苦境の中でも医療支援する配車サービス

 一方、配車サービスのグラブ(Grab、シンガポール拠点)、ウーバー、リフトも、医療従事者などの送迎サービスを独自に強化している。シンガポールでは、病院への送迎サービス「Grab Care」を通常のメニューに追加。シンガポールの主要な医療機関すべてを対象とし、医療従事者の専用送迎サービスを展開している。配車サービスは、基本的に自家用車を使ってドライバー業務を行うギグワーカーと利用者をマッチングする仕組みだが、このような重要な役割を担う一般ドライバーの使命感は高いという。

 ウーバーは、「Uber Health」という患者の自宅と医療施設の間、および医療施設間における医療従事者の移動を支援するサービスを、新型コロナ感染症の流行以前から提供してきた。米国では、国内最大の医療組合の1つである1199SEIUと提携しており、流行の影響が大きい地域に最も近い医療従事者を最前線で支援している。また、ロンドンでは、NHS(国民保険サービス)のスタッフに20万回の無料乗車サービスを、スペインではマイカーの所有者が医療従事者に車を貸すサービスを支援しており、バングラデシュでは地元のNGOと協力して医療スタッフに配車サービスを提供している。

 新型コロナの流行が拡大していく中で、配車サービスの利用者は激減し、厳しい経営環境が続いている。そのような状況下でも、車両とドライバー、乗客をITで結びつける既存プラットフォームの力を生かし、医療従事者などのエッセンシャルワーカー向けにサービスを提供する姿勢には、日本の交通事業者も学ぶべきところが大きい。医療従事者も、安心・安全な移動が確保された今回の経験は一生忘れることはないだろう。

MaaSスタートアップも社会貢献

 自転車や電動キックボードのシェアリングサービスを提供している企業も、医療従事者などエッセンシャルワーカー向けの無料の移動支援を行っている。リフトは米国6都市で無料のサービス提供を開始した(現在は、2020年4月30日までの期限付き)。すでにニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ、ボストンで医療従事者向けに自転車シェアリングの無料サービスを実施しており、電動キックボードも対象に加えている。対象地域は、オースティン、デンバー、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、サンディエゴ、サンタモニカであり、1回当たり30分までを無料とし、利用回数に制限はないという。病院周辺に多めにシェア車両を配備し、清掃や消毒の頻度を従来よりも増やす対応を行っている。

 欧州の電動キックボードシェアリングで最大手のティアー(TIER)は、4月からエッセンシャルワーカー向けに無料の乗車サービスを開始した。開始2週間ほどで、約3万3000回の利用があり、利用時間は55万時間に及んだ。そのうち62%が医療従事者、19.3%は食品やスーパーの従事者だという。10%弱が警察関係者の利用という点も興味深いところだ。

TIERによるエッセンシャルワーカー向けのサービス利用者の属性分布(出典:TIERインスタグラムより)
TIERによるエッセンシャルワーカー向けのサービス利用者の属性分布(出典:TIERインスタグラムより)

 世界では、電動キックボードのサービスを休止している事業者も多く、それはスタートアップ企業ばかりだ。エッセンシャルワーカーには、感染リスクを極力少なくしたいというニーズも高い。シェア車両の配回送や充電、消毒などのメインテナンスは人手が必要であり、新型コロナ禍が長期化していく中で、どこまで持続可能な移動サービスを続けていけるか、今後も注目したい。

(第2回「データ活用で感染リスクを減らせ! Withコロナ時代のMaaS(2)」に続く)