ライフスタイルアクセント(熊本市)代表で自社ECサイト「ファクトリエ」を運営する山田敏夫氏が考える「コロナ禍のアパレル業界」。前編では新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アパレル業界全体は大打撃を受けているということだったが、同社は2020年4月の緊急事態宣言以降でも、売り上げが前年を超えているという。果たしてその理由とは。

顧客が工場の職人へメッセージを送れる機能を搭載するなど、「心と心のやり取り」を大切にしたサービスを提供している(写真/Shutterstock)
顧客が工場の職人へメッセージを送れる機能を搭載するなど、「心と心のやり取り」を大切にしたサービスを提供している(写真/Shutterstock)

 おかげさまでファクトリエは、緊急事態宣言以降も売り上げが前年を上回っています。もちろん緊急事態宣言中は全店舗を休業しましたが、その分顧客の方々がオンラインで買おうとアクションを起こし、2019年より伸びている状況です。その要因は、前編(「オーダースーツが売れない 崩壊する『都市型店舗最強』説」)で話した通り、業界全体と少し異なる我々の経営方針にあると思っています。

 それは我々が工場と一緒にものを作っているという点です。工場との関係が近く、連動しながらブランドを展開しているので、世の中の変化にフレキシブルに対応できます。コロナ禍でアパレル業界は重衣料が極めて厳しい状態にありますが、それは我々も同じ。

 我々はこの状況を受け、部屋で着るTシャツやジョガーパンツなど、巣ごもり用アイテムや新たにマスクを製造し、好調な売り上げを記録しています。自宅でも楽にオシャレを楽しめるように、スカート風にアレンジしたフレアパンツを製造販売したところ、これが大ヒットしました。時代のニーズをくみ取りながら、ブランドとしてやるべきことをやるという意識に基づき、“コロナ禍における洋服作りをしよう”と組織の事業プランを切り替えたのです。

 売り上げが前年を超え続けたことで、お客様との信頼関係をしっかり築けていることを改めて実感しました。一例ですが、外出自粛が求められていた期間、私はふとフリマアプリのメルカリで売られているファクトリエの商品を見てみました。すると販売価格より大幅に値段が下がっている服がなかったのです。我々がセールをしないこともありますが、お客様からの信頼の表れだともいえます。これまでアパレル業界はセールを頼みとして商品を売りさばいてきました。こうした事情が、顧客の信頼を積み上げられない一因になっていたと思います。

 我々はこれまで廃棄もセールも一切していません。大量消費・大量生産が主流の中では効率の悪い方法かもしれませんが、一つ一つを丁寧に作り、売ってきました。こうした姿勢を貫いてきたことでお客様から信頼を得られ、コロナ禍でも売り上げを落とさずにいられるのだと考えています。

リピーターになるきっかけは「心と心のやり取り」

 コロナ禍で社会的に目を向けなければならないのは、「孤独」「貧困」「不安」という問題だと思います。独身の社員と話したときに、「誰とも話さない時間がすごく長い」という言葉が返ってきました。これをヒントに、ファクトリエでは20年5月1日から工場の職人へ「メッセージ」が送れる機能を実装しました。

 工場は緊急事態宣言の期間中でも医療用ガウンやマスクを作っていたので、提携している55の工場は、1つも休むことがありませんでした。お客様から届く応援の声は、そこで働く従業員にとって励みになったと思います。開始から1カ月で約6000件のメッセージが集まりました。これは1つの工場につき、100通強のメッセージが集まった計算になります。縫製し、洋服を受け取れば終わりという関係だったお客様と作業員に、オンラインとはいえ心を通わす機会が生まれたのです。工場の職人にとって大きなモチベーションアップにつながりました。