今回からはパーセプション(認識)を「つくる」手法を紹介する。それまで世の中になかったプロダクトやサービスを提供するとき、どのようにパーセプションをつくるべきか。創業からわずか3年で全国の塾1900教室に導入されたAI(人工知能)教材「atama+」を提供するatama plus(東京・品川)から学べる。
パーセプションをつくるとはどういうことか、少しおさらいをしよう。新しいプロダクトやサービスを世に広めるには、サービスや商品名の認知を拡大しつつ、どういうサービスなのか、なぜそれが必要なのかという認識をつくらなければ世に普及させることは難しい。
ここで思い出してほしいのが、PRのピラミッドだ。PRにおける3段ピラミッド構造で、一番下がパブリシティ(認知)、真ん中がパーセプションチェンジ(認識変容)、頂上がビヘイビアチェンジ(行動変容)で構成されている。PRの最終目的は、行動変容を起こすことだ。
しかし、スタートアップ企業はプロダクトやサービスだけで、行動変容を起こそうとしがちだ。とにかく早くプロダクトを世に出し、資金を調達して予算ができたら、一足飛びに認知アップのために広告を大量に投下するケースは多い。
ただ、会社やプロダクトの認知ばかり上がっても、それが世の中や自分に必要なモノだと認識されなければ、行動変容にはつながらない。大切なのは、どういうパーセプションを世の中に送り出すべきかを明確化し、つくることだ。そしてパーセプションの明確化は、消費者の行動変容のみならず、社員の行動にも影響を与える。
atama plusは短期間で教育業界に新たなパーセプションをつくることに成功した。その要因の1つに、創業前から同社のミッションやビジョンが明確に存在し、それが社員全員に行きわたっていたことが挙げられる。自社やプロダクトに対するパーセプションが社内で統一されたことで、一人ひとりがミッションに向かって自律的に行動できるカルチャーにつながった。
新型コロナ以降、利用者は約10倍に
その結果が、同社のatama+の躍進だ。アプリは今や全国の塾1900教室に導入されている。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年3月2日に発令された一斉休校要請に合わせて、塾でしか使えなかったatama+を家庭でも利用できるようにアップデートし、オンライン授業のモデルを実現した。これにより、利用者は約10倍に増えたという。この急成長の背景に、地道につくり上げた「基礎学力の習得はAIによって効率化できる」というパーセプションがある。
atama plusは、17年創業の若い会社だが、社員は既に100人ほど在籍している。創業者の稲田大輔氏は前職で教育関係の事業を経験する中でさまざまな教育に触れ、新しい教育をつくりたいという思いを抱き、大学時代の同級生に声をかけて創業した。
同社が掲げるミッションは「自分の人生を生きる人を増やし、これからの社会をつくっていく」こと。そのために、明治以降150年間にわたって変わらなかった教育に変革を起こし、新しい教育をつくり、進化させ、さらには社会を変えようとしている。
稲田氏は、これからの社会で活躍する人には、大きく2つの力が求められるという。1つは「基礎学力(英語、数学、国語などの教科学習)」。そしてもう1つが、「社会で生きる力(仲間と一緒に働く力。コミュニケーション能力、プレゼン力、ディスカッション力など、いわゆる受験にとらわれないような力)」だ。この2つをバランスよく身に付けた子を生み出していくような教育をつくることが目標なのだ。
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