物事を認識するリテラシーは、世代や育った環境によって変わる。全く異なる価値観、リテラシーを持つグループに向けたマーケティングの突破口として、パーセプションはどのように活用すべきだろうか。今回はインド市場への参入を正式発表したキッコーマンのチャレンジを例に、パーセプションを「いかす」ためのヒントを学ぶ。
キッコーマンは2021年2月、販売子会社キッコーマン・インディア社を設立し、インド市場に参入すると発表した。特に都市部での食の多様化が進むインドで、アロマ(香り)やうまみが武器の「本醸造しょうゆ」の普及を目指す。
インド進出は、同社の長期ビジョン「グローバルビジョン2030」で示されている「キッコーマンしょうゆをグローバル・スタンダードの調味料にする」に基づくもの。未開拓市場の開拓の一環だ。インドでの市場調査によってしょうゆが普及するきっかけを発見し、現地に根づく可能性を見いだした。そのキーポイントが、インドにおけるしょうゆのパーセプションだ。パーセプションを「いかす」ことで、インドでの市場開拓を狙う。
「共有理解」としてパーセプションをつくる
インドにおけるしょうゆのパーセプションは、ほぼゼロ。より正確に言えば、キッコーマンの「本醸造しょうゆ」のような、いわゆる日本のしょうゆに対するパーセプションはない。なお、同社の認知度調査では「キッコーマン」というブランドの認識もほぼなかった。
しかし、異なる認識のしょうゆなら存在している。どろっとして甘みが強く濃い色合いの「ダークソイソース」だ。「海南鶏飯(シンガポールチキンライス)」で使われるソースだと説明すると分かりやすいだろう。インドにはローカルブランドの製品もあり、都市部を中心に普及し始めている。ダークソイソース普及のきっかけは、ここ5~7年ほどインドで流行している中華料理だ。
このダークソイソースのイメージが定着し始めているしょうゆのパーセプションをいかにして変えるかが、キッコーマンのチャレンジになる。
しょうゆの入り口が「中華料理」の理由
さて、1つ質問をしよう。あなたは(日本の)しょうゆを知らないという人に、どのような調味料か説明できるだろうか。「大豆と小麦と塩でできた調味料」と説明したところで、実物を見たことも口にしたこともない人には想像がつかないだろう。大豆と小麦を使っているとはいえ、醸造物ゆえにその風味はない。ケチャップのように、材料から味のイメージが湧くような調味料ではないのだ。まずは「共有理解」としてのしょうゆのパーセプションを、どうつくっていくかを考えねばならない。
ここで注意しなければならないのが、ダークソイソースとの違いをアピールするのではなく、「本醸造しょうゆ」をどう認識してもらうかだ。
日本のしょうゆに対する認識のないインドの家庭に、いきなりキッコーマンの本醸造しょうゆをアピールしてもそもそも使い道が分からない。そこであえてインドで流行している中華料理に目をつけた。流行を受け、一般家庭でも中華料理を作る人が増えている。ところが、一般消費者へのアンケートから「レストランのほうが本格的な味がする」と感じている人が多かった。これを中華料理とキッコーマンのしょうゆを結びつける、とっかかりになると捉えた。
中華料理のシェフが使っているしょうゆブランドがキッコーマンであること、キッコーマンであれば本格的な中華料理が家庭で作れるという構造を生み出すのだ。そのためには、シェフや飲食業界におけるキッコーマンのしょうゆのパーセプションをつくり、共通理解を醸成することが必要になる。
そのために取り組んでいる施策は2つ。1つはさまざまなシェフとタッグを組み、インドの各都市のレストランなどで、本醸造しょうゆの良さを伝える普及活動を行うこと。
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