愛知ドビー(名古屋市)が2020年4月21日に発売した「VERMICULAR(バーミキュラ)」の鋳物ホーローフライパンが好評だ。予約開始初日に約6000台を受注、4月29日には受注台数が2万台を突破した。6月5日現在、直販サイトで購入しても手元に届くのは8月末。早くも入手困難に。

バーミキュラ フライパンの特徴は水分の蒸発速度。250度に熱した状態では、5立方センチメートルの水が3秒で蒸発するという。同じ条件の場合、鋳鉄フライパン(コーティングなし)では94秒、フッ素コートのアルミフライパンでは312秒、ステンレス製のフライパンに至っては404秒もかかる(愛知ドビー調べ)
バーミキュラ フライパンの特徴は水分の蒸発速度。250度に熱した状態では、5立方センチメートルの水が3秒で蒸発するという。同じ条件の場合、鋳鉄フライパン(コーティングなし)では94秒、フッ素コートのアルミフライパンでは312秒、ステンレス製のフライパンに至っては404秒もかかる(愛知ドビー調べ)

水分を瞬間的に蒸発させればいい

 鋳物ホーローフライパン「バーミキュラ フライパン」を開発した経緯について、愛知ドビー副社長の土方智晴氏は「鋳鉄のフライパンはおいしく作れるが、重くて扱いにくく、さびやすい。鋳鉄のフライパンのおいしさを超える調理性能と扱いやすさを兼ね備えたフライパンを作ろうと考えた」と語る。

愛知ドビーが発売した「バーミキュラ フライパン」は、「26センチ」(税別1万5300円)と「24センチ[深型]」(税別1万4800円)の2種類
愛知ドビーが発売した「バーミキュラ フライパン」は、「26センチ」(税別1万5300円)と「24センチ[深型]」(税別1万4800円)の2種類
自立する専用蓋は26センチ用が税別3700円、24センチ用が税別3500円
自立する専用蓋は26センチ用が税別3700円、24センチ用が税別3500円

 「バーミキュラが作るべきフライパンは、市場でいいフライパンといわれる焦げ付かないフライパンではなく、料理をおいしく作れるフライパンだ」と土方氏。「いため調理は食材から出る水分との戦い。中華料理では高い火力と鍋振りの技術で水分を飛ばす。水分を瞬間的に蒸発させる機能をフライパンに持たせれば、『焼くこと』を再定義するフライパンになると考えた」(土方氏)

愛知ドビー副社長の土方智晴氏
愛知ドビー副社長の土方智晴氏

 土方氏は、鋳物をベースにホーローコートやフッ素コート、セラミックコートなどを施した試作品を作り、それらで料理を作ってみたという。その中で圧倒的においしくて耐久性も高かったのがホーローコート。理由は「水分の蒸発速度」だった。

 愛知ドビーが開発したホーローコートは、水分が蒸発しやすいことに加えて急冷急加熱に強く、耐久性の高いコーティングだという。

 土方氏は「ホーローコートは親水性が高く、高温のフライパンの表面で水が球状になって残り続けるライデンフロスト現象が起きにくい」と説明する。「たとえ水が広がっても、蓄熱性の高い鋳物の上ではすぐに蒸発する。ホーローと鋳物の組み合わせで蒸発しやすくなっている」(土方氏)

 実際にもやしいためを作って比べてみると、フッ素樹脂加工のフライパンではもやしから出る水分で、火を通す間にシャキシャキ感が失われてしまう。しかしバーミキュラ フライパンでは、いためているそばから水分が蒸発していく。これほど蒸発が速いと焦げ付きが心配になるが、フライパンを十分に熱して油をなじませてから調理すれば問題ない。

バーミキュラ フライパンで作ったもやしいため。食感はシャキシャキ
バーミキュラ フライパンで作ったもやしいため。食感はシャキシャキ
チャーハンもパラパラに仕上がる。フッ素樹脂加工のフライパンなどと比べると調理時間の短縮にもなる
チャーハンもパラパラに仕上がる。フッ素樹脂加工のフライパンなどと比べると調理時間の短縮にもなる
250度以上に熱したバーミキュラ フライパンに5立方センチメートルの水を入れたところ、あっという間に蒸発した
250度以上に熱したバーミキュラ フライパンに5立方センチメートルの水を入れたところ、あっという間に蒸発した

