クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏が考える「20年の総括および21年の展望」の後編。新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された1年だったが、その中でも鹿毛氏はたった1つの揺るぎない信念を胸にマーケターとして活動を続けてきた。世の中が閉塞感を抱えている今、鹿毛氏は「それでも人の心は変わらない」と力強く説く。
人より「小刻みに」心を見つめる
「マーケティング」という言葉には「便利さを届ける」という意味合いもあると思います。例えばインターネットで気になるものをチェックすると、ブラウザーにはそれに関連した商品の広告が表示される。目に入るし、便利だと購入には至るかもしれませんが、そこから企業に対する愛情が芽生えることは少ないでしょう。便利なものに対し“ありがとう”という気持ちでお金を払うことはあっても、“愛情”を抱くまでには至りません。
マーケティング活動とは極論すれば「どこまでお客様の心に寄り添えるか」ということ。そのスキルを磨く方法の1つは、自分の生活を小刻みに見つめていくことです。例えば、人が1メートル間隔で自らの心を見つめているとしたら、僕は1センチ間隔とものすごく細かに刻み見つめる練習をしています。
以前、若手社会人に高級旅館をどんな理由で選ぶのかをヒアリングしたことがあります。彼は彼女と金沢に旅行した話をしてくれました。
まずその彼は、
- (1)コンシェルジュに電話をして旅館を紹介された
- (2)旅館の食事メニューを見た
- (3)価格が1人1万5000円とお手ごろだったのでその旅館に決めた
と説明してくれました。
しかしコンシェルジュに電話した後「メニューを見た」と言っていたのに、よくよく話を聞いてみると、「紹介されたホームページでメニューを見る前に、旅館の外観を見ました。“さすが金沢のお店。趣がある”と思いました」と言うのです。そうであれば価格が手ごろだったからではなく、外観に引かれてその旅館に決めた可能性が浮かび上がってきます。
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