パーセプション(認識)を新たに「つくる」ことは、パーセプションを「かえる」こととは異なるチャレンジだ。確固たる自信を持って、新しい認識を世の中に創造しなければならない。今回はパーセプションをつくる上で重要になる3つのポイントを解説する。
本連載では資生堂の男性向けBBクリームやAI(人工知能)教材の「amata+」を例にとり、3回にわたって、パーセプションを「つくる」事例を解説してきた。新しいパーセプションは魔法のように、いきなりつくれるものではない。連載の第2回で触れた、「パーセプションを形成する5つの要素」のうち、どの要素が認識形成に関与しているのかが重要になる。
特にパーセプションをつくる領域においては、上図のうち次の3つの要素が強く関係していることが多い。
- (1)事象
- (2)リテラシー
- (3)コントラスト
事例を用いながら解説していこう。
「事象」とのサイクルでつくる
パーセプション(認識)はイメージ(印象)とは違う。イメージは実態とかけ離れていてもつくれるが、パーセプションはファクトが必要になる。よって、一からパーセプションをつくるには、新たな「事象」が必要になるのだ。そして、事象とパーセプションのサイクル(循環)でパーセプションを大きく育てられる。つまり、新たな事象が起こったからパーセプションが形成され、パーセプションがあるから事象が起こる、という鶏と卵の関係にある。
第7回で紹介した、創業から3年で全国の塾1900教室に導入されたatama+は、その典型例だ(関連記事「成績伸びるAI教材を塾1900校が導入 パーセプションが普及のカギ」)。もともとatama+は「基礎学力の習得はAIによって効率化できる」というパーセプションづくりと、「atama+を利用した生徒の成績が伸びた」という事象で塾での導入を地道に伸ばしていった。
さらに、最大手の予備校の1つである城南予備校がatama+を導入した個別指導を開始し、長年培ってきた集団授業型の学習カリキュラムを全面廃止するドラスチックな変革につながった。これが塾業界に大きなインパクトを与え、パーセプションにお墨付きを与えることになった。結果的にatama+の導入拡大が加速し、さらにパーセプションが広がることになる。
ここから分かることは、まずは狭く小さい範囲でもいいので、事象をつくることが大事ということだ。それを基にパーセプションを育て、さらに事象を積み重ねるサイクルによって、パーセプションは確固たるものになる。
「リテラシー」のギャップからつくる
パーセプションとは、あくまで受け手側が持つ認識のことだ。そして、同じ事象であっても、受け手の育った環境や文化的な背景、経済的な格差を含めたバックグラウンドによって認識は異なる。この与えられた材料から必要な情報を引き出し活用する能力を「リテラシー」という。パーセプションをつくるには、受け手のリテラシーも1つの大きな要素だ。第9回で解説したメンズブランド「uno」の男性用BBクリームの事例では、リテラシーのギャップがパーセプション形成に関与している(関連記事「資生堂の男性用BBクリームヒットの全貌 9カ月で38万個出荷」)。
少しおさらいをしよう。そもそも、unoが男性用BBクリームを日本市場に投入する前に行った調査では、「メイクは女性がするもの、男性は恥ずかしくてできない」という回答が多くを占めた。
一方で、グローバルではすでに男性メイク市場はすでに存在していた。海外のビジネスシーンにおいては、肌の状態は自己管理の象徴といわれる。unoが日本を含め米国など9カ国をピックアップして、ビジネスパーソンのスキンケアやメイク用品の使用率を事前調査したところ、海外はスキンケア商品利用率が8割、BBクリームが6割と過半数を超えていた。対して、日本はスキンケアが3割、BBクリームに至っては数%だった。この時点で日本国内の男性用メイクの市場は、ほぼゼロに等しかった。
男性用メイク市場こそほぼゼロに等しかったが、調査では日本人男性が「肌の状態を健康に保ち、第一印象を良くしたい」という意識を抱いていることが分かった。その理由は、自信を持って、仕事もプライベートも充実させたいからというものだ。
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