このケースでいえば、まずPOS(販売時点情報管理)データの売れ行きや店頭の調査できちんと商品が並んでいるかどうかを確認した。商品がきちんと棚に並んでいなければ、流通戦略が失敗になる。だが、低価格帯商品であるオレンジの紙おむつはしっかりと棚に並んでいた。ただ、小型の店舗では既存商品の棚の一部が置き換わっており、手に取りづらい印象を受けたという。次はその手に取りづらいという仮説の検証だ。なぜ消費者に手に取ってもらえないのかをSNS上のクチコミや消費者への調査から洗い出す。

 まずSNS上では「パンパースから低価格帯商品が発売された」という認識がほとんど広まっていなかった。購入しない理由について消費者調査をすると、子供を持つ母親が紙おむつに求めることは「安心感」「安全性」であり、低価格帯商品はそのニーズを満たせていなかった。テレビCMを放送していないため、まず商品の認知率が低い。さらに目立たせることが裏目に出て、オレンジのパッケージがパンパースの関連商品として認識されていなかった。そのため、安心感を担保しづらかった。

 商品を認知したとしても「周囲の母親が使って、評判が確立してから購入しよう」という保守的な考えが先行して、手に取ってもらいづらいことが分かった。これも、安心感や安全性を醸成できなかったことが要因と考えられる。

 この失敗で瀬戸氏が学んだのは、消費者テストでの反応と実際の店頭での反応には違いがあるということだ。それを理解しきれなかったため、商品の個別最適に走ってしまった。「実際に店頭に並んだ時に、顧客である母親の目に商品がどのように映るのかといった、消費者心理の理解が足りなかった」と瀬戸氏は振り返る。

 この失敗はラフリー元CEOが提唱した、もう1つの概念で説明できる。それは「ファースト・モーメント・オブ・トゥルース(FMOT)」だ。消費者は小売り店の店頭で商品を目にした瞬間に、ブランドを選別しているという消費者心理を表している。この発案で店頭マーケティングが重要であるという認識を深め、売り上げを伸ばした。商品そのものの評価は高くても、手に取る瞬間の消費者心理を理解することが重要なのだ。

失敗を踏まえた施策で成功

 この学びを糧にして、次に瀬戸氏が挑んだのが高価格帯商品「パンパースのはじめての肌へのいちばん」シリーズのマーケティングだ。同商品は「Amazon.co.jp」で比較した場合、標準のパンパースより1枚当たり3~5割高い。「この数年で非常に成功している。プレミアムな紙おむつというカテゴリーをP&Gがリードしている」と瀬戸氏は胸を張る。日本市場での成功を受けて、中東や欧州でも瀬戸氏がマーケティングを手掛けた同シリーズのパッケージを採用した商品が販売されているという。

 瀬戸氏が高価格帯商品のマーケティングでとった策は、徹底した信頼の醸成だ。高価格帯商品ゆえに安心感や安全性の担保は一層重要になる。まず、信用を醸成するために病院でのパンパースの利用を促進した。病院でも使われている紙おむつであれば、十分な信頼を与えられると考えたからだ。そして、パンパースのはじめての肌へのいちばんのパッケージに「病産院に選ばれてNo.1」と記載したマークをあしらうことで、安全性を訴求。パッケージの色合いはパンパースブランドを想起しやすいように、薄い緑色を採用した。

 マーケティング的な観点でも病院への導入は重要だ。「現在、低価格帯、中価格帯の商品を使っている人を移行させることは難しい。赤ちゃんは生まれた直後のほうがより安心感を求める傾向にある」(瀬戸氏)。そのため、最初の接点である病院に目を付けた。退院後の継続的な利用が期待できるからだ。こうして高価格帯商品の成功を受け、より資源を集中させるために低価格帯商品の販売は終了を決めた。

 瀬戸氏は今、毎週末にジョギングをしながら、担当するブランドが店頭でどのように陳列されているかを見て回るのが習慣化しているという。それは商品だけを見るのではなく、消費者心理を理解する上で店頭を併せて見ることが大切だと身に染みたからだ。低価格帯商品はその姿を消したものの、得た経験は瀬戸氏の血肉となり、次なる商品のマーケティングに生かされている。