キャンプを楽しむ上でこれからの季節に欠かせないのがタープ。アウトドアのリビング空間で屋根の役割を果たし、雨や日差しを遮るためのアイテムだが、中でもコアキャンパーから人気を集めているのがTheArth(ざぁ~ッス・埼玉県川口市)の「幕男(まくお)」だ。その全貌をひもといていこう。
韓国からのラブコールで誕生した「幕男」
キャンプは“不便”を楽しむもの。とはいえ、最低限の用具がそろっていないと辛いばかりで何も楽しめずに終わってしまう。特にこれからの季節は、突然の雨や強い直射日光への対策をいかに施していくかが、快適なキャンプには大事な要素だ。そこで欠かせない存在がタープである。
テントが寝床だとすれば、タープはリビングを覆う屋根のようなもの。テントの形状によってはタープの役割を兼ねるものもあるが、自然の中で快適なリビング空間を構築したければ、テントとは別にそろえておきたい必須アイテムといえる。
タープと一言でいってもその種類や価格は様々で、例えば家族4人用のモデルであれば相場は3万円前後。そんな中、2018年4月10日に登場して以来、定価5万円という価格帯ながら、依然としてバックオーダーが絶えない人気を誇っているのが「幕男」だ。「ヘキサテーブル」で知られる人気ガレージブランドTheArthが、韓国のアウトドアブランド「アーバンフォレスト」とコラボレーションしたタープである。その誕生の経緯について、TheArthのオーナー・大熊規文氏はこう当時を振り返る。
「僕は家具を中心に、ずっとモノ作りをしてきた人間。ビジネスマンでもないし、小売業は向いていないと思っていたので、知り合いから『ウチの商品も売ってください』という話をいただいてもお断りしていました。アーバンフォレストとの出合いは、自分が主催したキャンプイベント『六角祭』です。はるばる韓国から参加していただき、そのときに見せてもらったタープがとても縫製がよく、遮光性も高くて気に入ったのがきっかけです。先方も日本で展開したいということでしたので、それなら大好きなたき火が楽しめるタープを作ろうと意気投合したのが17年の11月でした」
韓国といえば、日本同様にアウトドアブームが真っ盛り。ヘリノックスといった大御所から、ミニマルワークスといった新鋭まで、数多くのブランドが日本上陸を果たし、成功を収めている。そんな日本市場でのけん引役として、TheArthの大熊氏に白羽の矢を立てたというわけだ。
初回販売分はまさに“瞬殺”
先述のとおり、タープの役割は雨や直射日光を防ぐこと。よって、撥水(はっすい)性や遮光性といった機能が高ければ高いほど快適に過ごせる。一方で、一般的なタープの素材は化学繊維が多いため、キャンプの醍醐味であるたき火との相性はよくない。火の粉が少し飛んできただけでも穴が空いてしまうので、タープの下(もしくは近く)でたき火を楽しむには、コットン素材など燃焼リスクの低い素材のモデルを選ぶ必要があった。そこに大熊氏は目を付けた。
「ヘキサテーブルを作ったきっかけもたき火。幕男を開発するに当たっても、やはりたき火を楽しめることだけは譲りたくありませんでした。そこで生地の表面と裏面、火の粉が当たる可能性のある部分に難燃コーティングを施しました。多少の火の粉であれば気にせずに、タープの下でもたき火を楽しめます。これはアーバンフォレストの製品にはない機能です」(大熊氏)
幕男のもう1つの特徴が豊富なカラーリングだ。通常、大手アウトドアメーカーのタープは、自社のテントと合わせたカラーリングのみの展開が多く、選択肢が少ない。その点、幕男は発売当時で全6色、現在では全11色から選べる豊富なカラーバリエーションが魅力となっている。
「タープは面積も大きいので、基本的にはテントとカラーコーディネートを楽しむもの。しかし、海外製のテントやレアなビンテージテントを使っていると、なかなかフィットするタープが見つからなかった。そこで、幕男はそれらのテントに合わせたカラー展開にしました」(大熊氏)
例えば「みどり」や「あか」はヒルバーグ、「きいろ」はザ・ノース・フェイスといった具合に、コアなキャンパーたちが愛用しているテントをリサーチして、そのカラーにそろえた。この戦略が狙い通りはまり、初回販売から大反響を巻き起こすことになる。
「発売する2週間前から、幕男の写真をInstagramにアップしていきました。問い合わせのコメントがいっぱい来ましたが、あえて無言を貫きました。そして18年4月9日に、『明日、正午から販売受付をします。先着順です。欲しい人は以下のメールに連絡ください』と投稿したんです。すると定刻になった瞬間、ものすごい量のメールが届きました。想像以上の反響でしたね」(大熊氏)
初回に用意した在庫は、各色10枚の全60枚。これがものの1分ですべて売り切れたというのだ。たき火が楽しめて、こだわりのテントとカラーコーディネートできる。そんなタープを待ち望んでいたキャンパーが大勢いたのだ。
さらに進化した新生「幕男」が登場間近
改めて幕男のスペックを見直してみよう。形は六角形の一枚布でできたヘキサタイプ。サイズは5×4.2メートルなので、4人家族で使うのにちょうどいいサイズだ。通常のヘキサタープと比較すると、やや低い位置に幕が広がる形状のため、たき火をしたり、かがまずに過ごしたりする場合は、長めの280センチポールが推奨されている。幕男にはポールが付属しないので、別途2本の購入が必要だ。
カラーは人気テントに合わせた単色の他にも、「しろ」「くろ」そして新色の「あお」などがそろう。他メーカーではあまり見かけない迷彩柄も豊富で、「マルチカムブラック」「ブラックタイガー」そしてTheArthのアイコンである六角形をモチーフにした「ヘキサカモ」など、個性を出したい向きにはうれしいラインアップだ。実際、テントに合わせて3~4枚所有する幕男のヘビーユーザーも多く存在するという。
筆者も幕男を使用しているキャンプに参加したことがあるが、印象的だったのは日影の濃さ。千葉県で行った炎天下のビーチキャンプだったが、幕男の下にいると木陰にいるような涼しさを感じられた。
また、ヘキサタープはガイライン(ロープ)を張る方向とテンションのバランスが重要で、慣れないうちはシワが寄ったり、たるんだりしてしまうことがある。だが幕男の場合はそれがない。生地にストレッチ性が備わっている上、グロメット部分に付いているテープの向きとガイラインの向きを合わせれば、正しい方向に引っ張ることができるのだ。こういった細かい部分まで行き届いた配慮はうれしい。見た目は非常にシンプルなタープだが、機能美にあふれている。唯一の欠点を挙げれば、“手に入りにくい”ということだろう。
「発売から丸2年がたちましたが、いまだにバックオーダーの状態が続いています。本当はもっと多くの人にお届けしたいのですが、メーカー側の生産体制もあって、月間100枚が限界。そのおわびというわけではありませんが、実はこの先にお届けするモデルは、バージョンアップしています。価格はもちろんそのままで、機能性は大幅に進化しているので楽しみにしていてください」(大熊氏)
いつも突然やって来るTheArthのサプライズ。今回のバージョンアップで、素材の強度がさらにアップし、遮光性能はLEDライトの明かりをほとんど通さないほどに進化。収納袋もオリジナルイラストが入ったスペシャルバージョンになっているとのこと。どうやら、入手困難な状況はこの先もしばらく続きそうだ。
(写真提供/TheArth)