコース内の限られたシーンではあるが、ハンドリング路に加えて、高速道路に模した周回路を走行し、走りと新しいアイサイトを体験できた。ハンドリング路に乗り入れて、すぐにハッとした。思い返してみると、筆者は初代「レヴォーグ」の発売当時、その優れた走行性能を褒めまくった。だが新型をテストした後では、初代レヴォーグで感じたはずのリニアなフィーリングが色あせて感じてしまう。それほど新型の走りが圧倒的に良くなっている、ということだ。特にクルマ好きでない方でも、新旧2台を乗り比べればその違いは明確に感じ取れるだろう。

 特筆すべきは、操舵(そうだ)フィーリングが大幅に向上している点。ステアリングホイールを手のひらで押すように操舵をすると、その違いがよく分かる。インフォメーションが豊かに伝わってきて、クルマの鼻先が自分の手足の延長にあるかのような扱いやすさを感じる。

STI Sport/STI Sport EXは、ダンパーの硬さやエンジンの出力特性、ステアリングの重さ、前後トルク配分などを好みに合わせて変更できるドライブモードセレクトを搭載
STI Sport/STI Sport EXは、ダンパーの硬さやエンジンの出力特性、ステアリングの重さ、前後トルク配分などを好みに合わせて変更できるドライブモードセレクトを搭載

 最上位グレードのSTI Sport/STI Sport EXには、コンフォート、ノーマル、スポーツ、スポーツ+4種類から走りを選べるドライブモードセレクトが搭載されている。コンフォートを選ぶと、しゃきっとした切れ味のよさは保ちつつも、しなやかな乗り心地を確保してくれる。さらにエアコンまでもが湿度を保ち、乾燥を抑えるマイルドな設定にしてくれるという念の入れようだ。スポーツやスポーツ+に切り替えれば、鋭い加速感が得られ、ほどよく粘りながらもカチッとした足回りで走りを楽しめる。

高度運転支援を新たな次元に引き上げた「アイサイトX」

 走りと並ぶ、新型レヴォーグのもう1つのハイライトはアイサイトだ。ここで整理しておくと、新型レヴォーグにはすべてのモデルに最新世代のアイサイトが標準搭載される。従来のアイサイトの機能を強化し、対応範囲を広げたものだ。新型レヴォーグにはステレオカメラに加えて、新たに四隅にミリ波レーダーを搭載。交差点での右左折時や、見通しが悪い路地から出るときなど、人間の目からは死角になりやすい場所に潜む危険まで察知し、必要に応じて警告を出したりブレーキをかけたりしてくれる。

 この標準装備のアイサイトに加え、さらにスバルは新たな高度運転支援システムを搭載した「アイサイトX」を用意。全グレードとも、プラス35万円で装着モデルが選べる。そして、この「アイサイトX」がすごかった。何と高速道路などの自動車専用道路において、時速50キロメートルまでのフルハンズオフ(手放し運転)を実現。周囲の状況を把握してスイッチひとつで車線変更できる自動レーンチェンジも搭載した。さらに高精度3Dデジタルマップと準天頂衛星を使った正確な自車位置の把握により、カーブの手前や料金所などで自動減速してくれる機能まで備えた。

運転席前の液晶メーター内で自車の車線が青色表示されているときはハンズオフが可能。テストコース内で試した限りでは、挙動はとても自然で安定しており、不安になることはなかった
運転席前の液晶メーター内で自車の車線が青色表示されているときはハンズオフが可能。テストコース内で試した限りでは、挙動はとても自然で安定しており、不安になることはなかった
一定時間よそ見をしていると、ドライバーモニタリングシステムが警告を出す。それでもハンドルを握らず無視していると、ハザードランプや警笛で周囲に異常を知らせるとともに、自動的にブレーキをかけて車線内で停止する
一定時間よそ見をしていると、ドライバーモニタリングシステムが警告を出す。それでもハンドルを握らず無視していると、ハザードランプや警笛で周囲に異常を知らせるとともに、自動的にブレーキをかけて車線内で停止する
料金所に見立てた三角コーンに近づくと、自動的にブレーキをかけて減速してくれた。新たに高精度3Dデジタルマップを搭載したことで実現できた機能の1つ(画像提供/スバル)
料金所に見立てた三角コーンに近づくと、自動的にブレーキをかけて減速してくれた。新たに高精度3Dデジタルマップを搭載したことで実現できた機能の1つ(画像提供/スバル)

 実際に試してみると、ハンズオフ可能な状況では液晶メーターの表示が青色になる。そこでハンドルから手を離すと、スムーズな運転でレーンをキープしながら走って行く。時速50キロメートル以上のときでも、ハンドルのタッチセンサーに軽く触れてさえいればクルマが自動的に速度とレーンを保って走行してくれるから、「高速道路ではほぼ自動運転」と言いたくなるほどの仕上がりだ。

 もちろん、あくまで運転の最終責任はドライバーにあるから、運転中は常に周囲に注意しておかなければならない。アイサイトXはドライバーの状況を監視するモニタリングシステムも装着しており、一定時間以上よそ見をすると警告を発する。それでも警告を無視してよそ見を続けると、最終的にはクルマが自動でハザードランプを点滅し、警笛を鳴らして周囲に異常を知らせながらレーン内で停止する。これはドライバーが病気の発作で意識を失うなどの緊急事態の際に、クルマが暴走するのを防ぐためだ。

開発責任者を務めた五島賢氏(左)は、親子3代スバルに勤めてきたという生粋の「スバリスト」だという
開発責任者を務めた五島賢氏(左)は、親子3代スバルに勤めてきたという生粋の「スバリスト」だという

 かたくななまでにトレンドを追わず、プラグマティック(実用的なもの)を旨とする。マーケティング重視の今の時代、そんな実直なクルマが生き残っているというのも面白い。新型レヴォーグは、日本のファンの期待を裏切らないどころか、「走行性能」や「安全性」といった質実剛健さをクルマに求める人にとって、ベストな選択肢の1つといえるだろう。

(写真/出雲井 亨、画像提供/スバル)

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