パロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者)と、東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授のエドテックを題材にした対談の後編をお送りする。コロナ禍で急速に広がったオンライン教育のメリットとデメリットや、AIと専門分野の両方を持つ「AIバイリンガル」の育て方などについて議論を深める。

前編はこちら

石角 前回は大学のオンラインコンテンツが標準化されていくことで、「どこのコンテンツを使うか」で世界中の大学が系列化されていくのでは、というお話でした。スタンフォード大やハーバード大、マサチューセッツ工科大(MIT)、といった系列に東大がどう関わっていくか興味がありますね。

松尾 そう。いずれ世界的にはそういうふうに統合されていくんだろうなと思うと、東大も、ぼくの講義も、付加価値をしっかり考える必要ありますよね。今でもスタンフォード大の講義は、少なくともコンピューターサイエンスに関しては東大よりも圧倒的にいい。5年ぐらい常に先を行っているように思います。

石角 その違いは何でしょうか?

松尾 両方ともレベルは高いですが、とにかく、社会に必要なものをタイムリーに提供していこうと常に意識を持っているのがスタンフォード大。逆に、東大は日本の法律と一緒で、1回はじめると引き返せないという意識が強く、慎重です。スタンフォードでは、ディープラーニングの講義がすでに10種類近くある。例えば、AI・イン・ヘルスケアなどの領域に特化したAIの講義もあります。

松尾豊
東京大学大学院工学系研究科教授
1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より、産業技術総合研究所研究員。05年8月よりスタンフォード大学客員研究員を経て、07年より、東京大学大学院工学系研究科総合研究機構/知の構造化センター/技術経営戦略学専攻准教授。14年より、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 グローバル消費インテリジェンス寄付講座 共同代表・特任准教授。専門分野は、人工知能、ウェブマイニング、ビッグデータ分析。人工知能学会からは論文賞(02年)、創立20周年記念事業賞(06年)、現場イノベーション賞(11年)、功労賞(13年)の各賞を受賞。人工知能学会 学生編集委員、編集委員を経て、10年から副編集委員長、12年から編集委員長・理事。14年より倫理委員長

石角 ありますね。スタンフォード大でもスペシャルエデュケーションにとても力を入れています。例えば、スタンフォード大は「コーセラ」(スタンフォード大の教授によって創立された教育技術の営利団体)などに授業を提供していましたし。オンライン学校の「ウダシティ」もスタンフォード大が深く関わっていました。

松尾 いわゆる「テクノロジーの力で教育環境を変えていく」というエドテック系は米国などで2015年ぐらいからはやり出して、いったん落ち着いていませんでした?

石角 はい。一時期は「エドテックは稼げない、マネタイズできない」といわれ、投資家のお金がソーシャルメディアなどに流れましたが。米国でもコロナ禍で再注目されています。コーセラは、2カ月で10ミリオンニューユーザーズになりました。それは昨年の同時期と比べて7倍です。コーセラをはじめウダシティもマネタイズがうまくなりました。例えば、ウダシティは自動的に課金されるようなサブスク(サブスクリプション)がうまく機能し、キャンセルもオンライン上ではできないような仕組みになっています。そこまでビジネスモデルも追いついてきて、かつ今回のコロナでユーザー数が爆発的に伸びているので、エドテック系のムーク(オンラインの大規模な講義のこと)が再注目されているんです。今後さらにオンライン化が進んで、コーセラやウダシティなどが大学ビジネスに介入していく、というのもおかしくない流れですよね。

松尾 そうですね。

石角 日本でもムークが再注目されていますが、はやりそうでしょうか?

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