Webサービスやアプリにも、顔認証技術を活用してサービスを拡充しようとする動きが広がっている。その背景には、AI(人工知能)技術の普及と、低価格な顔認証ソリューションの提供がある。

顔認証による本人確認の仕組みを組み込んだオンライン英語テスト「CASEC(キャセック)」を受験する利用者のイメージ(写真提供/EduLab)
顔認証による本人確認の仕組みを組み込んだオンライン英語テスト「CASEC(キャセック)」を受験する利用者のイメージ(写真提供/EduLab)

 教育サービス事業を手掛けるEduLab(エデュラボ、東京・渋谷)傘下で、年間20万人が受験するオンライン英語テスト「CASEC(キャセック)」を運営する教育測定研究所(東京・渋谷)は2019年12月末、顔認証による本人確認の仕組みをCASECに組み込んだ。

 テスト受験者は申込時に本人の顔写真を登録する。主に企業や大学が社員や学生に受験させるため、社員証や学生証に使われている写真を利用して登録することがほとんどだ。そのうえで、オンラインで受験中は、受験者のパソコンに付属したカメラで撮影した本人の動画を、AIを使って、登録した本人写真と照合し続ける。途中で受験者が誰かに交代したりしたら、テストの管理者にその旨が報告される。

CASECを受験中の利用者側の画面。本人写真と照合する受験中の利用者本人の動画を画面左下に映し出し、「見られている」という意識を持たせる工夫も施している
CASECを受験中の利用者側の画面。本人写真と照合する受験中の利用者本人の動画を画面左下に映し出し、「見られている」という意識を持たせる工夫も施している

 「テスト中の本人確認には、カメラによる顔の撮影が最良。指紋や音声など他の生体認証では、なりすましを完全に防げなかった」と、教育測定研究所 営業本部プロダクトセールス部 アカウントマネジメントグループの加藤遼平グループ長は、顔認証導入の効果をこう語る。

顔認証システムを自社開発

 EduLabは今回、顔認証システムを自社で開発した。文字認識や自然言語処理などを可能にするAI技術を既に社内で開発していたため、このチームの力を借りた。そうまでしてCASECへの顔認証システム導入に踏み切ったのは、「オンラインでも本人確認できる仕掛けを用意してほしい」との声が、顧客の間で高まっていたからだ。

 CASECの特徴の1つは、アダプティブ(適応型)システムだ。アダプティブシステムとは、受験者が1つの質問に回答すると、その結果によって次の質問を変化させる仕組みのこと。分かりやすくいうと、質問に正解すると次はより難しい問題が提示され、誤答するとより易しい問題が提示される。

 このため、「TOEIC(トーイック)」など紙で実施され、設問をすべて載せる必要がある一般的な英語テストでは試験時間が2時間程度かかるが、CASECは40分程度で済む。

 「ある企業では、3000人が紙の英語テストを受験するために延べ9000時間ほどが投じられていた。このテストをCASECに代えれば、必要な時間数は延べ3000時間を切るくらいまで削減できる。減らした時間を他の生産的な業務に振り向けられる」(加藤氏)というわけだ。

 また、CASECで得た点数を、「TOEICに換算して何点」と示す仕組みも持つため、これまで社内の昇格条件などにTOEICを活用してきた企業にとっても乗り換えやすい。「『社内の英語テストをCASECに置き換えたい』との声は、EduLabに多数寄せられていた」(加藤氏)。

 ところが、潜在的なニーズこそ高かったものの、オンラインゆえに受験者の本人確認が難しく、多くの企業では、採用されても補助的なテストという位置付けから抜け出せなかった。今回、顔認証による本人確認の仕組みを実装したことで、「企業はもちろん、多くの英語試験を実施する必要がある大学などからも、引き合いが増している」(加藤氏)。

 例えば、日本電産が社内の英語試験の1つとして、CASECの活用を正式に決めた。「顔認証の仕組みを導入したことで、現在20万人のCASEC受験者数を、2022年までに2倍の40万人まで伸ばすのが目標」と加藤氏は意気込みを語る。

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