米国政府が中国製の短編動画アプリ「TikTok」の禁止を検討していることを発表。一方、米国政府によるGAFAなどビックテック企業への規制も強まってきた。対して、日本はどう関わっていくべきか。米シリコンバレーを拠点に企業のAI活用・導入を支援するパロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者)と、ディープラーニング分野で日本をリードする東京大学大学院 工学系研究科・松尾豊教授の2人が話し合う。

石角 日本でも流行しているTikTokが禁止になるかもしれません。そもそも禁止にすべきなのでしょうか?

松尾 中国・北京のAI企業「ByteDance」が運営していますよね。なぜTikTokだけが禁止の対象なのでしょうか?

石角 そうですね。確かに、ByteDanceはTikTok以外にもいろいろやっています。ただTikTokが米国で予想以上に流行してしまって。そこでトランプ大統領は、「ナショナルセキュリティーの懸念がある」つまり「TikTokアプリを利用する米国ユーザー情報などが中国政府に流されているのではないか」ということなどを懸念して、禁止することを発表したんですよね。そうしたら、今度はマイクロソフトが中国のTikTokを買収するならば使用を継続するという情報も流れました。まだ見通しは立っていませんが、米国政府の中国企業進出に対するけん制は厳しいものになっているようです。

松尾 セキュリティーの話も当然あるのでしょうけど、どちらかというと米中間の経済的な争いといった印象ですね。

松尾豊氏
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松尾 豊氏
東京大学大学院工学系研究科教授
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より、産業技術総合研究所研究員。05年8月よりスタンフォード大学客員研究員を経て、07年より、東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。14年より、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 グローバル消費インテリジェンス寄付講座 共同代表・特任准教授。専門分野は、人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。人工知能学会からは論文賞(02年)、創立20周年記念事業賞(06年)、現場イノベーション賞(11年)、功労賞(13年)の各賞を受賞。人工知能学会 学生編集委員、編集委員を経て、10年から副編集委員長、12年から編集委員長・理事。14年より倫理委員長

石角 7月には、中国政府が統制を強化するため、香港に国家安全法を適用するという事態が起きました。これに対しフェイスブックやグーグルなど米国のIT企業は反発、香港当局からの情報提供の要求に応じることをやめる方向で見直しました。一方で、中国のTikTokも当初は他の外国企業と同じように、香港当局からの要求を拒否する姿勢を見せていましたが、北京の指示に反する姿勢となるため、中国政府からのプレッシャーがかかって逃れられないだろうなどと米国側は指摘しています。そんな中、トランプ大統領はTikTokの国内での利用禁止予定を発表。それに日本政府も便乗して、TikTokの禁止を検討し始めたり。日本も独自の尺度で規制のスキームをつくっていくべきなのでしょうか?

松尾 日本でも最近、公正取引委員会(公取委)がプラットフォーマーに対する規制強化に動いています。例えば、楽天市場の送料無料制度を導入する方針を巡って、「市場の独占」にあたるとして公取委は楽天に立ち入り検査に入りました。こうした動きは、Eコマースの利用者や、アプリを開発している事業者などが不利益を被るのではないかという懸念からであって、ナショナルセキュリティーの問題ではないようです。日本はそもそも強いプラットフォーマーを自国から生み出したいという思いもあり、そういう意味では米中間の争いのレベルとは少し違う気がします。日本がTikTokの禁止を検討し始めたのは、国際的な関係もあるのでしょうが、技術に関わる立場としては、規制はできるだけ慎重にしてほしいと思います。

ケンブリッジ・アナリティカ問題からみる米中間の警戒心

松尾 最近読んでいる本が「Mindf*ck」(2019年10月出版)です。政治コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」(以下、CA)が、フェイスブック上から大量の個人データを取得し、トランプ大統領を支持する政治広告に利用していたとされるスキャンダルについて書かれています。

石角 私も読みました。面白いですよね。

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