新型コロナウイルスの感染拡大は、顔認証の世界にも新たな潮流を呼び起こした。カメラを使った顔認証システムにサーモグラフィーを組み合わせ、同時に複数の人の体温を検知できるソリューションの登場である。新ソリューション登場の背景と顔認証システムの今後に与える影響を追った。

「『顔認証とサーモグラフィーを組み合わせ、複数の人の体温を同時に検知できるシステム』の開発・提供を2020年2月下旬に発表したところ、新型コロナウイルスの感染が拡大していることもあり、引き合いが急増している」
こう話すのは、AI(人工知能)を用いた画像認識技術を主に手掛けるベンチャー、データスコープ(東京・中央)の内田次郎社長だ。
データスコープが開発したシステムとは、赤外線を人に当てることで温度を検知するサーモグラフィーを、顔認証カメラと組み合わせたもの。建物の入り口ゲート手前などに設置したカメラによって、そこを通って建物に入る人々を顔認証で見分け、同時にサーモグラフィーで体温を測定して、体温があらかじめ設定した一定以上の温度だった場合に、管理画面にアラートを出す。顔認証によって体温が高かった人を特定できているので、直ちにゲートを閉じ、高熱の人を建物の内部に入れないなどの措置を取ることができる。
実際に顔を認証してから体温の検知までにかかる時間は1秒もない。建物の入館管理などに使う場合、「カメラの前を1人ずつ通過してもらう形を推奨する」(内田氏)というが、幅広いゲートを同時に複数の人が通過する場合でも、「1度に20人程度は同時に体温を検知できる」(内田氏)という。また、体温に問題なくてもマスクをしていない人には、「音声でアラートを出すようにした」(内田氏)。
ザイン、JCV……「顔認証+体温検知」サービス続々
治療法がまだ確立されていない新型コロナウイルスの感染が拡大する中、高熱を発していて感染の可能性のある人を、“水際”で防いで重要な建物の内部に入れないといった対策を取り始めた企業などは増えている。
例えば、楽天などいくつかの企業は、本社内に入る人々の体温を、入り口付近に立つ担当者がサーモグラフィーなどを使って手で測定し、高熱の人を建物内部に入れないようにしている。建物の外にテントを張り、その下に新たにゲートを設け、わきの下などで測る通常の体温計を来訪者に渡し、体温測定を求める病院や診療所も珍しくなくなってきた。
こうした来訪者の体温検知を自動的に実施できれば、建物への入館を管理する側にとっても、来訪者にとっても、利便性は確実に向上する。
このニーズを見越して、データスコープ以外にも、画像処理技術を手掛けるザインエレクトロニクスとその連結子会社キャセイ・トライテック(横浜市)、ソフトバンクの関連会社で画像認識ソリューションを提供する日本コンピュータビジョン(JCV、東京・港)、防犯カメラの開発、販売を手掛けるダイワ通信(金沢市)といった企業が、顔認証と体温検知を組み合わせたソリューションの開発・提供を打ち出した。AI映像解析のフューチャースタンダード(東京・文京)も同様の開発を進めている。
各社とも、体温を検知するソリューションによって収益増を図るのはもちろん、これをきっかけに企業などに顔認証システムを試してもらい、顔認証を使った入退館管理システムの導入などへ商機を広げることを狙っている。言い換えれば、顔認証と組み合わせて体温を検知するソリューションの開発・提供に各社が次々に名乗りを上げているのは、競争が厳しくなってきている顔認証の市場で、導入のきっかけを何とかしてつかみ、優位を得たいからだといえる。
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