昨今のキャンプブームを語る上で欠かせない存在がガレージブランド。メジャーなアウトドアブランドのギアを卒業したコアなキャンプ愛好家から支持を集め、ここ数年その数はうなぎ登り。中でもキャンパー憧れの六角形テーブルがTheArth(ざぁ~ッス・埼玉県川口市)の「ヘキサテーブル」だ。

たき火を囲むためにTheArth(ざぁ~ッス)が開発した、六角形の「ヘキサテーブル」。組み立て式で、3本脚で自立する構造だ
たき火を囲むためにTheArth(ざぁ~ッス)が開発した、六角形の「ヘキサテーブル」。組み立て式で、3本脚で自立する構造だ

即完売当たり前、人気高まるガレージブランド

 現在、キャンプを楽しむためのギアは百花繚乱(りょうらん)の状態にある。老舗のメジャーブランドはもちろん、海外から次々と上陸する新しいアウトドアブランド、作り手のこだわりが詰まったガレージブランドなど、ユーザーの選択肢はとにかく多様。中でもSNSやリアルイベントの場で勢力を拡大してきているのが「ガレージブランド」だ。

 ガレージブランドとはその名の通り、ガレージ(車庫)を拠点に生産販売を行うメーカーに由来するもので、小規模ながら品質の高いキャンプギア作りが魅力となっているブランドのこと。ブランド数はキャンプブームの盛り上がりと比例して増加しており、特にコアなキャンプ愛好家から絶大な支持を得ている。

 TheArth(ざぁ~ッス)はそんなガレージブランドの中でも、いま最も影響力のあるブランドの1つ。キャンパー目線でこだわり抜いて作られたアイテムやコラボ商品は、オンラインで販売すれば秒殺。「GO OUT CAMP」(主催:GO OUT CAMP実行委員会)や「FIELDSTYLE」(主催:FIELDSTYLE実行委員会)といったアウトドア関連の人気物販イベントでは、朝から長蛇の列ができて整理券を配布するほどの活況で、物欲にあふれたキャンパーたちを虜(とりこ)にしている。

 同社の代表作が六角形の「ヘキサテーブル」。インスタグラムをきっかけに火が付き、現在でも入手は半年待ちというキャンパー垂涎(すいぜん)のアイテムである。「たき火を皆で囲みたい」という理由から、TheArthオーナーの大熊規文氏が自分用に製作したのがそもそもの始まり。商品として販売を始めたのは2015年末のことだ。

 他社から発売されているたき火用テーブルの価格相場は1万~3万円。ヘキサテーブルは素材や柄にもよるが、平均価格は約6万円。売れ筋の2倍以上もする価格にもかかわらず、月に100台は売れていくという。

 「生産態勢を見直して、スタッフや専用機械を増やすことで19年度からは月産100台作れる状況になりました。それまでは月産20~30台でしたので、だいぶ増えています。それでも受注に対して追いついていないのが現状で、半年はお待ちいただく状況。雑誌などに取り上げられることも増え、認知も広がってきていて、正直、うれしい悲鳴ですね」(大熊氏)

TheArthの代表・大熊規文氏。2019年1月にオープンした店舗「TheArth-six」にて撮影
TheArthの代表・大熊規文氏。2019年1月にオープンした店舗「TheArth-six」にて撮影

インスタに投稿した画像で一気に火が付く

 それまでのアウトドアテーブルと言えば、四角いデザインがスタンダード。「たき火を囲むテーブルは当時もあったんですが、四角しかなくて。大人だと4人座るのが限界ですし、四隅がデッドスペースになってしまう。もっと心地よく、多くの人がたき火を囲める形状はないかと試行錯誤してたどり着いたのが六角形でした」と大熊氏は振り返る。

 実は大熊氏の本業は、店舗什器(じゅうき)などを手掛ける木工加工会社ビックベアー(埼玉県川口市)の経営だ。仕事の合間に試作品を作り、それをキャンプ仲間たちに配っていた。しかし木工加工のプロである大熊氏が作ったヘキサテーブルは高級家具のようなクオリティーで、多くの仲間たちが絶賛。ついにはインスタグラムで注目されることになる。

 「インスタグラムで『#キャンプ』のハッシュタグを付けて投稿したんです。そうしたらものすごい量の問い合わせが来まして……。当時は暇な時間にこつこつと作っていただけなので量産態勢はありませんし、在庫もゼロ。うれしかった半面、困りましたね」(大熊氏)

 じわじわ火が付いたのではなく、スタートダッシュで売れ始めたヘキサテーブル。それだけこのテーブルが革命的で、多くのキャンパーたちが待ち望んでいた商品だったという証しだろう。

ヘキサテーブルの製作に欠かせない5軸加工機。誤差の少ない正確なカットが行える
ヘキサテーブルの製作に欠かせない5軸加工機。誤差の少ない正確なカットが行える

手に入りづらいと、さらに所有欲をかき立てられる

 筆者がヘキサテーブルを初めて目にしたのもインスタグラムだった。独特な六角形状と天板にプリントされた柄の格好良さに、びびっときたのを覚えている。ところがいくら調べても値段やサイズ、問い合わせ先が見つからない。ホームページはなく、ネット通販サイトでもヒットしない。手に入れたくても、どうしていいのか分からない。まさに“謎の存在”であった。

