米シアトルとその周辺には、AI(人工知能)など最先端のテクノロジーの人材を育てるエコシステムが形成され、スタートアップが次々と立ち上がっている。特に米マイクロソフトの研究開発や製品開発の出身者が多い。2018年にはシアトルAIスタートアップの日本進出も加速。日本企業がAIの本場のテクノロジーやサービスを利用できる環境が整いつつある。
米シアトルのAIスタートアップの特徴は、エコシステムの中核にある米マイクロソフトと米アマゾン・ドット・コムの2社、特にマイクロソフトから生み出されてきていることだ。
スタートアップの創業者のおよそ4分の1がマイクロソフトの出身者である「Ex Microsoft」と言われている。現地で取材している感覚では半数程度がEx Microsoftではないかと感じる。マイクロソフトの自然言語処理やOffice(オフィス)などさまざまな部門の研究開発のエンジニアが、新たな道を切り開いている。
アマゾン出身者のスタートアップもあるが、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)出身のクラウドサービス関連が多い。クラウド側にAI機能を置くのは一般的になっている。今後アマゾン発のAIスタートアップも増えていくだろう。
人手を使ってAI学習用のデータを用意
そうしたシアトルのAIスタートアップを代表する1社と言われるのがデファインドクラウドである。Ex Microsoft のダニエル・ブラガ氏が2015年に設立し、今では約200人の陣容となった。ブラガ氏は「テクノロジーにも強みがあるが、AI革命が起きたというタイミングにいいチームで実行できたことが大きい」と説明する。
デファインドクラウドは顧客企業がAI活用をしようと考える際に必ずぶち当たる、「データの整備」と「アルゴリズムの生成」の2つの課題を解消する。それにかかる時間と手間、コストを大幅に削減することを訴求する。
データ整備の手段としてクラウドソーシングを活用するのが同社の特徴であり、「AIと人の両方を連携させているのが強み」(ブラガ氏)。独自の試験に合格した、50以上の言語、20万人以上のクラウドワーカーと契約している。日本人も数千人いるという。これだけ多くの人の手を活用することで、「データの内容によるが、1日で50万の発話を処理することもある。業界の平均は1日10万程度だろう」(デファインドクラウド アジア地域ジェネラルマネジャーのアヤ・ズーク氏)。
具体的には顧客企業から音声や画像などのデータを預かって、ワーカーを活用しそれがどのような情報であるのかをタグ付けしたり、中身をデータ化したりしたうえで納入する。写真であればどのような物体があるのかといった情報を付与し、音声であれば、自動音声認識をしたうえでワーカーが内容を確認する。特殊な環境や言語の場合には音声認識モデルも作る。Webなどから必要な画像や動画を収集するといったことも請け負う。
こうして作業したデータをデファインドクラウド側で集約。データの整合性をAIでチェックしたり、内容の構造化やデータ量を増やす拡張をしたりする。さらに要望のある顧客企業には、別メニューとして、整備したデータからアルゴリズムを生成して納入する。
顧客は、独BMWや米マスターカード、日本ではソニーやニコン、ヤフーなどさまざまな業界に広がっている。適用分野はコールセンターにおけるAI活用、文書内での企業名認識などの処理を行って、各企業におけるデータセットの整備や認識モデルの作成を支援する。自動運転のニーズも高まっている。
例えば、クラウドワーカーが街中の画像を見て、信号や標識などのデータをタグ付けして正解データを作成し、コンピューターによる認識の精度を上げていく。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー