キングジムは2020年7月1日、電子ペーパー搭載のデジタルノート「フリーノ」を発売した。Android OSベースの通信機能を内蔵した端末だが、タブレットと異なる使い勝手を実現。メモ代わりとして仕事で威力を発揮しそうだ。実際に使用し、その将来性について検証してみた。
発売直後に売り切れ、上々の滑り出し
キングジムのフリーノは6.8型の16階調グレースケール表示に対応した、電子ペーパーディスプレーを搭載するデジタルデバイス。本体のサイズはB6判程度で、専用デジタルペンを含む重さは約240グラム。片手で持ちながら文字を書いたりPDFなどデジタルファイルを読むのにも適している。さすがにスーツやズボンのポケットには収まらないが、通勤バッグに入れて持ち歩くのには最適だ。
内蔵する32GBのメモリーに約8万7000ページ分のノートが保存できるという。A6サイズ・36ページの紙のノートに換算すると約2400冊、重さ約85キログラムに相当する記録がコンパクトな本体に格納できるのだから、ビジネスツールとして威力を発揮しそうだ。実勢価格は税込み4万円前後。決して安くはないが、用意した台数が発売直後に売り切れてしまうほど出だしは好調だという。同社は初年度の販売目標を5000台に設定している。
キングジムの担当者によると、フリーノの企画自体は約10年前から始めていたそうだ。当時に比べて描画速度が向上したことなど、電子ペーパーに関連するいくつかの技術革新が相まったことが今回の商品化を後押しした。さらにフリーノの市場導入に当たり、クラウドファンディングのMakuake(マクアケ)を活用し、反応を確かめた。2019年12月4日にプロジェクトを立ち上げたところ、目標金額の500万円は応募開始からわずか約5時間でクリア。この圧倒的な支持が、商品化に向けた弾みとなった。
クラウドファンディングの支援者からは、紙のノートに蓄積されていく情報を管理する煩雑さを解消できるツールとして、フリーノに期待を寄せる声が多かったそうだ。本体の内蔵ストレージやmicroSDカードだけでなく、最終製品に搭載されたクラウドストレージのDropboxにデータを保存できる機能も好評を得たという。
それでは実際に使用しながら、人気の理由を探っていこう。
万年筆や鉛筆のような書き心地
フリーノの筆記には電磁誘導方式の専用デジタルペンを使用する。ディスプレーは静電容量方式のタッチ操作にも対応しているので、指でメニューアイコンの選択操作などもできる。
専用デジタルペンの書き味はとても心地いい。まるで紙のノートに万年筆、あるいは鉛筆を走らせて文字や線を書いているような筆記抵抗が得られる。デジタルペンは充電不要でとても軽く、筆運びに優れている。ペン先は使い込むほど消耗するため、小さくなってきたら交換が必要だ。
電子ペーパーは無数の微粒子サイズのマイクロカプセルを敷き詰めたデジタルディスプレーだ。マイクロカプセル内には白と黒の帯電顔料が詰まっていて、なぞるペン先に反応して電圧がかかり、中の顔料が移動し、文字や線などの図形が像を結ぶという仕組み。
電子ペーパーにはバックライトがないので、デバイス駆動時に消費する電力が液晶タブレットに比べて格段に低い。内蔵バッテリーは付属するUSB Type-Cケーブルで約140分チャージすると満充電になる。1日約15分間ノートを記入した場合、フル充電からおよそ10日間使えるスタミナを実現している。試しに1日15分を超える時間、使い込んでみたが、それでも数日はバッテリーの充電を気にせずに使用できた。
ただ、電子ペーパーだけだと暗い場所では使えない。そこでフリーノはフロントライトを搭載した。天面のボタンを押すとライトが素早く点灯する。明るさや色温度、画面表示のコントラスト感やシャープネス調整も行えるので便利だ。
仕事で頻繁に持ち歩くなら、ディスプレー側を傷付けないようキングジム純正のフリーノ専用カバーも同時に購入したい。内側にデジタルペンを収納できるホルダーもあるのでペンをなくす心配も減るはずだ。
PCに手書きのファイルを変換・書き出し
フリーノで作成したファイルはPDFやPNG形式に変換して、デバイスの外にエクスポートできる。万一に備え、PCや本体に装着できるmicroSDカードに保存しておくと安心だ。
フリーノにはWi-Fi接続機能もある。本体ソフトウエアのアップデートがデバイス単体でできるだけでなく、DropboxのクラウドストレージにWi-Fi経由でサインインし、ファイルの書き出し保存や読み込みができる。ネットワーク接続の手間を考えると、PCやmicroSDに書き出したほうが手早くできるが、Dropboxにファイルを置いておけばPCやスマホ、タブレットなど複数のデバイスからフリーノで作成したファイルが参照できるので、利便性が高まるに違いない。
値段は少し高めだが、期待が持てる
文書がPDFもしくはTXTの場合、そのファイルを読み込めば、フリーノを電子ペーパー方式のビュワーとして活用できる。JPEG形式の静止画を読み込んでフォトビュワーとしても使用できるが、グレースケール表示なので、あくまで補助的な機能と捉えたほうがいいだろう。
もう1つのメイン機能にカレンダーがある。月次の表示モードで1カ月単位の予定を俯瞰(ふかん)して、各日付に記載されている予定をタップすると詳細情報が見られる。紙のスケジュール帳やノートの筆記スペースを大きく上回る情報を書きためて、ポケットサイズのデバイスに入れて持ち運べる使用感は快適だ。フリーノの操作に慣れてくれば、紙のスケジュール帳やカレンダーのように、ページをめくって先月の予定を素早く振り返るような感覚の使い勝手も実現できそうだ。特に紙の手帳からの卒業を検討している人には、フリーノはお薦めできる。
フリーノはWi-Fi接続の機能を持っているのだから、アマゾンとコラボしてAmazon Kindleストアで購入した電子書籍も見られるようになると最高だ。もちろん他社の電子書籍プラットフォームでも構わないので、目が疲れにくい電子ペーパーを採用する「電子ノート+電子書籍リーダー」として使えるデバイスを実現してほしいと願うばかりだ。
フリーノを使ってみると電子ペーパーの書き心地がとても良く、バックライトがないため表示も目に優しい。消費電力を抑えつつ、書いた内容を常時画面に表示したままにできるので、ドキュメントビュワーとしても使い勝手に優れていた。何よりクラウドファンディングの時点で多くの支援者から期待されていた「複数ドキュメントの保存管理」がこの小さく軽い端末でできることは、他社のタブレット端末に比べてアドバンテージだろう。
デジタル文具としては少し値は張るが、普段からノートをよく使う人にとっては情報の整理整頓に効果を発揮してくれるし、長い目で見ればノート代の節約にもなる。今後は教育分野などユーザーのタイプや価格面で幅を持たせたモデルを増やし、「フリーノ」のシリーズ展開も見据えれば、さらに期待の持てるデバイスになり得るだろう。
(写真/山本 敦)