アドバイザリーボードの「先見」

春の人事異動でマーケティング部門へ異動になった人、そして新卒でマーケター職に就いた人はどうすれば活躍できるのか。OFFICE MASA代表で吉野家常務取締役の伊東正明氏は、「お客様に会いにいくことが何より大事」だと話す。

OFFICE MASA代表で吉野家常務取締役の伊東正明氏
OFFICE MASA代表で吉野家常務取締役の伊東正明氏

核となる話題の周辺事項に学びがある

 マーケティング職に就く人には、シンプルですが「お客様に会いにいく、話を聞く」ことを何よりも大切にしてほしいと思います。自社のマーケティングプロセスに、ユーザー調査がある場合は調査を行う人が多いですが、そうでない場合、意外と聞きにいっていないことが多い印象があります。

音部氏(第30回)からのメッセージはこちら

 (インタビュー直前も)オンラインでユーザー調査をしていましたが、ユーザーの気持ちを分かっていると思っていても、30分話を聞くことで仮説が確信に変わったり、ビジネスに使えるアイデアが複数個出てきたりします。知り合いに自社の商品やサービス利用者がいれば、どうしてこの商品を使っているのか聞けばいいですし、今の時世オンラインツールを使って、ユーザーを見つけて場所を選ばずに調査をすることも可能です。お客様を理解することを大切にしてください。

 その際に気をつけていることは、核となる話題の周辺事項も聞くことです。吉野家なら、極端に言えば外食や牛丼の話を聞いても仕方がないと思っています。「朝ご飯は食べていますか、食べるのであればどこで食べますか?」と質問すれば、「出社途中にコンビニで買って、自分の机で食べています」「前日に買ったパンを焼いて食べています」といった回答が返ってくる。

 吉野家を選ぶというのは、その人の食事の1回でしかありません。そのためそれ以外、相手が吉野家で食べていないときの食生活を聞いたほうが学びになるわけです。

 前職のP&Gでは、洗濯洗剤などを担当していました。この場合は、普段の暮らしにおける時間の使い方から聞いていました。「何時に起きますか、起きて最初にすることは?」。こういった質問から暮らしの中におけるその人の家事とは何かを理解し、次に家事における洗濯はどういったものか、洗濯における洗う、干す、たたむを聞いて、最後に洗剤の話をします。

 洗剤について知りたい企業側からすれば、洗剤について深く聞きたくなるでしょう。しかし、普段から洗剤のことを考えている消費者はそういません。はなから洗剤のことだけ聞いていると、途中で話すことがなくなり、消費者はその場で思いついたこと、思ってもいないことを言ってしまいます。これでは調査の意味がありません。周辺事項から聞くことで、なぜこの人はこの商品を選んだのか、真剣に考えずに選んだのかが分かってきます。

やらない理由を探すのは簡単

 ユーザー調査において、予算がない、時間がないは言い訳になりません。少数精鋭の部署であっても同じです。

 時間がない場合でも、1カ月後の予定がすべて埋まっていることなんてないでしょう。半日などカレンダーに調査予定と入れてしまえばいいわけです。何か上司に言われたとしても、そこは既に予定が入っていますと断ればいいこと。本当は週に1回、ユーザーに会いにいってほしいところですが、2~3週間に1回、1時間話を聞くと決めてしまえばできるはずです。

 ユーザーを探せない場合、D2CやBtoBだとユーザーデータがあるかもしれません。一般消費財であれば、誰でも周りにいるはずです。「ちょっと時間をいただけますか?」と声をかければいいですし、自社製品のサンプルを無料でお渡しするのもいいでしょう。これをやる予算がないという会社はないはずです。

 僕の経験だと、5~10人くらいに同じ質問をしていくと、なぜその人がそういったことを言うのか見えてきます。初めてユーザー調査をした人でも、調査が終わるころにはマーケターの視点でものを話すようになっていました。

 調査の中で気をつけなければならないのは、ユーザーが話したことをうのみにしないことです。マーケターは、なぜこんな回答をするのかを声の中から探らなければなりません。お客様を見ることで、データの分析もさらに意味のあるものになります。調査を続けることで、数字の裏側にいる人の行動が手に取るように分かるようになるからです。そうなればしめたもの。こういったアプローチをすれば、あの人は欲しいと言ってくれるかも、この施策ではうまくいかないかも、といった仮説が生まれます。

 出てきた仮説を実行に移したとき、うまくいけば仮説は合っていた。失敗したのであれば、何を改善すればよいのかを考える。この繰り返しで打率が上がるでしょう。再現性を高めるためには、トライアンドエラーの中でエラーゾーンみたいなものを小さくしていくしかありません。

 もちろん先に数字を見るなと言っているわけではありません。しかしデータだけでは、本当のお客様を見失った仮説を立ててしまうかもしれません。部下がつまずいているとき、私自身もうまくいかないときは、本当のお客様を分かっていないときです。

 冷静に考えれば「そんな人いないだろう……」という人をつくり上げていたり、あるいは自分たちの都合を優先してお客様が喜ぶことを忘れてしまっていたりするのです。そういったときにこそ、ユーザーにもう一度きちんと話を聞きにいくことで、気づかされることが多々あります。商品開発のプロセスでは、何度も人に会いにいくのがよいでしょう。そうすれば方向性を確認できます。

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