既存のパーセプションを「まもり」ながら、新たなパーセプションの獲得を目指す。そうしたマーケティング戦略を進めているのが、おやつカンパニー(津市)の菓子「ベビースターラーメン」だ。同社はレシピに活路を見いだした。Webメディアと取引先のスーパーの店頭を組み合わせたキャンペーンでは、販売個数を前年同月比で11%増やした。

菓子メーカーのおやつカンパニー(津市)は「ベビースターラーメン」のパーセプションを「まもり」ながら、同時に新たな客層を獲得するためのマーケティング施策に取り組んでいる
菓子メーカーのおやつカンパニー(津市)は「ベビースターラーメン」のパーセプションを「まもり」ながら、同時に新たな客層を獲得するためのマーケティング施策に取り組んでいる

 長年親しまれてきた老舗ブランドを擁する日本企業は多い。そうしたブランドは時代の変化に合わせて、何をどのように守るべきかがよく議論される。

 老舗ブランドとパーセプションの関係はやっかいだ。その難しさを一言で表せば「ジレンマ」だろう。老舗であるがゆえに、守らなければいけないパーセプションは必ず存在する。しかし、それを守ってばかりの保守的なブランド戦略では「時代おくれ」「古臭い」というパーセプションを持たれ、「若者の○○離れ」の格好の的になる。守るべきものは守り、一方で守りすぎてもいけない。そうしたバランス感覚を求められる。

今回は老舗ブランドによるパーセプションを「まもる」を考えてみよう
今回は老舗ブランドによるパーセプションを「まもる」を考えてみよう

 今回、取り上げるベビースターラーメンも、約60年にわたり消費者から愛されてきた。おやつカンパニーは創業者の松田由雄氏が、前身となる松田産業有限会社を設立し、即席麺を販売したことから始まった。即席麺は製造工程上どうしても、商品にならない細かい麺が大量に出てしまう。それではもったいないと工場で割れた麺を集めておき、味付けして休憩時間のおやつとして従業員に提供されていた。言ってみれば賄い飯ならぬ賄いおやつだ。これがベビースターラーメン誕生のきっかけだ。

 その味付け麺のおいしさが社内で評判となり、59年に「ベビーラーメン(小さい麺)」として商品化してブランドが誕生した。73年に「ベビースターラーメン」へと改名。改名には子どもにとってのおやつの一番星になってほしいという、創業者の思いが込められている。

ベビースターの主要購買層は実は40代

 おやつカンパニーの調査によれば、ベビースターラーメンが消費者から持たれているパーセプションは「安価」「子ども向け」「懐かしい」「伝統的」のスコアが高い。現状の主要購買層は、実は子どもよりも日本の人口ピラミッド構成の中でも最大規模の集団である40代だという。つまり、第2次ベビーブーム(71~74年生まれ)と、ブランド誕生の時期がちょうど重なる。

 主要購買層のベビースターラーメンに対するパーセプション形成には、社会背景が強く関係している。彼らが子どもの頃(70年代)は、街に駄菓子店が多く存在していた。子どもは小遣いで、安価なお菓子を駄菓子店で自分たちで買って食べることが日常だった。主要購買層の40代には、幼少期に体験した商品との出合いや記憶(数年間のカスタマージャーニー)が強烈に刷り込まれている。これが懐かしい、伝統的といったパーセプションにつながっているのだろう。このパーセプションは、ブランド発祥から現在までそれほど大きくは変化していないという。

 ところが、バブル景気とその崩壊で日本の経済環境が変わるとともに、商品を取り巻く環境も変わる。まず、チャネルの変化だ。従来の販売チャネルの中心だった駄菓子店は最盛期と比べて2016年には8割減少した。主戦場はコンビニエンスストアやスーパー、ドラッグストアへと変わった。加えて1975年以降、海外で生まれたポテトチップスという黒船が本格的に日本で普及し始め、スナック菓子の主役が大きく変わった。

 また、少子化により子どもを取り巻く環境も大きく変化する。今は親子がスーパーで一緒にお菓子を選んで買うことが多い。お菓子の種類も増え、高単価な商品も当たり前になった。若年層は親世代がノスタルジーを感じてスーパーの菓子コーナーで買ってきたベビースターラーメンを、親と一緒に食べるという受動的な喫食体験になる。

 そのため、40代と若年層ではベビースターラーメンに対するパーセプションが全く異なる。実際、おやつカンパニーの調査で「懐かしい」というワードが出るのは30代後半から40代が中心。若年層からは「懐かしい」というパーセプションは出てこない。

 懐かしさを感じない若年層に対し、それを強調してアピールしても購買にはつながりにくい。また、中長期的に見ても、これから子どもの人口が爆発的に増えることは期待できない。おやつカンパニーは子ども向け菓子メーカーではあるが、子ども向けというパーセプションだけではマーケットが狭小化するのは目に見えている。

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