パナソニックはコードレススティック掃除機「パワーコードレス MC-SBU840K」を2020年7月20日に発売した。注目は新開発の「からまないブラシ」。同社が掃除機のヘッドに回転ブラシを初搭載した1967年以来、「53年目の新発明」と自信を見せるヘッド内蔵ブラシだ。
ヒントはコップの「円すい形状」
コードレススティック掃除機「パワーコードレス MC-SBU840K」(以下、パワーコードレス)は、円すい形の2つのブラシが向かい合うように配置されたダブルブラシ構造で、中央部に空間が空いているヘッドが特徴だ。ブラシに巻き付いた毛を中央方向に移動させることで、中央の開口部を経由して吸引する仕組みになっている。
発売からの初動も好調で、「従来機種の『MC-SBU830J』(2019年8月発売)と比べて、発売後3週間の実数値では約2.5倍の売れ行きとなっている。宣伝量は去年と同じくらいだが、多くのメディアに取り上げられており、今後も伸ばせるのではないかと思う」とパナソニックのアプライアンス社日本地域CM部門コンシューマーマーケティングジャパン本部の上里浩司氏は話す。
開発に3年をかけたという、パナソニックこん身の掃除機ヘッド、その名も「からまないブラシ」。実際に試してみたところ、数本の毛糸がもののみごとに吸い込まれていった。ウィッグ(人工毛)をばらまいて試してみたが、難なく吸い込んでいき、1本もからみつくことがなかった。
商品企画を担当するパナソニックのアプライアンス社ランドリー・クリーナー事業部の北口和美氏は「ユーザーのグループインタビューで『ブラシに毛がからまる』という困りごとを聞かされ続けており、技術担当に対策を要望し続けていた」と話す。
そんな中、同社ランドリー・クリーナー事業部設計担当の堀部勇氏は、以前から採用しているV字ブラシで毛が中央と端部に寄りやすいことを発見。重ねられるプラスチックコップの円すい形状をヒントにして、円すい形のダブルブラシにたどり着いた。
「中央にごみを集めるV字形状を踏襲し、ブラシ毛の取り付け角度もより中央に集めやすい形にした。ブラシの毛量を従来の約1.9倍に増やしたことで、ブラシの間に毛が入り込みにくくなっている。また、前の壁と床面に沿うようにブラシを傾けると、前面に対しても床面に対してもブラシが平行になるようにしている。さらにブラシでかき取った毛を移動させやすいように、ブラシカバーにリブ(突起)を設けた」(堀部氏)
開発中に髪の長い家族がいる家庭やペットを飼っている家庭など、20軒以上で社内モニター調査をしたところ、全然からまないという評価をもらったという。「ペットを多頭飼いしている人からも感激の声をもらったので、これは自信を持って“いける”と考えた」(北口氏)。
「重さ」のマイナス面をヘッドの魅力が上回る
パワーコードレスシリーズの最上位モデルは「吸引力」に特徴を振ったモデルだ。キャニスター掃除機(同社「プチサイクロン」シリーズ)と同レベルの吸込仕事率205Wを実現したハイパワーモーターを搭載し、約20μmもの微細なゴミを検知する「クリーンセンサー」を備える。ゴミの量に応じて自動的に吸引力を調整してくれる「自動」モードにも対応している。
ヘッドのペダルを踏むだけで、ヘッドを取り外してすき間掃除ができる「親子ノズル」スタイルは従来モデルから継承。「子ノズル」には新たにLEDナビライトを搭載したことで、暗い場所のすき間掃除もしやすくなった。
吸引力がパワフルでクリーンセンサーなども便利だが、従来モデルから気になっていたのが「重さ」だ。
例えばコードレススティック掃除機でパナソニックとともにダイソンを追うシャープの最新モデル「RACTIVE Air EC-AR5X」(実勢価格7万500円・税込み、以下同)の標準質量(本体、バッテリー、パイプ、ヘッドの合計)は約1.2キログラム。同じく日立グローバルライフソリューションズの「パワーブーストサイクロン PV-BH900H」(同9万3200円)が同約1.9キログラムだ。それに対してパワーコードレスは約2.6キログラムと、他社に比べて明らかに重い。
