米Apple(アップル)はスマートウオッチ「Apple Watch」の新OS「watchOS 7」を2020年秋に正式リリースする。20年6月に開催されたアップルの世界開発者会議で明かされた新機能に注目すると、Apple Watchを起点にしたビジネスチャンスの拡大が見えてきた。

2020秋に正式リリースされるwatchOS 7の新機能がWWDCで発表された
2020秋に正式リリースされるwatchOS 7の新機能がWWDCで発表された

文字盤のカスタマイズがさらに自由に

 Apple Watchは2020年の4月に発売から5周年を迎えた。毎年新しい機能を追加しながら、18年に発売した「Apple Watch Series 4」では画面のサイズアップを図り、ハードウエアとしても様変わりした。

 Apple Watchはユーザーが文字盤のデザインを自由に選び、必要なアプリケーションをApp Storeからダウンロードできるカスタマイゼーション機能を豊富にそろえるスマートウオッチだ。文字盤の上にはアプリや各種機能へのショートカットとなる「コンプリケーション」を配置して、ユーザーが使いやすくなるように自身で工夫を凝らせる。

 画面が大きくなったSeries 4以降のモデルから文字盤上に表示できるコンプリケーションの数も増えて、一目で参照できる情報量が充実した。watchOS 7から「1つのアプリから複数のコンプリケーションを文字盤に配置できる」ようになる。

 現在、ユーザーはアップル純正のコンプリケーションと、サードパーティーが開発したコンプリケーションを文字盤に配置してカスタマイズできる。ただしサードパーティーのコンプリケーションは、現在のところアプリを起動するショートカット以上に複雑な役割は担えない。

1つのアプリの機能を複数のコンプリケーションとしてApple Watchの文字盤に配置できるようになる
1つのアプリの機能を複数のコンプリケーションとしてApple Watchの文字盤に配置できるようになる
watchOS 6ではサードパーティーのアプリはショートカットをコンプリケーションとして配置できるところまでに止まっている
watchOS 6ではサードパーティーのアプリはショートカットをコンプリケーションとして配置できるところまでに止まっている

 もし1つのアプリからよく使う機能を複数ピックアップして文字盤に配置できたら、Apple Watchをランニングやダイビングなど特化した用途に活用できそうだ。アップルはその事例として、ナイキのランニングアプリや育児アプリ「Glow Baby」、サーフィン情報アプリの「Dawn Patrol」が提供する複数のコンプリケーションでApple Watchの文字盤を埋め尽くすカスタマイゼーションの事例を、プレスリリースの中で紹介している。

 こうしたユーザーの用途を際立たせる方向が加速すれば、ハードウエアとしてのApple Watchにも変化が生まれるかもしれない。例えばランニングに最適な「超軽量Apple Watch」や、水深50メートルを超えてさらに水圧の高い深海にも潜れる防水性能を備える「Apple Watch for ダイバーズ」のようなタフネスモデルを、アップルがバリエーションに追加する可能性も見えてこないだろうか。

文字盤の「シェア機能」を顧客の囲い込みに

 現在Apple Watchの文字盤は、アップルが用意する約30種類に及ぶ文字盤のデザインテンプレートをベースに、ユーザーがパーツを選んで自由にカスタマイズを楽しめる。watchOS 7からは、ユーザーがカスタマイズした文字盤をApple Watchのユーザーにシェアできる機能が加わる。

 新しいシェア機能は、カスタマイズした文字盤をメールやメッセンジャーを使って友だちや家族などに送れるだけでなく、ウェブやSNSに公開して、不特定多数のApple Watchユーザーがダウンロードして使えるようにもなる。この機能をうまく使えば、例えば店舗などが会員向けのノベルティーとして、あるいはスポーツチームがファンサービスとして独自の文字盤を無料配布するといった、囲い込みのサービスとして展開できるだろう。

アップルが提供するテンプレートを基にカスタマイズした文字盤を、ウェブやSNSを通じて配布できるようになる。コミュニティー向けサービスの活路になるかもしれない
アップルが提供するテンプレートを基にカスタマイズした文字盤を、ウェブやSNSを通じて配布できるようになる。コミュニティー向けサービスの活路になるかもしれない

「スリープテック」関連サービスの開発を促進

 watchOS 7にはアップル純正の「睡眠」アプリも追加される。Apple Watchがスリープトラッカーとしても本格的に使えるようになれば、健康管理・維持のためのウエアラブルデバイスとして使ってみたいという声が、筆者の周りからも聞こえてきた。

