苦労した、燃えにくい素材探しの旅

 「TAKIBI Vest」というネーミングなので、当然、火に強い素材を採用している。たき火の火の粉が飛んできても穴が開くことはないし、はぜた炭が飛んできても問題ない。だが、たき火をするときに安心して過ごせる素材を見つけることは「難儀だった」と菅氏は打ち明ける。

 「開発を始めた16年当初、アパレルで使える難燃素材は存在しなかった。あるのは軍隊とかレスキュー隊員のユニホームに使われるもので、とても企業のアパレル事業単位で発注できるロットではなかった。当時、帝人が消防服などに使用するアラミド素材を作っていたので、TAKIBI Vestの発売前に別の商品で採用したこともあったが、上代が高くなりすぎてあまり売れなかった」(菅氏)

帝人と共同開発したアラミド100%の新素材。染色を可能とし、しなやかでソフトな触り心地を実現した
帝人と共同開発したアラミド100%の新素材。染色を可能とし、しなやかでソフトな触り心地を実現した

 試行錯誤の末にたどり着いたのが、綿素材に後加工で難燃性を付与する方法だ。その素材は現在、多くのアウトドアメーカーから発売されている難燃素材をうたった商品に使われている。しかし、あくまでも加工によって燃えにくくしている素材。洗うと効果が低下するため、半永久的な性能は保てない。そんなとき、難燃素材の新たな使い方を模索していた帝人から声がかかり、キャンプ用の難燃素材を共同開発することになる。

 「アラミド素材をアパレルに転用する発想はそれまでどこも持っていなかった。帝人と共同開発した素材はあくまでもキャンプ用途なので、肌離れが良くて着心地が良いもの、引き裂きに強いもの、オリジナルカラーで染められるもの、そういった要望を伝えていくつか試作した。その結果できたのが、アラミド繊維の『コーネックスネオ』という新素材を使用したキャンプ仕様の生地だ。難燃性を永久に担保できるアラミド100%を使ったメーカーは、国内ではスノーピークだけだろう」(菅氏)

背面のポケットに大量の荷物を入れるとバランスが悪くなるため、前身頃(まえみごろ)を二重構造にして前面にもポケットを確保した
背面のポケットに大量の荷物を入れるとバランスが悪くなるため、前身頃(まえみごろ)を二重構造にして前面にもポケットを確保した

 この新素材を採用した「TAKIBI Vest」は18年の秋冬シーズンから投入され、業界に衝撃を与えた。というのも、当時、難燃性を売りにした商品は各社から発売されていたが、ライターであぶってもびくともしないアラミド素材の難燃性は圧倒的だったからだ。

 「この素材ができたタイミングで、TAKIBI Vestをはじめ、スノーピークのたき火ウエアはすべてこの素材に切り替えた。ごわつきがなくて肌触りが良いのも特徴で、一見しただけでは難燃素材だと分からない。街でもキャンプでも使っていただき、自分の服になる味としての経年変化を楽しんでほしい」(菅氏)