 「1年前にTheArthの店舗をオープンしてからは、ヘキサテーブルの情報がいろいろと公になりましたが、以前はあえてベールに包んでいました。正式な商品名も、全部で何種類あるかも分からない。どこで買えるかも、誰が作っているかも分からないという、普通に考えたらひどい状態です。ちゃんと売って利益を出すという考えもあるのでしょうが、あくまでも趣味の延長でやっていることだったので、自分が楽しめる範囲でやりたいというのが本音でしたね」(大熊氏)

5軸加工機カットされた木材は、1つひとつを手作業でフィニッシュ。この後、塗装の工程を経て完成となる
5軸加工機カットされた木材は、1つひとつを手作業でフィニッシュ。この後、塗装の工程を経て完成となる

 店舗を構えた現在でも、ヘキサテーブルの受注や問い合わせのやり取りは、すべてメールに集約している。メールが届いたらカタログデータを送り返し、それを見たユーザーが、再度メールで発注する流れだ。プロモーションと呼べるものは、大熊氏のインスタグラムの個人アカウント(@rinomaco)のみだが、フォロワーが1万7000人もいるのだから影響力は強い。発売から5年がたった今でも、新規の問い合わせが1日に40件以上は届くという。

 「最近は製品開発のストーリーズが中心ですが、一度投稿するとだいたい4000人くらいが見てくれます。先日、アンケート企画をやってみたのですが、翌朝に新規で90件の問い合わせがありましたので、反響はまずまずですね」(大熊氏)

天板のバリエーションはとにかく豊富。素材、サイズ、デザインによって価格が変動する
天板のバリエーションはとにかく豊富。素材、サイズ、デザインによって価格が変動する

熱狂的なファンも多い、ヘキサテーブルの魅力

 ヘキサテーブルがここまでキャンパーたちを魅了するのは、とにかくたき火テーブルとしての完成度の高さゆえだろう。キャンプギアの基本とも言える設置と収納のしやすさはもちろん、こだわり抜いた素材や美しい仕上げは、高級家具と遜色がない。実際、自宅のリビングとキャンプ場で兼用しているユーザーも多い。

2020年の新作「集次郎(しゅうじろう)」。天板に集成材のフォトプリントを施したものだが、本物と見まがうリアルさ
2020年の新作「集次郎(しゅうじろう)」。天板に集成材のフォトプリントを施したものだが、本物と見まがうリアルさ

 「キャンプ用のテーブルなので、持ち運べるのが前提。ですから、基材には軽くて丈夫な18ミリのファルカタ集成材というものを使っています。表面の突板(つきいた)はウォールナット、バーチ、ゼブラ、黒檀(こくたん)などから選べて、その上にプリントすることも可能。サイズは大・中・小の3種類あって、掛け合わせると45種類以上になります。私もすべて把握しきれていません。人気があるのは高級なゼブラウッドにウレタン塗装を施した『しま次郎』ですね」(大熊氏)

 大熊氏のユニークなネーミングもヘキサテーブルの魅力の1つだが、ファンが熱狂しているのは、ラインアップの多さだ。3種類のサイズはそれぞれ用途が異なり、組み合わせて使用できるため、セットで購入する人も多数いる。中にはヘキサテーブルだけで9台所有するヘビーユーザーも存在するという。

 「企業のイベント用に限定プリントを施したモデルを出したり、ショップ限定でオリジナルデザインをプリントしたりという取り組みも増えてきています。19年末には木材に繊細なプリントができる機械を導入したので、これから何を作ろうかと楽しみです。家でも、いまだにずっとテーブルのこと考えています。『オレ、面白いな』と思いながらやってますよ。とにかく誰かにあおられるような気持ちになったり、これが本業で忙しくなったりしないように、マイペースで楽しんでやっていきたいですね」と、これだけのヒット商品になっても大熊氏に気負いは感じられない。

タイヤメーカーのTOYO TIRE(トーヨータイヤ)から、「アウトドアイベント用に」と依頼された1台限定のテーブル。タイヤ跡の柄を天板のデザインに採用した
タイヤメーカーのTOYO TIRE(トーヨータイヤ)から、「アウトドアイベント用に」と依頼された1台限定のテーブル。タイヤ跡の柄を天板のデザインに採用した

 常に新しいアイデアや既存の枠組みにとらわれない取り組みは、1人のユーザーとしても次の動向が楽しみでならない。キャンプ歴も長く、様々なギアを使ってきたベテランキャンパーたちを虜にするのは難しいが、そこは大熊氏自身がベテランのキャンパー。自分が欲しいもの、自分が新しいと思えるものを、一切の妥協なく生み出しているからこそ、ヘキサテーブルユーザーの輪が日々大きくなっているのだろう。

(写真/下城英悟、写真提供/TheArth)