2年前からAI(人工知能)国家に向けて「AIイニシアチブ」をスタートしている米国に対して、日本はようやくデジタル庁の創設で巻き返しをもくろむ。日本もギーク(おたく)を理解できるトップが増えてほしいと説く。パロアルトインサイトの石角友愛CEO (最高経営責任者)と、東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授の対談の後編。
<前編はこちら>
石角 デジタル庁創設に当たって、AIの活用も必ず入ってくると思っています。米国の場合、トランプ大統領が大統領令にサインをして「AIイニシアチブ」というのを2年前からスタートしました。国家としてAIを政府がどう導入するのかということを具体的に進めています。ホワイトハウスのCTO(最高技術責任者)が出した報告書を読んだところ、ものすごく具体的に省庁ごとの取り組みが書かれていました。
日本のデジタル庁もAIの活用というと、政府が単純に「AI人材が20万人足りない」などと言っている割にはAI活用がされていないと感じます。デジタル庁ができれば、ホワイトハウスのようAI活用をしないといけなくなるでしょう。そういったAIのイニシアチブがデジタル庁から生まれることを期待しています。
松尾 日本も人工知能技術戦略会議などがあるのですが、本音と建前のかい離が大きいですよね。AI戦略を一応つくることになっても、実際に実行するとなると骨抜きになっていることがほとんどです。言い方は悪いですが、ベンダーの利権になっている、あるいは大御所の権力拡大の場になっているといった印象です。そういったところを解消していくことができれば、おそらく日本として国がAI戦略をつくったときに、実際に稼働するようになってくるんじゃないかなと期待しています。
石角 日本はなぜ理念は掲げるけれども、実際は形骸化して中身が伴わないということが起きやすいのでしょうか?
松尾 難しい問いですが、それが仕事だと思っている感は否めません。私は「伝統芸能化」とよく言っているのですが、伝統芸能になると、もはや本来の目的や存在意義を考えなくなるんですよね。本当の伝統芸能の場合はそれが美しさになるのですが。
例えば、役所の各省庁・各課にしても、いかに省益を上げるか、自分の課の勢力を拡大するかということをやっていますが、それが良いことであると先輩から教えられ、その技を長年磨いてきています。そのために、本音と建前を違える「技術」もたくさんに磨いています。大学もそうだと思いますし、大企業でもそうかもしれません。そうした伝統芸能にたけている人ほど、「そういう場合はこういうふうにやればいいんだよ」と言うのが力の源泉になっていますよね。でもマクロにみれば、そんなことに大した意味はないし、本来の目的や存在意義に立ち返って、常に行動やルールを問い直すほうが大事ですよね。
東京大学大学院工学系研究科教授
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