クラウドファンディング(クラファン)を活用し、潜在ユーザーを巻き込みながら商品開発を進める動きが目立ってきた。その手法は、企業内に閉じた従来の商品開発と違い、「デザイン思考」に通じるところがある。実際の商品開発の舞台裏に迫る特集の第1回は、事務用品メーカーのキングジムを取り上げる。

デジタルノート「フリーノ」とクラフトペーパー製の専用カバー
デジタルノート「フリーノ」とクラフトペーパー製の専用カバー

 今や大手企業も利用するクラウドファンディング。数千万円ものファンディングに成功する事例が相次ぎ、ヒット商品も数多く生まれている。成功した商品の開発プロセスを見ると、潜在ユーザーとの共感をベースに、アイデア創出とプロトタイピングを繰り返し、商品をブラッシュアップしている。こうしたクラウドファンディングの成功事例をひもときながら、ユーザーを巻き込んだイマドキのデザイン思考型商品開発のポイントを探るのが、今回の特集の目的だ。

 事務用品大手のキングジムは、新製品の開発にクラウドファンディングサービス「Makuake」を活用し、6000万円超の資金を集めることに成功した。これは500万円の調達目標の約12倍に当たる。2019年12月から20年2月28日まで、新商品のデジタルノート「フリーノ」の発売に向けて活用した。

【特集】デザイン思考型 ヒット商品開発
【第1回】
6000万円集めたキングジムのクラファン 挑戦4回で得た新発見とは←今回はココ
【第2回】
クラファンで6600万円 自分起点のデザイン思考型開発で成功
【第3回】
薄い財布で納品1年待ち 建築家がクラファンで1億6000万円調達

 今回のクラウドファンディングは、目標金額の達成にかかわらずプロジェクトを遂行する「All in型」で実施。本体と専用カバー、送料込みで3万2000~3万8000円(税込み)で、1606人が支援した。

 デジタルノート自体は今では珍しいものではない。後発商品であるフリーノに多くの支援者が集まったのは、なぜか。それは「新しい商品開発に携わる体験を含めて、買い物を楽しみたい」というユーザーのニーズに共感し、クラウドファンディングを「製品開発のブラッシュアップを目的とした、ユーザーを巻き込んだ『ものづくりのプロジェクト』」と明確に打ち出したからだ。ユーザーとの共感から始まり、アイデアを交換しながら進めたフリーノの開発プロセスは、まさにデザイン思考的である。

 現在、ソフトの仕様の決定に向けて最終調整中で、オンラインで支援者と意見交換を行っており、20年6月の一般発売に向けて最後の山場を迎えている。

 「新たな購買の楽しみ方として、商品の開発段階から関与したい」というユーザーニーズは、キングジムが過去3回挑戦したクラウドファンディングを通じて気づいたことだという。

 キングジムがクラウドファンディングを実施するのは、実はフリーノで4回目だ。過去には、外出時の荷物を見守るモニタリングアラーム「トレネ」(17年10月実施)に続き、手書きのメモの内容をアラームで気づかせるデジタルツール「カクミル」(18年7月実施)、家電のリモコンをスマートフォンに集約するスマートリモコン「エッグ」(19年2月実施)の3商品がある。いずれも目標金額を達成し、商品化した。

 クラウドファンディング活用の狙いは当初、「社内でボツとなった企画の、市場ニーズを探ることだった」(フリーノの開発者であるキングジム開発本部電子文具開発部デジタルプロダクツ課リーダーの東山慎司氏)。ところが、実際にクラウドファンディングを始めてみると、支援者からの意見や感想が思った以上に多く届いたという。

 「メーカーとのコミュニケーションを楽しんでくれているような印象があった。Makuakeのユーザーは感度や熱量の高い人が多く、プロトタイプに対する意見やアイデアにリアリティーもある。これはぜひ、新商品のブラッシュアップに活用していくべきだと考えた」(東山氏)

4096段階の筆圧検知により、書き心地はスムーズ。デジタルペンの充電は不要
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紙のノートのように、常時表示させておくことができる
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ノートの罫線の種類は12種類。自作も可能だという
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