米シリコンバレーを拠点に企業のAI(人工知能)活用・導入を支援するパロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者)と、ディープラーニング(深層学習)分野で日本をリードする東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授との新対談企画。第1回は、「AIポテンシャルが高い会社」に共通する持つ3つの条件について語る。

パロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者、左)と東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授(右)との新対談企画。第1回のテーマは「AIポテンシャル」。
パロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者、左)と東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授(右)との新対談企画。第1回のテーマは「AIポテンシャル」。

石角 まず初めにAIポテンシャルという単語ですが、あまり使われてはいませんが、私はすごく面白いと思い、今日はこの切り口でお話をしたいと思います。

 例えば、現状はとても複雑なAIやいろんなモデルを使って何かしら収益を出す、人員削減などに落とし込めていなくても、ポテンシャルとしてその基盤が社内に整っている会社って、すごく伸びしろがあると思うんですね。

 メディアを通してさまざまなAIプロジェクトや取り組みをGAFAやその他大手IT企業のように宣伝していない会社でも、実は水面下で着々と準備している。データパイプラインなどを自分たちで構築して社内でAIファクトリーを作っている会社っていっぱいあると思うんです。そういう会社は日本にも多いのかということと、AIポテンシャルの条件、それをどう定義づけるかについて、先生にご意見を伺いたいと思います。

松尾 大企業の中でもAIの取り組みを始めて、社内の知識レベルがだんだん上がってきているなと感じています。そういうところはいろんな取り組みをやっているし、社内にAIチームをつくったり、割と上の人もちゃんと勉強していたり、全体的に力が上がってきている会社は何社かあると思います。

石角 それはどのような業界が多いですか。

松尾 色々ですね。最近は金融系の企業が多いかな。

石角 矢野経済研究所のデータでも、日本の金融業界でのAI導入率がすでに12%です。他のサービス業や小売業では導入率が2%や3%なのに、金融はすごく導入が進んでいるんですよね。金融ってデータが豊富にあるし、フィードバックがしやすい、検証しやすいというのが利点ですね。あと、データサイエンティストやエンジニアが多い業界なので、すごく親和性が高いですよね。

松尾 保険業界も多いですね。商社も最近、わりと一生懸命やっていると思います。

商社のAIポテンシャルが高い理由

石角 商社は面白いですね。歴史をさかのぼるとビジネススキームを作ってたくさんの事業を作り上げて利益を得てきたから、AIビジネスの波に、乗り遅れないようにどうするかという、良い意味の焦りやシフトが感じられますね。

石角友愛氏
パロアルトインサイト CEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAIプロジェクトをリードし、HRテックとリテールAIベンチャーを経て、17年にPalo Alto Insightを起業。シリコンバレー発で日本企業に対してAI活用の提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入など一貫した支援を提供する。AIビジネス、IT企業やイノベーション、AI時代の新しい働き方や女性活用などで言論活動を積極的に行う。著書に『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数

松尾 そういう意味で商社はAIに関して、なんで何にもやらないんだろうと思っていたんですけど、最近はかなり本気でやろうとしている。彼らの面白いのは、やろうとするといきなり本気モードでやるところですね。

石角 AIエンジニアなどはあまりいないですよね、商社には。けれども壮大なAIのプラットフォームを作っていて、それを自分の関連会社に売れないかなど、そういうスキームを考えている方がすごく商社に多いと思うのです。先生は今後、商社の位置づけはAIビジネスを構築する上でどう変わると思いますか。

AIポテンシャルの条件① 人、技術、データのアービトラージがある

松尾 AIに関しては前から思っているのですが、人とか技術とかのアービトラージの余地が非常に大きいというか、偏っているので、ちゃんとつなげてあげると価値が出るところってすごくたくさんある。そこを本当は商社がつながないといけないんだけど、これまでやってこなかったところを最近やり始めようとしていますね。おっしゃる通り商社は、いろんな事業を持っているので、いろんなやり方がある。

 どちらかというと金融的な知識を使うなど、そういう手法でいろいろな事業をくっつけたりしてきましたが、これからはIT、AIの技術というのも、リテラシーの1つとして、とても重要になってくるのではと思っています。

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