確かに従来モデルと比べても約200グラム増えた重さはマイナスポイントかもしれない。しかし、パワーコードレスの掃除機としてのポテンシャルはもともと高かった。加えて今回、他社にはない「からまないブラシ」を採用したことが、「従来機の2.5倍」(上里氏)という好調な初動につながっていると考えられる。
「店頭に立つ販売員からも、『このブラシを全商品に搭載してほしい』という声をもらっている。ユーザーからの直接の声ではないが、市場でも求められているなと思っている」と上里氏も手応えを感じている。
新型のキャニスター掃除機にも搭載
パナソニックはパワーコードレスに加え、2020年8月25日に発売した紙パック式掃除機「MC-JP830K」(実勢価格5万9100円)とサイクロン式掃除機「MC-SR580K」(同6万2000円)、「MC-SR38K」(同5万5800円)と、キャニスター掃除機にもからまないブラシを一気に搭載する。
もともとからまないブラシはコードレススティック掃除機ではなく、キャニスター掃除機から採用する予定だったという。
「数年前から商品企画を計画するが、(パナソニックが)キャニスター掃除機のほうが強いということもあった。しかし市場が(キャニスター掃除機からコードレススティック掃除機へと)刻々と変わる中で、そこについて行くためにはスティックに載せていくという判断になった」(北口氏)
バッテリー駆動のコードレススティック掃除機はDC(直流)モーター、コード付きのキャニスター掃除機はAC(交流)モーターを搭載しており、それぞれパワーも異なる。開発したばかりのからまないブラシをそのどちらにも搭載するのは苦労があったと北口氏は振り返る。
「パワーが異なるため、ヘッドの真空度(床下に対する吸着度)が一緒だとキャニスターでは操作性が悪くなってしまう。デザインをうまく共用させながらも、穴が開いている山の数や大きさを変えるなどの工夫がなされている。ノズルに送る電圧もコードレスについてはモーターを使い分けてその都度設計するため、技術担当にはかなり無理を聞いてもらった」(北口氏)
コロナ禍で移動が制限される中、設計者が製造現場に行けないという困難もあった。「円すい形のブラシは作るのが難しい金型の構成だった。現場で実際に見ることのできない中、テレワークをしながらスケジュール通りに仕上げられたのはうれしい」と北口氏。
発売間もないため、ユーザーの声はまだ届いていないが、上里氏は「販売担当者からは、商品を説明すると、あの機能もこの機能もあるということで、顧客の反応は非常にいいと聞いている」と語る。
ペット飼育家庭へのマーケティングにも挑む
からまないブラシを搭載する掃除機のメインターゲットは「DINKS中心で、紙パックタイプだと年齢層が上がるのではないか」(上里氏)とのこと。「毛がからまない」という特徴はペットを飼っている世帯に大きく響きそうだが、これまではペットに的を絞ったマーケティングを行っておらず、これからの挑戦となる。
「ペットを飼っている家庭が多いのはご存じの通りだが、需要がどのくらいあるのかつかめていない状況だ。犬や猫でも毛が生え替わる種類とそうでない種類がいるので、それによってもターゲットが変わってくる。ペルソナを作って共感してもらえるマーケティングをしていく。この価格帯まで出してもらえるかはチャレンジだが、新たなプラスαとして見込みたい」(上里氏)
販売を拡大していく上で、年末にかけてテレビCMやトレインチャンネルなどを含めて認知を高めていく。ペットを飼っているユーザーに届くようなWeb媒体や雑誌媒体にも出稿し、新規顧客を取り込む施策を打っていくとのことだ。
からまないブラシはまず3機種4モデルに展開するが、今後はどのようにしていく予定なのか。
「からまないブラシは重要性が高いと思っており、コスト面などの問題はあるが、基本的に広げていく方向で考えている。受け入れ性を見極めながら、より幅広いお客様に使用していただけるようラインアップを強化していきたい」(上里氏)
(写真/安蔵 靖志)