米シアトルとその周辺には、AI(人工知能)など最先端のテクノロジーの人材を育て、集積するエコシステムが形成されている。中国のテックジャイアント、シリコンバレー大手などが続々と進出してきている。狙いはAIエコシステムに加わって、AIやクラウドなどの先端人材を獲得することだ。近著「AIゲームチェンジャー シリコンバレーの次はシアトルだ」を基に、最新情報を盛り込んで再構成。日本勢の動向も含め、シアトルが注目されている理由を全5回でお伝えする。
2020年の年明け早々1月15日、シアトルのAIエコシステムの今を象徴するニュースが飛び込んできた。
米アップルがシアトルのAIスタートアップXnor.aiを2億ドル(約220億円)で買収するというものだ。シアトル地元のテクノロジー専門メディアのギークワイヤーが報じた。
Xnor.aiは米マイクロソフトの共同創業者である故ポール・アレン氏が作ったAI研究の非営利組織(NPO)アレン人工知能研究所(AI2)からスピンアウトした会社で、エッジデバイス向けのAIアルゴリズムやソフトウエアの開発を得意としている。
エコシステムに割って入ったアップル
アップルは4年前、同様に200億円を投じて、シアトルのAIエコシステムに参入してきた。
2016年にシアトルのマシンラーニングに強みを持つAIスタートアップの米トゥリ(Turi)を買収したのだ。当時のシアトルのスタートアップの買収額が高くても数十億円だったところ、アップルが200億円を投じたという。シアトルのAIエコシステムに参入するため、地元の実力者の経営するスタートアップを買収するという手段を採ったのだ。
トゥリの共同創業者である、カルロス・グエストリン氏は現在、アップルのマシンラーニング担当の責任者である。さらにワシントン大学のコンピューターサイエンス&エンジニアリング学科の教授も兼務している。グエストリンの肩書はその名も「アマゾン・プロフェッサー・オブ・マシンラーニング」である。アマゾンが寄付して設けた教授職に就いているのだ。
ちなみにワシントン大学には、アレン氏が多額の寄付をしており、同学科の正式名称はポールGアレン・スクール オブ コンピューターサイエンス&エンジニアリングである。
教授職とスタートアップの経営者や企業の幹部を兼務するのがごく当たり前のワシントン大学ならではの一幕と言えるだろう。
また、Xnor.aiの母体であるAI2は幹部や研究者の多くがワシントン大出身や兼務で関係が深い。アップルはトゥリの買収から、シアトルのAIエコシステムの中核に入ることに成功したと言える。
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