 この睡眠アプリはApple Watchを身に着けて眠ると、本体に内蔵する加速度センサーでユーザーが眠っている状態を検知して睡眠時間を計測し、履歴として蓄えた過去2週間分のデータをiPhoneやウオッチの画面で振り返ることができるというもの。起床時間になると、穏やかなサウンドと振動でユーザーを起こしてくれるアラーム機能も備えている。さらに眠りの質が高められるように、「就寝準備」と名付けたApple Watch独自のコーチング機能も備える。

睡眠時間の結果を過去2週間分、iPhoneとApple Watchの画面で確認できる
睡眠時間の結果を過去2週間分、iPhoneとApple Watchの画面で確認できる
眠りの質を高めるための「就寝準備」機能にアップルらしさを盛り込んだ
眠りの質を高めるための「就寝準備」機能にアップルらしさを盛り込んだ

 Apple Watchの睡眠記録によって得たデータは、iOSの「ヘルスケア」アプリに保存される。外部デベロッパーがユーザーの許可を得てヘルスケアの情報にアクセスし、アプリやサービスの開発に生かすためのHealthKitのフレームワークも整っている。欧米に比べて立ち遅れていると言われる、ITで睡眠の質の向上を図る「スリープテック」のアプリやサービス開発が、日本でも加速しそうだ。世界的に睡眠不足が指摘され、快眠ベッドやマットレスなど“睡眠ビジネス”への関心が高まっている日本だけに、Apple Watchが新たな睡眠サービスのキーデバイスを担う可能性もある。

 既存のApple Watchユーザーからは、日中身に着けているウオッチを睡眠アプリのため就寝中も身に着けるようになると、「いつバッテリーを充電するのか」という疑問の声も上がっている。就寝前後の時間に充電する使い方が考えられるが、次世代Apple Watchは内蔵バッテリーによる連続駆動時間の改善が図られるかもしれない。

 Apple Watchがベッドの中で身に着けるアクセサリーとしては大きすぎるとの指摘もある。女性でも身に着けやすい、よりコンパクトなApple Watchの登場に期待したい。

デジタルデバイスがwithコロナ時代の“守護神”に

 最後に紹介したい新機能が「自動手洗い検出」だ。Apple Watchを装着して手洗いを始めると、手を洗う動作や音を検知して自動的に20秒間のカウントダウンタイマーが起動するというもの。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、正しい手洗い習慣をユーザーに伝えるために開発された。

 同様の手洗いタイマー機能は、米Google(グーグル)が20年春に実施したソフトウエアアップデートにより、Wear OSを搭載するスマートウオッチで利用できるようになった。アップルのwatchOS 7は、手洗いの動作をApple Watchが自動検出してタイマー起動する点がユニークだ。手洗いの時間が理想的とされる20秒よりも短い場合は、もっと続けるように促すのも面白い。

Apple Watchを装着して手洗いを始めると、動作や音を検知して自動的に20秒間のタイマーが起動する
Apple Watchを装着して手洗いを始めると、動作や音を検知して自動的に20秒間のタイマーが起動する

 withコロナ時代における健康管理にフォーカスしたデジタルガジェットや既存製品の機能追加は、今後他社も提案を強化するだろう。例えば韓国LGエレクトロニクスは、UV(紫外線)照射による除菌機能を搭載するワイヤレスイヤホン「LG TONE Free」を、海外で発売している。

LGエレクトロニクスが海外で発売したワイヤレスイヤホン「LG TONE Free」。イヤホンをケースに格納する間、黄色ブドウ球菌と大腸菌の除菌に効果があると言われる紫外線を、イヤホン本体やイヤーピースに照射する
LGエレクトロニクスが海外で発売したワイヤレスイヤホン「LG TONE Free」。イヤホンをケースに格納する間、黄色ブドウ球菌と大腸菌の除菌に効果があると言われる紫外線を、イヤホン本体やイヤーピースに照射する

 スマホよりも体に密着させて使うスマートウオッチやイヤホンが、「コロナとの共生」を求められる時代の“守護神”として注目される日がそう遠くないタイミングでやって来るに違いない。watchOS 7の新機能の発表を受け、ライバル各社が20年秋以降にどんな手を打ってくるのか楽しみだ。

(写真/山本 敦、写真提供/アップル)