顧客第一主義を貫き、コロナ禍においても前年を超える業績を記録したライフスタイルアクセント(熊本市)が運営する「ファクトリエ」。同社代表取締役の山田敏夫氏は、アパレル業界を志す若者へ「今の時代は大チャンス」だと力強く説く。

SNSやECサイトの普及により、今や思い立ったらすぐに自分のブランドをつくることができる(画像/Shutterstock)
SNSやECサイトの普及により、今や思い立ったらすぐに自分のブランドをつくることができる(画像/Shutterstock)

アパレル業界の規模感も変化

 インターネットやSNSが普及した今、アパレル業界を志す若者には大チャンスが訪れています。洋服というツールを使い、表現したいことや成し得たいという思いを強く持つ人にとって、これほど恵まれた環境はないでしょう。

 アパレル業界で挑戦したいと思った場合、表現方法は大きく2つあると思います。1つはコロナ禍で非接触が求められる中、スタンダードな購買方法になりつつあるECサイト。もう1つはSNSで自分と似た感覚の人たちに対し、ブランドの存在価値をアピールして広めていくやり方です。

 これまで「洋服を作りたい」と夢見る若者が歩む標準的な過程は、アパレル企業に入社し、販売員として経験を積んだ後に本社勤務の座をつかみ、ようやく服作りを始めるという流れでした。これは簡単な道のりではないですし、誰もが目的地のデザインチームや企画部にたどり着けるわけではありません。時間もかかります。そして今の若者は、皆そのことを知っています。

 今の時代、ほぼノーリスクで自分のやりたいと思うブランドを設立することが可能です。大金を払って店舗スペースを確保し、雑誌に広告費を払い、セレクトショップに営業をかけ、展示会に行くといったさまざまな工程をすっ飛ばすこともできるのです。SNSアカウントを取得し、きれいに撮影した洋服などを投稿することで、自分のスタイルやブランドのコンセプトを存分に表現できます。それに共感してくれた人が、その投稿に対し「いいね!」を押す。それだけで認知を広められるのです。

 私は服飾・ファッション専門学校の文化服装学院で講義を行っていますが、生徒たちに「ノーリスクで挑戦できる時代だ。やりたいようにやってみろ」と伝えています。自分でブランドを立ち上げることは、嘘みたいにハードルが低い状況なのです。しかし、それでも行動に移さない・移せない人は「口だけの本気でない人」だということでしょう。

 現在はアパレル業界を志す全ての人が、パリコレクションやミラノコレクションに憧れを持っているわけではありません。SNSが普及したことで、アパレル業界で目指す規模感も多様化しています。自分がやりたい世界観を本気で追求してビジネスに展開すれば、それに見合った収益を得られると私は思っています。

 では具体的にどのようにすればいいのか――。その近道は「自分はこういう人間だ」と割り切って、同じような考え方を持つ人に対し、誠実にビジネスをしていくことです。顧客とのよい関係性を維持していくことで、年商1000万~2000万円ほどであれば事業展開は可能でしょう。ブランドの世界観は、とがらせればとがらせるほど実現しやすくなります。そういったとがった世界観のブランドはアンチも付きものですが、共感してくれる人の熱量も大きい。1人ではなく、信頼できる友人と2人で立ち上げたブランドだとしても、その程度の規模の売り上げを維持できたら、自分自身もそこそこの給料をもらえるし、好きなことを表現しながら十分生活できます。

 若者のカルチャーに目を向けると、ここ最近音楽で新たなヒットの生まれ方があります。例えばシンガー・ソングライターの瑛人さんの「香水」という楽曲はTikTokで人気に火が付きました。今や瑛人さんはメジャーなテレビ番組にも出演するほどです。これはネットの勢いを物語っていますが、ファッションに置き換えることもできるはずです。話題性を生むような1枚の写真もしくは動画を作成するなど、広くリーチさせる仕掛けによって可能性は広がっていく。もちろんしっかりとした洋服づくりをしていることが大前提ですが、ネットで話題になれば、世の中も無視できない流れができつつあると感じています。

「なぜ自分たちがやるのか」を考える

 ファクトリエが提携する55の工場で働く職人で、シャツや靴、ソックスなどある1つのアイテムについてであれば何時間でも話せる人のことを、愛を持って「○○バカ」と表現しています。彼らは1つの製品に特化したものづくりを続けてきた職人なので、工場で話をし始めると長いんです(笑)。みんな服が好きだから。私はそういう人のほうが信用できますし、個人的にもその人たちが作った服を着たくなります。

 メード・イン・ジャパンの衣料品はどんどん減ってきています。1990年代は日本で流通する衣料品約50%は国産でしたが、現在では約2.5%と大幅に減少しています。そんな中、ファクトリエは100%国内生産です。提携している55の工場が生き残っている理由は非常に高い技術力があること。そして私たちが工場と提携を結ぶ上で大事にしている基準は、そこで働く人々が前向きなマインドを持っていること。(前述の講師を務めている学校の)生徒たちの中でも、ものづくりが好きな子は多く、職人になるべく工場で働く道を選ぶ子がいます。「洋服が好き」「つくることが好き」というポジティブな気持ちは、ぜひ持ち続けてほしいと思います。

 アパレル業界を志す若者向けにある事例を紹介します。米スターバックスは「我々の価値は家でも会社でもない“第3の場所”(サードプレイス)を提供しているということ。デリバリーは我々のミッションやビジョンには関係ない」として、中国でデリバリーに参入せず、売り上げを落としたことがありました。しかし売り上げ低下を受け、デリバリーをスタートし、売り上げが急増しました。

 デリバリー参入の際、スタバは価値観をしっかり再考したそうです。「家の中も第3の場所になり得る」と再定義し、コーヒーを届ける人に「スタバ専用のスタッフ」を雇ったのです。コーヒーを両手で手渡しし、お辞儀をして帰る。ただ商品を運ぶだけではなく、店舗同様の体験が味わえるという価値を加えました。

 時代のニーズをくみ取ることは大切なことですが、右へ倣えで行動するのではなく、自分たちなりのやり方を模索していくことが重要です。「今はこれがはやっているらしいよ」と安易に飛びつく前に、「なぜ自分たちがこれをやるのか」についてしっかり考える癖をつけること。その上で納得できるなら実行すればいいし、自分たちのビジョンに当てはまらないと思ったらやらない選択も間違いではないのです。

ライフスタイルアクセント代表取締役でファクトリエ代表の山田敏夫氏
ライフスタイルアクセント代表取締役でファクトリエ代表の山田敏夫氏

(構成/中山 洋平)