米アップルは2020年9月18日、「Apple Watch Series 6」と「Apple Watch SE」の2機種を発売した。注目は最新のwatchOS 7を搭載し、フィットネスやヘルスケアのアプリを強化した点。コロナ禍で健康への関心が高まる中、新Apple Watchはその存在感を高めつつある。

右手前が「Apple Watch Series 6」、左奥が「Apple Watch SE」。ケースサイズはともに44ミリ
右手前が「Apple Watch Series 6」、左奥が「Apple Watch SE」。ケースサイズはともに44ミリ

最新チップ搭載で動作が機敏になった「Series 6」

 新型コロナウイルス感染症の影響が拡大し始めてから、テレワーク環境を整えるためにノートPCやタブレット、ワイヤレスヘッドホンなどIT家電の売り上げが伸びている。また自宅にこもる時間が長くなったことから、健康状態を自身で管理・維持するためにフィットネス・ヘルスケア関連のデバイスにも人々の関心が向きつつある。

 そうした中、登場した2種類の新型Apple Watch。メインストリームはもちろん上位モデルの「Apple Watch Series 6」(税別4万2800円から)だ。しかし、それより1万3000円ほど安い税別2万9800円から購入できる「Apple Watch SE」をアップルが投入してきた背景には、世界的に高まるフィットネス・ヘルスケアデバイスへの期待に応える狙いがあるのだろう。

 そうした状況を踏まえつつ、まずは2019年モデルのSeries 5と比べて、Series 6がどのように進化したのかポイントを整理していこう。

Series 6は前機種Series 5のデザインを継承しつつ、アルミニウムのケースにはブルーとレッドを新色として加えた。ケースのサイズは全てのモデルに44ミリ/40ミリがある
Series 6は前機種Series 5のデザインを継承しつつ、アルミニウムのケースにはブルーとレッドを新色として加えた。ケースのサイズは全てのモデルに44ミリ/40ミリがある
落ち着いた上品なカラーリングと質感のアルミニウム・ブルー
落ち着いた上品なカラーリングと質感のアルミニウム・ブルー

 Series 6にはアップルが独自に開発したSiP (システム化されたICチップ)の最新世代「S6」が搭載されている。S5チップを搭載するSeries 5と比べてアプリやアップルのAIアシスタント「Siri(シリ)」の起動が速くなった。

Siriを呼び出したときの反応がSeries 5よりも良くなっている
Siriを呼び出したときの反応がSeries 5よりも良くなっている

 S6チップは、S5チップに比べて駆動時に消費する電力が効率化されている。例えば文字盤がスリープ状態にならない「常時表示Retinaディスプレイ」。Series 5は手首を下げているときに少し画面が暗くなるが、Series 6は明るいままだ。しかも連続駆動時間はSeries 5と同じ、約18時間と変わらない。

 実機で試してみると、特に明るい環境で常時オンディスプレーの視認性がぐんと上がっていた。文字盤の細かい分針・秒針も見やすい。

晴天の屋外環境でディスプレーの明るさ設定をそろえて、手首を下げて少し暗くなった状態の表示を比較する。ともに常時表示Retinaディスプレイを搭載するモデルだが、左のSeries 5が明るい場所で見えづらくなるのに対して、右のSeries 6は針が指している位置がよく分かる
晴天の屋外環境でディスプレーの明るさ設定をそろえて、手首を下げて少し暗くなった状態の表示を比較する。ともに常時表示Retinaディスプレイを搭載するモデルだが、左のSeries 5が明るい場所で見えづらくなるのに対して、右のSeries 6は針が指している位置がよく分かる

 最新S6チップの搭載によって、内蔵バッテリーを残量ゼロの状態から100%までフル充電するのにかかる時間も、Series 5から1時間ほど短縮され、約1.5時間になった。体感的にも充電スピードはかなり速くなっている。watchOS 7に「睡眠」アプリが加わり、恐らくApple Watchを夜中も装着したまま眠る機会が増えるだろう。そうなるとベッドに入る前や起床後に、デバイスの充電にかかる時間が短くなるのはとてもありがたい(関連記事:20年秋登場のwatchOS 7 Apple Watchにビジネスチャンス到来)。また、在宅勤務中に急きょ外出を伴う要件が舞い込んできても、出かける前にチャージすればSeries 5よりも速く、より多くのバッテリー残量が回復できる。

睡眠アプリを活用するためにはApple Watchを夜中も身に着けなければならない。前後の時間に充電が手早く済むのであればSeries 6を選ぶ価値が十分にある
睡眠アプリを活用するためにはApple Watchを夜中も身に着けなければならない。前後の時間に充電が手早く済むのであればSeries 6を選ぶ価値が十分にある