 バーミキュラ フライパンは、現在「26センチ」と「24センチ[深型]」の2種類だけだ。ラインアップについて土方氏は「より大きいフライパンの要望もある。レストランではフライパンごとオーブンやサラマンダー(料理に焦げ目を付ける調理器具)に入れることもあるため、プロの料理人からは(燃えない)鉄のハンドルがいいという声も出ている。今後もラインアップは増やしていきたい」と語った。

ブランド価値向上を支えた親身なサポート

 2020年に10周年を迎えるバーミキュラ。ブランド誕生以前の愛知ドビーは社員数15人、売上高2億円程度の鋳造メーカーだった。しかし、バーミキュラ登場以降の業績は右肩上がりで推移し、16年に発売した「バーミキュラ ライスポット」のヒットで一気に事業規模が拡大。現在は社員数約250人、売上高50億円を超えるまでに成長した。

 ブランドが急成長を遂げた理由について土方氏は「ありきたりだが、お客様との信頼関係を築けたことが大きい」と話す。「このフライパンの先行予約初日(20年3月26日)に約6000台の予約が入ったのは、『最高のバーミキュラ製品ができました』というメッセージをお客様が信頼してくれたから。だからこそ、誰も使っているのを見たことがない製品にもかかわらず予約してもらえた」(土方氏)

2010年発売の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ オーブンポットラウンド」シリーズ
2010年発売の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ オーブンポットラウンド」シリーズ

 築き上げたブランドの信頼を損なわずに価値を高めていく……そのために愛知ドビーが重視したのは「最初の顧客を大事にすること」だった。「社員数15人の会社が作った製品を買ってくれたお客様を大事にしている。その人たちを裏切りたくないから、最初に高い値段を付けて後から下げるようなまねもしたくない」と土方氏は言う。

 顧客が製品を使いこなせるように、サポートに力を入れているのもバーミキュラブランドの特徴だ。土方氏は「最初に鋳物ホーロー鍋を発売したときも『火加減がうまくいかない』と言う人がいたが、そういう人たちを放っておかずに対応してきた。社員数15人のときは僕が担当していたほど、コールセンターは重要だと思っている」と振り返る。

 コールセンターのメンバーは全員がバーミキュラ製品を持っており、誰よりも先に新製品を使っているという。製品を熟知したメンバーだからこそ、誰もが使いこなせるようになるサポートができたわけだ。

最高のバーミキュラ体験を提供、海外への拡大にも意欲

 愛知ドビーは19年12月、本社近くにレストランとベーカリーカフェ、ショップや料理教室などを集約した「バーミキュラ ビレッジ」をオープンしている。

 「バーミキュラ ビレッジは『最高のバーミキュラ体験』をうたい文句にして生まれた。体験型ショップでは全員に料理を体験して帰ってほしい。ショップはそれを可能にしており、そこが受けたと思っている」と土方氏は説明する。

 また土方氏は、常に最高のものを提供しないと逆にブランド価値を下げてしまうため、今のところバーミキュラ ビレッジを各地に展開する予定はないと話す。「とはいえ最高のバーミキュラ体験をしてほしいので、体験型ショップは増やしていきたい」(土方氏)

2019年12月にオープンした「バーミキュラ ビレッジ」。「ベーカリーは1000個のパンが約2時間半で売り切れ、レストランのランチも1時間半ほど待たないと入れない状況だった」と土方氏
2019年12月にオープンした「バーミキュラ ビレッジ」。「ベーカリーは1000個のパンが約2時間半で売り切れ、レストランのランチも1時間半ほど待たないと入れない状況だった」と土方氏

 一方で、バーミキュラブランドは海外進出も果たしている。18年には米国に支社を、19年には中国に現地法人を設立した。

 「米国ではトップシェフからの評判が良く、プロユースで広がっている。台湾では19年12月に発売したライスポットがよく売れている。中国では20年の7月ごろにライスポットを売り出す予定で、うまくいきそうな感触だ。韓国では現地法に対応中のライスポットは発売できていないが、オーブンポットラウンドの売れ行きは好調。中国・アジアでの展開にはかなり力を入れている」と土方氏。

16年に愛知ドビー初の家電製品として発売された「バーミキュラ ライスポット」
16年に愛知ドビー初の家電製品として発売された「バーミキュラ ライスポット」

 今後の抱負について土方氏は「おいしい料理を作ってみんなで楽しむことは、家の中での最高のエンターテインメントになる。今後も状況を見ながら、バーミキュラブランドができることを発信していきたい。家族の絆を深めることにバーミキュラブランドを役立ててもらえるのではないかと思う」と語った。

(写真/安蔵 靖志、写真提供/バーミキュラ)