米アップルは新しい「iPhone SE」を2020年4月16日(日本時間)に発表した。5月11日からNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各主要キャリアから発売される。高性能ながら小型かつ手ごろな価格が大きな魅力。成熟したスマホ市場に刺激を与える1台となり得るか。
最高性能のチップを搭載「iPhone SE」
新iPhone SEは、2016年の春に発売された4インチの「iPhone SE」からその名を譲り受けた。第2世代に当たる最新モデルは約4.7インチの液晶Retina HDディスプレイを搭載。本体の大きさとデザインは17年に発売された「iPhone 8」をほぼそのまま踏襲する。
指紋認証センサーのTouch IDを内蔵するホームボタンも健在だ。アップル独自の最高性能チップである「A13 Bionic」を搭載したことで、カメラはシングルレンズ仕様だがiPhone 11 Proにも迫る自然なボケ味を加えたポートレート写真など、高品位な静止画や動画が撮れる。
新iPhone SEは4G LTE通信までにしか対応していないが、ネット上の注目度では20年春に国内でもスタートした5G通信サービスに対応するスマホを追い越すほどの勢いだ。Apple Storeで4万4800円(税別)から購入できる手ごろな販売価格を実現したこと以外にも、消費者の関心を集める理由がありそうだ。
iPhone 11に迫るカメラ性能、小型故の長所と短所
新iPhone SEの性能を実機で検証してみた。やはりA13 Bionicチップの高い処理性能のおかげか、アプリを操作したときの反応やAR(拡張現実)コンテンツの描画など、正確かつ素早くこなす。iPhone 8が搭載するA11チップに比べて、A13 BionicチップはCPUが約1.4倍、GPUは約2倍にスピードアップしていると聞けば納得だ。
カメラは逆光の環境下でも、明部の白飛びや暗部の黒つぶれを抑えながらバランスのいい写真が撮れる「スマートHDR」を搭載した。何気なくシャッターを切るだけで簡単にきれいな写真が撮れる強力なサポート機能だ。機械学習専用に設けた最新世代のNeural EngineがA13 Bionicチップに統合されているので、ボケ味を生かしたセルフポートレートも、表裏両側のカメラで満足できる写真が撮れる。
iPhone 11シリーズに初めて搭載されたマルチレンズカメラには、超広角レンズが組み込まれている。またiPhone 11 Proが採用するディスプレーは発色の美しい有機ELだ。こうした上位機種が採用するこだわりのハードウエアとの差はあるが、それを除けば新iPhone SEの実力は上位機に肩を並べると言ってもいいだろう。むしろ写真や動画の撮影は、片手で軽快に扱えるコンパクトな新iPhone SEのほうが便利と感じるユーザーもいるに違いない。
ただ、iPhone 11シリーズと同じ感覚で長めの動画を撮影したり、ゲームにのめり込んだりすると、新iPhone SEのほうがバッテリー容量が少ないためか、減りが速く心もとなく感じた。
「高性能小型機」ブームが到来?
16年に発売された初代のiPhone SEもやはり、4インチという片手で持って画面の隅々まで正確に操作できるサイズ感が多くのユーザーに高く評価された。新iPhone SEでは、わずかながらも画面が大きくなったことを惜しむ声も聞こえてくる。
ただ初代機の発売から4年の時を経た現在では、デジタルエンターテインメントも相応の進化を遂げている。ギガビット級のモバイル通信環境を生かしてスマホで4K動画やAR技術を生かしたゲームが手軽に楽しめるようになった。故に大型バッテリーを内蔵し、高速通信や高精細なグラフィックスの描画を同時にこなすために、端末内部で発生する熱を効率よく逃がせる筐体(きょうたい)設計を確保すると、スマホのサイズは必然的に大型化する。
アップルは19年からモバイル向けの動画配信「Apple TV+」や定額制ゲーム配信「Apple Arcade」に代表されるコンテンツサービスをビジネスの柱に据えて、本格展開を始めた(関連記事「5G時代に動き出したアップル 3つのコンテンツサービスを解読」)。より大きな画面のiPhoneなら「モバイル向けコンテンツを楽しむときに高い没入感が味わえる」という、うたい文句を掲げてきたアップルにとって、小型でパワフルな新iPhone SEを現在のラインアップの中でどう意味づけるか迷う部分があるかもしれない。
新iPhone SEがヒットすれば、おそらくライバル他社も“高性能な小型機”を開発し、対抗馬としてぶつけてくるだろう。コンパクトなスマホを求める声は根強いため、バッテリー容量や5G対応との折り合いを付けながら各社がチャレンジしてくれば、成熟したスマホ市場に刺激を与える可能性は間違いなくある。
「マスクを着けたまま使える」が判断基準に
新iPhone SEにはホームボタンがある。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、外出時にはマスクが手放せない今だからこそ、マスクを着けたままでも画面ロックを解除できる、指紋認証機能がなおさら便利に感じられた。
アップルが新iPhone SEにTouch IDを残したことはこの疫病とは無関係だろう。しかしその一方で、顔認証機能のFace IDを搭載するiPhoneのパスコードによるロック解除をより簡易に行えるように、アップルが次期バージョンのiOSで機能アップデートを計画しているという海外メディアの報道もある。
新型コロナウイルスの感染対策として、日常からマスクを身に着ける習慣が日本以外の世界各地にも広がりつつある現在、新iPhone SEが世界各国で発売された後に、再びTouch ID機能の価値に脚光が当たることも考えられる。今後は顔認証以外の「マスクを着けたまま使える生体認証機能を搭載すること」が、スマホ選びの条件として多くのユーザーが注目するポイントになるかもしれない。
低価格でパワフルなスマホは正義
長引く新型コロナウイルスの影響により、在宅勤務を余儀なくされているビジネスパーソンや、自宅で勉強を続ける学生が多くいる。皆が普段通りの生活に一刻も早く戻れることを願ってやまないが、低価格で高性能な新iPhone SEが、不便な生活を強いられている人々にさまざまな利便性を提供する端末になってほしいと思う。
筆者も仕事の打ち合わせで新iPhone SEのFaceTimeアプリでビデオ会議をやってみたが、操作性もシンプルで快適だった。テレワークの導入が加速する現在、ビジネスパーソンにとってビデオ会議用のサブ端末としても心強い1台になりそうだ。
(写真/山本 敦)