サントリーは2020年4月に緑茶飲料「伊右衛門」をリニューアルし、4~11月は前年比約1.3倍というV字回復を遂げた。その成功の秘訣は何だったのか。20年の総括を含め、サントリーコミュニケーションズデザイン部長チーフクリエイティブディレクターの水口洋二氏が真相を語った。
ブランドストーリーからエピソードへ
サントリーは清涼飲料や健康食品、アルコールなどさまざまな事業を展開しています。2020年は新型コロナウイルスの影響でレストランや居酒屋などの営業自粛を余儀なくされ、酒類の売り上げは厳しいものがありました。一方、家庭の消費は好調でした。
一見、当たり前の変化のように聞こえますが、コロナ禍を機にお客様の消費が変わったと感じています。ひと言で言えば、「消費がブランドストーリーではなくエピソードに変化した」ということ。数年前より商品の所有に価値を見いだす“モノ消費”から、体験や経験に価値を見いだす“コト消費”に変化していると言われていましたが、その消費傾向がコロナ禍で加速したとみています。
通常、「ブランドストーリー」はメーカーが与えるものです。例えば「伊右衛門」なら京都の老舗製茶会社・福寿園と共同開発したブランドなので、そのこだわりを生かした茶のうまみや製法をCMなどを通して伝えています。それに対して「エピソード」はお客様自身の記憶のこと。そのブランドとお客様がどう関わったかというのが、エピソードとしてたまっていきます。ブランドストーリーは、意味記憶になりがちなので覚えるのが難しい。しかしエピソードは自分事に落とし込めるので、長期的かつ簡単に記憶に残ります。その傾向は、当社でもあらゆるところで起こりました。
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