家庭はもちろん、キャンプシーンでも使われることが多い卓上コンロを、スノーピークらしくリデザインしたのが「HOME&CAMPバーナー」だ。鍋などを置く五徳部分を本体内にすっきり収納できる画期的な構造は、瞬く間に話題を集め、発売半年で4万5000台を売るヒット商品となった。
卓上コンロに“スタイリッシュさ”を加えた画期的モデル
スノーピークの「HOME&CAMPバーナー」は、その名の通り家庭でもキャンプでも使える卓上コンロを目指して開発された商品。使わないときはシンプルなボトル形状に収納できるのが最大の特徴で、部屋に置いてあってもインテリアになじむし、コンパクトになるのでキャンプなどへの持ち運びも便利だ。価格は税別9980円と、卓上コンロとして考えると高めだが、“スノーピークのギア”と考えれば手を出しやすい価格設定ともいえる。
2019年7月13日の発売時には、あっという間に初期ロットの約1万台が完売。その後も毎月1万台ずつ出荷するが、すぐに欠品してしまうという状況が3カ月続いた。
「ヒットの予感はあったが、市場の反応は想像以上。アジア地域では非常にポピュラーなガス製品である卓上コンロに、初めて“スタイリッシュ”という要素が加わったのが支持を集めた要因だろう。仕上げがきれいな卓上コンロは今までも存在したが、収納状態でコンロと分からない部分までデザインされた製品は、HOME&CAMPバーナーが初めてだと思う」と語るのは、スノーピークの設計本部・本部長の林良治氏。
19年10月以降は安定供給できるようになり、需要はさらに増加した。年末のクリスマス商戦とも相まって、19年12月末までに約4万5000台を売り上げた。これは近年発売されたスノーピークの新製品の中でも、「かなり好調な売れ行き」という。20年上半期の売上台数については公表していないが、発売1年を迎えた現在でも順調に推移しているようだ。
苦労して実現したトランスフォームギミック
筆者がこの商品を初めて目にしたのは、18年秋のことだ。翌19年度に発売されるスノーピークの新製品が一堂に会する展示会で、「HOME&CAMPバーナー」は異彩を放っていた。というのも、それまでのスノーピークはアウトドアでの使用を想定したギアが中心。そこに家庭の定番アイテムともいえる卓上コンロ、しかも子供の頃に遊んだ超合金のロボットのように変形するギミックを備えているのだから、注目を浴びないわけがない。会場に居合わせた記者やアウトドア業界関係者たちが、興味津々に開発担当者と話していた光景が、今でも印象に残っている。
しかし、その後の製品化までの道のりは長く険しかった。実際、発売時期はなかなか定まらず、何度も協議と改良、検証を続ける日々が続いたという。
「日本でLPガスを燃料に使った装置を販売するには、厳しい安全規格が存在する。法律を守りながら、安全でかつ革新性のある商品を生み出さなければならない点に苦労した。開発初期の設計構想では、現行法で構造分類が困難な部分が見つかり、これを一つずつクリアしながら開発しなければならず、量産する間際まで改良が続いた」(林氏)
家でも使えるキャンプギア、という新ジャンル
最近でこそインドアでもアウトドアでも、両方で使えるギア提案というのが多くのアウトドアブランドで見受けられる。しかし18年当時はまだ少数で、国内アウトドアメーカーの雄、スノーピークが“HOME”というキーワードを商品名に打ち出した際は、新たな時代の幕開けを感じさせた。
「製品名には、家庭の中で慣れ親しんでいる道具を、気軽に屋外に持ち出して楽しんでほしいという願いを込めている。“HOME”を商品名に取り入れた製品はこれが初めてだが、今後は“HOME&CAMP”の名を付けた製品が増えると思う」(林氏)
アウトドアでしか使えないギアであれば、おのずとユーザーの分母は限られる。家で使うものを外でも使いやすくというコンセプトにしたことで、より多くのユーザーがスノーピーク製品と触れ合うきっかけをつくった。これもヒットの一因だろう。
「カセットコンロは室内でも使用できる数少ないガス機器。『HOME&CAMPバーナー』はアウトドアデビューのきっかけづくりにもなっていると思う」(林氏)
実はコスパ抜群。ギフトや防災ニーズも
「家の中にあってスタイリッシュであること、それでいて外に持ち出すときはコンパクトになることを重要視して開発した。もちろん調理用バーナーとしての基本的な性能である火力と、屋外で使う耐風性も重要だった」(林氏)
当初のコンセプトは見事に具現化されている。HOME&CAMPバーナーを実際に使ってみて感じたのは、シンプルな構造にもかかわらず、五徳を広げてセッティングすると予想以上に安定感があるということ。本体の脚を含めた4点で支えてくれるので、土鍋など大きめの鍋でもぐらつかず、安心して使えた。火力や耐風性においても、普段キャンプで使っているシングルバーナーと遜色なく、アウトドアでの使用にも何ら問題は感じない。
家庭用の卓上コンロの場合、冬の鍋シーズンが終わった途端にお役御免となってしまうが、HOME&CAMPバーナーはその限りでない。収納サイズは水筒ほどで、重量も1.4キログラムしかない。そのためキャンプやピクニックなど、冬でなくても気軽に持ち運べて使えるので、利用頻度を考えればコストパフォーマンスは高いといえる。
「発売当初はキャンパーの方が多かったが、引っ越し祝いや誕生日プレゼントといったギフト需要もある。アウトドアはやらないが、防災用に購入していく人もいる」(スノーピーク広報部)
アウトドア用品の会社でありながら、一家に1台は欠かせない卓上コンロというカテゴリーでヒットを飛ばしたスノーピーク。今後もユーザーの裾野を広げるモノづくりが期待できそうだ。
(画像提供/スノーピーク)