非公式ながらフルマラソンで2時間を切り、東京マラソンでは日本新記録も打ち出した米ナイキの厚底シューズ。設計やシミュレーションなどでのデジタル活用、新素材、地道な検証の合わせ技だ。アプリやIoTシューズに次ぐ、本業のデジタルトランスフォーメーション(DX)と言える。なぜ速いのか。開発者を直撃した。
「2013年から開発を進めてきた集大成だ。プロトタイプが2時間を切ったことに誇りを感じている。東京(オリンピック)で登場することになるだろう」(米ナイキのフットウェアイノベーションを担当するトニー・ビグネルVP)
2020年2月5日、米ニューヨーク。ナイキの厚底シューズの新製品「Nike Air Zoom Alphafly NEXT%」の開発者メンバーは晴れ晴れとした表情で、発表会の会場に姿を現した。
それもそのはず直前の1月31日、ワールドアスレチックス(世界陸連)が示した基準を新型の厚底シューズが満たしていたからだ。ナイキと世界陸連の間で調整がなされたかどうかは不明だが、ギリギリのラインをクリアした。
具体的には、新たなレギュレーションは以下の通りである。

ソールの厚さは40ミリメートル以内の規制に対して、同シューズは39ミリメートル。まさに紙一重で回避した。詳しくは後述するが、反発力を生む金属プレートも3枚の搭載がうわさされていたが、実際には1枚だった。今回、4月30日以降に発売する製品は、大会までに4カ月市販していることという条件も設けられたが、既に発売しているのでクリアしている。
フルマラソンで2時間切り、東京でも日本新
ナイキの厚底シューズがマラソン界に旋風を巻き起こしたのはこの半年のことだ。
2019年10月、男子マラソンの世界記録保持者、ケニアのエリウド・キプチョゲ選手が非公式ながら、42.195キロメートルのフルマラソンで世界史上初の2時間を切るタイムをたたき出した。その際に履いていたのが、今回発表した「Nike Air Zoom Alphafly NEXT%」のプロトタイプだったのだ。
自身もプロランナーである開発チームのキャリー・ディモフ シニアフットウェアイノベーターは「ケニアに行ってキプチョゲ選手と話したが、『後半が新鮮に感じ、疲れなかった。翌日も楽だった』と教えてくれた。つまり、このシューズは速く走るためのクッション性を発揮しながら、足を守ることができているのだ」と説明する。
そして2020年3月1日に開催された東京マラソン。日本人トップで4位となった大迫傑選手は新モデルのAlphafly NEXT%を使っていた。大迫選手は自身の日本記録を20秒ほど縮める2時間5分29秒の日本新記録をたたき出す快走だ。実に1位から10位までの選手がナイキの新旧の厚底シューズを履いていたとされ、全体でも9割以上がナイキの厚底だという報告もある。
東京マラソンで1位となったのはエチオピアのビルハヌ・レゲセ選手で、2時間4分15をマークした。ナイキの従来製品の厚底シューズを履いていたという。
2020年1月に日本で開催された箱根駅伝。その時点で発売していた厚底シューズの製品版「Nike ZoomX Vaporfly NEXT%」を履いた選手が、次々と好タイムを記録し話題をさらった。10区間のうち7区間で記録が塗り替えられたが、実に6区間が同シューズを履いた選手だったのだ。
また、総合優勝した青山学院大学の選手10人は、全員が同シューズを履いてた。ちなみに同大学チームは独アディダスと契約しているため、表彰式ではアディダスのシューズを履いて登場するという一幕もあった。
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