「うまい、やすい、はやい」と聞いて、誰もが連想するのは老舗牛丼チェーン吉野家だろう。創業から122年もの間、大衆のおなかを満たしてきた同社にとってこのフレーズは、顧客とともに育ててきた大切なパーセプションであり、ブランドの代名詞でもある。今回は、既存のパーセプションを土台として守りながら、「ライザップ牛サラダ」や「ポケ盛」を大ヒットさせた吉野家の事例から学ぶ。

(写真/Shutterstock)
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 吉野家のキャッチフレーズは時代に合わせて変化してきた。東京・日本橋市場が創業の地である吉野家は、もともと河岸の職人に牛丼を提供する店だった。創業当時は「はやい、うまい」という2ワードだけ。なぜなら当時、牛肉はうなぎと並ぶ高級食材だったため「やすい」という感覚はなかった。また河岸の職人は舌が肥え、値段よりも「はやい」と「うまい」を求めていたからだ。

 牛肉が大衆化するにつれ、やすいというワードが後からくっついた。しかも時代によって、「うまい、はやい、やすい」「うまい、やすい、はやい」と、ワードの順番が変わったそうだ。

「うまい、やすい、はやい」の発祥は顧客の認識

 これほど来歴があやふやなのには理由がある。このフレーズ、会社が定めたコーポレートスローガンではなく、ましてや創業者が定めたものでもない。実は「うまい、やすい、はやい」は顧客が言い出したフレーズなのだ。今や吉野家のロゴに記載されているほど浸透した言葉だが、実は顧客が見つけ出してくれたと言っても過言ではない「吉野家の価値」、すなわちパーセプション(認識)である。

 さて、顧客の認識が出発点のうまい、やすい、はやいは、大衆を相手にすることを使命とし、21年に創業122年を迎える同社にとって社員の誇りであり、同社がずっと守ってきたパーセプションだ。

 おいしい牛丼が、ワンコインで、手早く食べられる。これが高度成長期の「モーレツ社員」とも形容されるサラリーマンに支持されて、吉野家は急成長してきた。それゆえ吉野家は、「牛丼をかき込むマッチョな男性向けの店」というパーセプションも持つ。女性がカウンターに座っている印象は薄い。

 だが、牛丼ニーズは決して男性だけのものではない。吉野家の調査によると、店舗のメインユーザーは30~60代で、男女比は7:3だ。ところがテークアウトになると男女比は5:5になる。ここから読み取れるのは、吉野家の商品は女性にもニーズはあるものの、「店に入りづらい」というパーセプションがハードルになっているということ。さらに、10~20代ユーザーが少ないことも課題だ。

 ファストフードチェーンのライバルが増え、うまい、やすい、はやいは吉野家だけの専売特許ではなくなっている。メニューの選択肢が広がり、わざわざ牛丼を選ぶ必然性がなくなった。コアなユーザーを守りながら、客層を広げていかなければ、ジリ貧になってしまうだろう。そこで、吉野家はうまい、やすい、はやいという既存のパーセプションを守りながら、その価値を体験できるサービスやメニューを開発している。

今回はパーセプションを「まもる」事例として吉野家を取り上げる
今回はパーセプションを「まもる」事例として吉野家を取り上げる

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