新機能の「血中酸素ウェルネスアプリ」

 Series 6には新たに「血中酸素ウェルネスアプリ」が搭載された。血中に取り込まれている酸素のレベルをApple Watchの専用センサーで手軽に計測できる機能だ。

 アプリ化されている機能を立ち上げ、約15秒間手首をテーブルの上などに静かに置いて測定すると、画面に酸素レベルがパーセンテージで表示される。計測は任意のタイミングで行えるし、バックグラウンドで自動計測されたデータがiPhoneの「ヘルスケア」アプリに蓄積される。グラフ化されたデータは日・週・月・年単位でまとめて見られる。

新機能の「血中酸素ウェルネスアプリ」。任意のタイミングで血中酸素濃度が計測できる他、バックグラウンドでも自動計測が行われる
新機能の「血中酸素ウェルネスアプリ」。任意のタイミングで血中酸素濃度が計測できる他、バックグラウンドでも自動計測が行われる

 このアプリを使いこなすと、例えば日々のトレーニングの成果を振り返ってみる他、酸素の少ない高山で楽しむ登山やスキー、スノーボードなど、スポーツシーンにユーザーの体がどれほど適応できているか、目安を知ることが可能になる。それでも元がやや専門的なデータなので、将来はヘルスケアアプリのデータと連携する、ウエルネスやフィットネスのためのユニークなアプリを作ってもらいたい。

SEとSeries 6はどこが違うのか

 Apple Watch SEとSeries 6についても比べてみよう。SEのケースは44ミリと40ミリのサイズから選べるが、素材はアルミニウムのみ。色もSeries 6の5色に対し(アルミニウムの場合)、SEはシルバー、スペースグレイ、ゴールドの3色に絞られる。

Apple Watch SEのスペースグレイ
Apple Watch SEのスペースグレイ

 SEのSiP はSeries 5と同世代の「S5」を搭載する。パフォーマンスは最新世代のS6に軍配が上がるものの、まだ現役バリバリのハイスペックなチップである。当然、性能に不満は感じなかった。

 Series 6と同サイズの大きなディスプレーを搭載しているが、常時表示には対応していない。そのぶんバッテリーの消費が抑えられるとポジティブに捉えるべきか。内蔵バッテリーによる連続駆動はSeries 6と同じ約18時間だ。

 血中酸素ウェルネスセンサーや電気心拍センサーも、SEには搭載されていない。ただ、そのセンサーを使う心電図(ECG)や不規則な心拍を通知する機能は、日本ではまだ使えない。

本体の裏面。左はSeries 6で右がSE。搭載しているセンサーが異なるため、センサーのレイアウトが少し異なる
本体の裏面。左はSeries 6で右がSE。搭載しているセンサーが異なるため、センサーのレイアウトが少し異なる

英語圏6カ国でサブスクサービス「Apple Fitness+」開始

 血中酸素ウェルネスアプリやケースの素材、色にそれほどこだわりがなく、安くて高機能なApple Watchが欲しいならSEがベストな選択肢だ。スポーツやフィットネスのデータをトラッキングしたり、日々の健康チェックを実践したりするためなら、SEで不満を感じることはまずないだろう。ケースの質感も上々だ。

 ただ、実はもう1つSeries 6のみのハイライトがある。アップルが独自に開発した空間認識のための超広帯域無線チップ「U1」だ。今のところその用途は明らかにされていないが、今後“隠し球”的な新機能の発表が控えているのかもしれない。

 さらに20年末から北米や英国など英語圏の6カ国で、Apple Watchを中心とするAppleデバイス向けの新しいサブスクサービス「Apple Fitness+」も始まる。

 室内向きの種目でありながら、1人では習得しづらいヨガやダンスなどのワークアウトを、コーチのインストラクション動画とエクササイズに最適な音楽とともに配信するサービスだ。iPhoneやiPadなどの広い画面で見るコーチング動画と、Apple Watchに表示されるアクティビティモニタが同期する。月額9.99ドル(約1000円)という、リーズナブルな価格で健康増進・管理が図れる。モチベーションが持続するなら、動きが制限されるコロナ禍の状況にあっては、頼もしいサービスになるだろう。

アップルのフィットネス動画配信「Apple Fitness+」が年内に英語圏を中心にスタートする
アップルのフィットネス動画配信「Apple Fitness+」が年内に英語圏を中心にスタートする

 このようにアップルは、Apple Watchでもハードとソフトの両輪による独自のエコシステム強化に本気で乗り出してきた。特にフィットネス・ヘルスケア系の機能やサービスを豊富にそろえた部分に、「もうiPhoneユーザーには、他社のフィットネス・ヘルスケア関連のデバイスを身に着けさせまい」という、アップルの強い意思表示を感じる。

(写真/山本 敦)

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