新型コロナウイルスの流行により、未曽有の危機が世界を襲っている。こうした中、厚生労働省は2020年2月28日に感染防止策として、慢性疾患などの定期受診患者に対してビデオチャットを用いたオンラインでの診療や電話に基づき、郵送による医薬品の処方を認める事務連絡を行った。対応したサービスが相次いで始まっている。

医療ベンチャーのメドレー(東京・港)はオンライン診療のプラットフォーム「CLINICS(クリニクス)」を薬局に導入し始めた
医療ベンチャーのメドレー(東京・港)はオンライン診療のプラットフォーム「CLINICS(クリニクス)」を薬局に導入し始めた

 オンライン診療を活用した医薬品の処方は患者が来院せずに済むため、新型コロナウイルスの感染防止策の1つになる。ただ、従来は3カ月間、同一医師の診療を受けているなど、さまざまな条件を満たさなければオンライン診療による処方は認められていなかった。

 今回の厚労省の通達でそれが緩和された。慢性疾患を持ち、対面での診療が済んでいる患者であれば、ビデオチャットを用いたオンライン診療や電話で過去に定期処方した医薬品を処方できるようになった。規制緩和は医療業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)加速につながりそうだ。

 いち早く対応した1社が、デジタル技術を活用した次世代クリニック「クリニックフォア」を4カ所に展開するリンクウェル(東京・港)。同社は20年3月9日から、慢性疾患を持つ自社の患者に対してメール、または電話で薬の処方を受け付けるサービスを始めた。「1日に10~20人はオンライン経由で申し込まれている」とCEO(最高経営責任者)の金子和真氏は言う。

デジタルを活用したクリニック「クリニックフォア」を4カ所に展開するリンクウェル(東京・港)は2020年3月9日、慢性疾患患者に対して薬剤の処方をオンラインで受け付けるサービスを始めた
デジタルを活用したクリニック「クリニックフォア」を4カ所に展開するリンクウェル(東京・港)は2020年3月9日、慢性疾患患者に対して薬剤の処方をオンラインで受け付けるサービスを始めた

 クリニックフォアはクリニック内で薬を処方する院内処方業態のため、院内に薬の在庫を保有している。加えて、Webサイトからの事前予約や電子カルテといった、デジタルを活用した次世代クリニックを開発してきた。あらゆる情報がデータ化されており、過去の診療や処方の履歴を参照しやすい基盤が整っていた。そのため、すぐにサービス化にこぎつけることができた。

 患者はメールでの処方を希望する場合、クリニックのメールアドレスに氏名、保険証の変更の有無、症状の変化、希望の薬、残っている薬の量などを記載して送る。処方された薬が分からない場合には、前回と同じ薬を希望と記載すればよい。クリニックの医師がメールを確認後、患者に電話をして診療および服薬指導をする。厚労省からの通達には「調剤した薬剤は電話や情報機器等を用いて服薬指導を行うこと」が義務付けられている。少々分かりづらい表現だが、メールでの処方希望を受け付けた後に、リアルタイムにビデオチャットあるいは電話で診療をする必要がある。

 問題がなければメールに返信する形で決済のためのリンクを送信。決済の手段は「PayPal」を採用している。患者はPayPalに登録する必要があるが、PayPalはクレジットカードや銀行振り込みなど、さまざまな決済手段に対応しているため利便性が高いと判断した。決済が完了したら、薬を発送する。「決済が迅速に行われれば、申し込まれた件数の8割を当日中に配送できている」(金子氏)という。送料は患者の負担となる。

 ニーズは大きく2つ。1つは新型コロナウイルス予防のため外出を控えたいという理由。もう1つは在宅勤務への対応だ。クリニックフォアはビジネス街に構えている病院が多く、会社員の利用が多い。リモートワークが推奨され、在宅勤務となった患者がオンライン処方を利用しているという。

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