プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)マーケターの失敗とその乗り越え方に焦点を当てた本特集。2回目に登場する大江文アソシエート・ブランド・ディレクターは、かつてブランド・マネジャー昇進直後に大きな挫折を味わった。失敗のポイントはブランドを成長させる上での優先順位付けを誤ったこと。その反省を生かし、柔軟剤入り洗剤「ボールド」を成長へと導いた。

大江文アソシエート・ブランド・ディレクターはペットフードブランドでの失敗を糧に、柔軟剤入り洗剤「ボールド」を成長させた
大江文アソシエート・ブランド・ディレクターはペットフードブランドでの失敗を糧に、柔軟剤入り洗剤「ボールド」を成長させた

 「直属の上司から役員までもが、過去の失敗をありのままに話してくれる。その社風に魅力を感じて入社を決めた」。こう語るのは、P&Gジャパンで電気シェーバー「ブラウン」を担当する大江氏だ。学生時代に経済学部で金融を専攻しており、外資金融系企業への入社を念頭に就職活動をしていた。ところが、とある縁でP&Gの就職試験を受けることになる。そこで大きな衝撃を受けた。

 説明会に現れたP&Gの社員が、過去の失敗談を赤裸々に話し始めたのだ。その内容は、自分自身はスーパーマンだと思っていたが、米国の本社では失敗を繰り返して挫折を味わった。しかし、その反省が成長につながったという趣旨だった。「それまで受けた企業で、聞かされたのは成功体験だけ。P&G社員が、失敗から学びを得られることを率直に話す社風に魅力を感じた」と大江氏は振り返る。感動のあまり思わず涙がほほをつたったという。この体験が決め手となり、07年に新卒でP&Gジャパンに入社。その大江氏も大きな挫折を乗り越えている。入社5年目のことだ。

 大江氏は初めてブランド・マネジャーとして、ペットケアブランドを任された。P&Gでは早ければ20代でもブランド・マネジャーを任される。P&Gはいわばブランドを最小単位とした小さな会社の集合体だ。ブランド・マネジャーはさながら担当ブランドの“社長”とも言える存在。関連するさまざまな部署を指揮する権限を持つ代わりに、事業を伸ばす収益責任を負っている。大江氏は入社後ヘアケアブランドでアシスタント・ブランド・マネジャーとして経験を積み、ペットケアブランドのブランド・マネジャーに抜てきされた。そして、ペットケアブランドにおける犬用ペットフードで失敗を味わうことになる。

マーケティングプランが機能せず目標未達

 大江氏はヘアケアブランドで学んだ経験を生かし、P&Gのマーケティングフレームワークに沿って、マーケティングプランを綿密に計画した。ところが、そのプランが思ったように効果を発揮せず、売り上げは目標未達となったのだ。

 担当した犬用ペットフードブランドは、多数のメガブランドを持つP&Gの日用品と比べて規模が小さかった。それゆえマーケティング予算も潤沢とは言えなかった。加えて市場は縮小傾向にあった。ペットフード協会によれば犬の飼育頭数は08年の1万3101頭をピークに年々減少傾向にある。また「犬の小型化が進み、1頭当たりの食事量も減っていた」(大江氏)。厳しい市場環境下でブランドの成長を託された。

日本は犬の飼育頭数は2008年の1万3101頭をピークに減少傾向にある
日本は犬の飼育頭数は2008年の1万3101頭をピークに減少傾向にある

 そのマーケティング戦略は、P&Gの基本的なマーケティングフレームワーク「WWH」に沿って立案した。WWHは「Who」「What」「How」の頭文字が由来だ。Whoはターゲットを指す。Whatはそのターゲットに対して何を伝えたいのかを定める。Howはそれを具体的に伝える手段だ。要は誰に、何を、どのようにして届けるか。これがマーケティング戦略の基本なのだ。

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