※日経トレンディの記事を再構成
人気スマートフォンゲーム『Fate/GrandOrder(以下FGO)』が、さまざまな業界の垣根を越え、一大経済圏を築いた理由を探る本特集。3回目では、ゲームの人気キャラクターとなった18世紀の宮廷音楽家「サリエリ」による波及効果と、東京都交響楽団とゼロから作り上げたオーケストラコンサートについて詳説する。
『FGO』では、サーヴァントのファンが、その歴史的背景を知りたいと動き、様々な経済効果を生み出している。そこで編集部のTwitterアカウントから「経済効果といえばこのサーヴァントというお薦めがあれば教えてください」と問い掛けたところ、多くの人が挙げてくれた名前がある。「アントニオ・サリエリ」だ。
18世紀の宮廷音楽家に再び光が当たるという奇跡
サリエリはモーツァルトと同時代に生きた宮廷音楽家。生前からモーツァルトを毒殺したという説が流布し、1984年に公開された映画『アマデウス』でも悪役として描かれた。そのイメージもあり、現代で曲が演奏されるということはほとんど無かった。
ところが、『FGO』では陰のある端正なマスクとして描かれ、人気サーヴァントの一つとなった。しかしサリエリについて知りたくても、日本語で読める文献は音楽研究家の水谷彰良氏による『サリエーリ 生涯と作品 モーツァルトに消された宮廷楽長』だけで、しかも絶版。それが、“サリエリスト”たちの声により、2019年に復刊ドットコムから復刊された。ページ数が数百ページにも及ぶ重厚な学術書が、だ。
(ディオ・サンティシモ・ミゼルコディア・ディ・ミ!)」
「無辜(むこ)の怪物」という自身のスキルを使うことで、コマンドカードのクリティカル発生率を上げる「スター」を安定的に生産できる。長剣を持った赤と黒の怪人のような姿をしているが、外装を外すと銀髪の聡明そうな男性の姿になる。サリエリは18~19世紀に活躍したイタリア出身の宮廷音楽家で、後年モーツァルトを毒殺したという説によって苦しめられた。FGOでの人気がきっかけで現実のクラシック界でも光が当たるようになった。FGOでは、「アマデウス」への殺意に満ちた人物として描かれる。なお、史実でもマリー・アントワネットと交友があり、FGOでは「マリー」の前ではおとなしくなる
レアリティ★★★ クラスアヴェンジャー
【イラスト】PFALZ 【声】関俊彦
この本にまつわるイベントを企画したのが、音食紀行というプロジェクトを主宰する遠藤雅司氏。史実に基づいた歴史上の食を再現するというテーマで活動している。彼が水谷氏を講演会に招き、サリエリが好きだったというお菓子を再現し振る舞うという200人単位のイベントを企画したところ、募集後数分で満席に。サーバーがダウンするという驚異的な人気を見せた。「サリエリを知りたいという渇望感に驚いた」と、遠藤氏は言う。
他にも、“サリエリ復活”現象は現れた。OSK日本歌劇団が大阪市内でミュージカル「サリエリ&モーツァルト」を上演するなど公演が増えた。遠藤氏もこれがきっかけで、サリエリをテーマとした『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓』(春秋社)を出すこととなった。ちなみに19年に東京・池袋に開業した「Hareza池袋」のこけら落とし公演の一つ、宝塚歌劇団の「ロックオペラ モーツァルト」でも、サリエリは登場する。
なお、音食紀行の遠藤氏はそれ以前に『FGO』の影響力を知っていたという。彼が17年に上梓した『歴メシ!』(柏書房)で、紀元前1600年ごろに残されたバビロニア文書の食事レシピを載せたところ、異例の重版となった。『FGO』で、古代メソポタミアの伝説的な王「ギルガメッシュ」が人気サーヴァントだったことが関係しているという。遠藤氏はこの本を機に、古代メソポタミアの食事を味わうというイベントを継続的に行っている。「誰にでも楽しめるイベントにしているので把握はしていないが、常に一定数の『FGO』ファンが来ていると思う」(遠藤氏)。
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