MaaS事業者はデータ分析で貢献

 日々交通サービスが減便、休止という変更を余儀なくされており、ドア・トゥ・ドアの移動を支援するMaaS事業者の役割がますます重要になっている。本シリーズ第1回で紹介したように、エッセンシャルワーカーのための移動サービスが関係者の不断の努力により続けられている。また、エッセンシャルトリップ(生活していく上で必要な移動)のために、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を確保し、食料品や医療品の調達を安全に行う上での移動支援が求められている。

 北米やオーストラリアを中心に事業を展開しているMaaSオペレーターのトランジット(Transit)は、リアルタイムで収集されるバスの乗降情報を基に、混雑度合いを6段階で提供するサービスを追加した。「満車」「非常に混雑」「立ち席のみ」「数席着席可」「多数着席可」「空いている」の6段階で指標化し、バス事業者から受信した時刻も合わせて、走行位置に情報を追加している。バスのリアルタイムな乗降情報が提供されているシドニー、オークランド、スプリングフィールド、モデスト他10都市から開始した。

バスの混雑状況を提供し、社会的距離を確保した移動を支援するTransit
バスの混雑状況を提供し、社会的距離を確保した移動を支援するTransit

 また、MaaSオペレーターは、交通事業者から運行に関するデータ、アプリ利用者のビッグデータなどを日々収集しており、都市の活動量や移動量を新型コロナ感染症の流行直後から提供し続けている。これは、携帯キャリアが提供している滞留人口などマクロな人の活動情報とは一線を画すものだ(多くは居住人口やエッセンシャルワーカーを含んでいる点に留意が必要である)。

 MaaSオペレーターでは、例えばトランジットムービット(Moovit)シティーマッパー(Citymapper)などが代表的な取り組みだ。中でも、トランジットとムービットは、鉄道やバス、トラム(路面電車)などの公共交通利用に特化して、世界中の利用動向が逐次アップされている点が特徴的。新型コロナウイルスが与えたインパクトと被害想定が、瞬時に国別や地域別で把握でき、政府の政策判断、財政支援に有益なデータを提供し続けている。

Transitの新型コロナウイルス関連データサイト。公共交通機関の時間帯別の需要推移など、多くのデータを公開している。上画像の4月21日時点の最新データでは、通常時と比較した現在の需要は76%減と、衝撃的な数字に
Transitの新型コロナウイルス関連データサイト。公共交通機関の時間帯別の需要推移など、多くのデータを公開している。上画像の4月21日時点の最新データでは、通常時と比較した現在の需要は76%減と、衝撃的な数字に
Moovitのデータ分析サイト。公共交通機関の利用動向は世界各国で軒並み70%以上減少している
Moovitのデータ分析サイト。公共交通機関の利用動向は世界各国で軒並み70%以上減少している
Citymapperのデータサイト。東京の移動需要の変化も確認できる
Citymapperのデータサイト。東京の移動需要の変化も確認できる

 公共交通機関の利用状況をモニタリングしているだけではなく、MaaS事業者は新しい移動サービスの稼働状況や利用状況も把握している点が特徴的だ。ベルリン市交通局で運営しているMaaSアプリのオペレーターを担っているエストニアのトラフィ(Trafi)は、ポルシェコンサルティングと協力し、ベルリンにおける20年1月から4月までの週ごとの移動の変化を解析している。公表された結果によれば、総移動量は58%減少し、特に公共交通機関への影響が大きいことが報告されている。また、配車サービスは一般向けには休止しており、利用はゼロである一方で、自転車利用が増加傾向となっている。自転車利用の増加はニューヨークやスコットランドでも報告されており、類似の傾向だ。

MaaSオペレーター、Trafiのベルリン地域の移動レポート
MaaSオペレーター、Trafiのベルリン地域の移動レポート

 このような移動に特化した指標はMaaSオペレーターならではであり、MaaSが導入されていなければ実現しなかったものだ。トラフィは、外出自粛や社会的距離の確保が求められる中で、人々の移動手段がどのように行動変容していくかを解析し、社会に提示している。このような取り組みを先導しているMaaS事業者の社会的な役割や価値は、パンデミックの経験を通して、市民からも一層期待、信頼されていくことだろう。

(第3回「『歩行者天国』が都市の新潮流に Withコロナ時代のMaaS(3)」に続く)