日常生活の場面に入り込むこと。多くのアウトドアブランドがこれを目指すのは、それによって市場が大きく広がるからだ。スノーピークは、キャンプ用品の普段使いを提案するため、建設会社などと共同で住宅街の監修に乗り出した。

新潟市の「天野エルカーレ」に建てられた住宅のデッキ。住宅と街全体をスノーピークがプロデュースした。デッキの高さはスノーピークのテーブルに合わせて設計されている(施工:熊木建築事務所)
新潟市の「天野エルカーレ」に建てられた住宅のデッキ。住宅と街全体をスノーピークがプロデュースした。デッキの高さはスノーピークのテーブルに合わせて設計されている(施工:熊木建築事務所)

 第1回のザ・ノース・フェイスと同様に、アウトドアの日常化に成功したブランドがスノーピークだ。例えば、オフィスで同社のキャンプ用品を使う「アウトドアオフィス」は、導入する企業が増えている。

 そのスノーピークが住宅街の監修に乗り出した。国内のアウトドアブランドを見ても、同社ほど本格的に住宅開発や街作りに取り組む例は他にない。同社には、住宅とキャンプ用品をセットで販売すると同時に、キャンプ用品がリビングや庭などでも使えることを実際の住宅を使って広く発信し、市場を拡大する狙いがある。

 JR新潟駅からクルマで20分ほど走った信濃川のほとりにある新潟市江南区天野地区。一面に田んぼが広がるのどかな場所だ。スノーピークがプロデュースした住宅街「天野エルカール」(以下、エルカール)は、その天野地区のはずれにある。以前はここに築40年の5階建て集合住宅4棟(総戸数160戸)があった。

 不動産会社のリビングギャラリー(新潟・中央)は集合住宅の1棟をリノベーションする一方、残りは取り壊し、跡地に29戸の宅地を分譲する天野エルカールを造成。17年6月に着工した。同社の依頼を受け、スノーピークは先行販売する10区画の住宅プロデュースとコミュニティー活性化のための仕組み整備を担当した。

天野エルカールで住宅展示会を開催した際の区画図
天野エルカールで住宅展示会を開催した際の区画図

 スノーピークは、これまで住宅メーカーと共同で集合住宅を開発するなど、住宅に関するノウハウを蓄積してきた。また、アウトドアイベントを開催したり、キャンプ場を運営したりしてきた。こうした経験をエルカールのプロデュースに生かしている。

 エルカールの住宅の特徴は、リビングと庭をつなぐスペースを「アウトドアリビング」と位置付け、家族や近隣住人との交流の場としての機能を持たせた点だ。アウトドアリビングでは、もちろんスノーピークの商品を活用する。そのため、各戸のウッドデッキは同社のテーブルの高さに合わせている。まさにスノーピーク仕様の住宅だ。各住宅には、それぞれに適したテーブルや椅子、バーベキュー用具、たき火台、シェードなど一式をセットにして販売している。

 住人同士のつながりを生み出すため、隣地との境界に壁やフェンスを設けず、植栽によってゆるやかに区切っている。また、住宅3軒分の面積を使って多目的広場を設けた。ここに、隈研吾氏とスノーピークが共同で開発したモバイルハウス「住箱」を置き、そこに住人が使えるテントなどのキャンプ用品を収納している。住人が集まってたき火やバーベキューをすることも可能だ。さらに、スノーピークがテントの張り方講習やダッチオーブンを活用した料理をふるまうイベントなども開催する。

住民のコミュニケーションを活性化するため、たき火のできる広場を設けた
住民のコミュニケーションを活性化するため、たき火のできる広場を設けた
広場にはモバイルハウス「住箱」を設置。住民が利用できるキャンプ用品を常備する
広場にはモバイルハウス「住箱」を設置。住民が利用できるキャンプ用品を常備する

 18年4月に開催した住宅展示会には3週間で2200人が訪れた。そして、10戸のうちモデルハウスとして使う2戸以外を販売したところ、3カ月ほどで完売した。「価格は地域の相場よりも1~2割ほど高い設定にした。それでも想定よりも短期間で売れたのでプロジェクトの関係者が驚いていた。住宅の購入者のうち2組がスノーピークユーザーだった。他の購入者も今後ファンになってくれるはず」とスノーピーク営業本部東日本事業創造部シニアマネージャー、吉野真紀夫氏は話す。

スノーピーク営業本部東日本事業創造部シニアマネージャー 吉野真紀夫氏
スノーピーク営業本部東日本事業創造部シニアマネージャー 吉野真紀夫氏
屋根付きのデッキを備えた住宅(施工:高田建築事務所)
屋根付きのデッキを備えた住宅(施工:高田建築事務所)
通りに面してアウトドアスペースを設けた住宅(施工:アサヒアレックス)
通りに面してアウトドアスペースを設けた住宅(施工:アサヒアレックス)
芝生の庭が印象的な住宅(施工:アンドクリエイト)
芝生の庭が印象的な住宅(施工:アンドクリエイト)
「土間リビング」が特徴の住宅(施工:大建建設)
「土間リビング」が特徴の住宅(施工:大建建設)

 同社はこうした住宅関連事業の拡大と合わせて、キャンプのときだけでなく、日常生活でも使える商品のラインアップを増やしている。エルカールの開発事例は、こうした商品の販促ツールとしても活用している。「エルカールの画像をフェイスブックにアップしたら、いいねは自社の通常投稿の3倍近い3000件が集まった。日常生活にアウトドアを取り入れたいと思っているユーザーは多い」と吉野氏は語る。

スノーピークは日常生活に使える商品のラインアップを拡大している
スノーピークは日常生活に使える商品のラインアップを拡大している
有料会員になると全記事をお読みいただけるのはもちろん
  • ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
  • ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
  • ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
  • ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー
ほか、使えるサービスが盛りだくさんです。<有料会員の詳細はこちら>