新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態により、様々な事柄のパーセプションが短期間で変化している。本連載を担当するPRの専門家として、この点を解説したい。新型コロナの影響により急速にパーセプションが変化したオンライン会議システム「Zoom」、マスク、ハンドドライヤーの3つを取り上げる。

オンライン会議サービス「Zoom」は新型コロナウイルスの感染拡大で、ビジネス用途だけでなく一般消費者にも利用が広がった
オンライン会議サービス「Zoom」は新型コロナウイルスの感染拡大で、ビジネス用途だけでなく一般消費者にも利用が広がった

 まずはPRにおけるパーセプションについておさらいをしよう。パーセプションは「認識」と訳されることが多いが、さらに平たく言えば「モノの見方」くらいに考えてもいいだろう。そしてパーセプションは、様々な要素で変化する。であるならば、マーケティング的には商品を世の中に広めるために、自分たちに有利なパーセプションをつくり出したい、と思うだろう。確かに、パーセプションを意図的に変えることは不可能ではない。

 パーセプションチェンジ(認識変容)とは、その対象に対して既存のパーセプションがあり、それが何らかの状況変化や仕掛けによって「変わる」ことを指す。だが、その変わり方にはいくつかパターンがある。既存のパーセプションがまったく新しいパーセプションに完全に変容してしまうこともあれば、新たなパーセプションを獲得することで、パーセプションが「拡張」するケースもある。今回は新型コロナウイルスの感染拡大でパーセプションが拡張した事例を紹介しよう。

パーセプションをマーケティングに生かす方法は「かえる」「つくる」「はかる」「まもる」「いかす」の5つ。今回は「かえる」事例だ
パーセプションをマーケティングに生かす方法は「かえる」「つくる」「はかる」「まもる」「いかす」の5つ。今回は「かえる」事例だ

 パーセプションが生まれる要素の1つに「タイミング」がある。新型コロナウイルスは社会が大きく転換するタイミングだ。そもそもパーセプションは、社会を包む空気と密接な関係にある。そして、社会の空気をコントロールすることは難しい。10年前は良かったけれど、今は悪い印象がついてしまう、あるいはその逆もまたしかり。パーセプションは社会の空気とともに変化する。

 社会の空気は本来短期的に変わるものではなく、中長期的にじわじわと変化するものだ。そして、変化する社会の空気に寄り添い、社会的なタイミングを自分たちの味方につける、それが戦略PRの真骨頂でもある。一過性のキャンペーンや大量の広告投下によって、一時的に空気が変わることはあるが、それが定着することはほぼない。自分たちが望むパーセプションに変化させたいのであれば、中長期的な視点でプロジェクトを策定し、遂行していく他はないのだ。

 だからこそ今回、新型コロナウイルスの流行により、様々なパーセプションチェンジが、短期間で起こっている事実は驚嘆するばかりである。

会議システムからコミュニケーションツールへ

 新型コロナウイルスの感染拡大によって新たなパーセプションがつくられ、利用者が急増したのが米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのオンラインビデオ会議サービス「Zoom」だ。在宅勤務によってビデオ会議が急速に普及する中、Zoomは特に脚光を浴びている。

 Zoomとは複数人での会議に対応した、オンライン会議サービス。ホスト役が管理画面から会議を設定して、アクセス先のURLを参加者と共有するだけで、オンライン会議が実施できる。アカウントの開設は無料で、1対1の会議なら無料プランでも無制限で利用可能(3人以上なら40分までは無料)。月額2000円の有料プランを契約すると、会議の時間や参加人数の制限がなく利用できる。

 2019年12月時点ではZoomの1日当たりの会議参加者数は世界で約1000万だったが、20年4月には3億超と爆発的に増えた。新型コロナウイルスの感染拡大により大手企業を中心にリモートワークが推奨されて、利用者が増加したことは想像に難くない。

 だが、オンラインビデオ会議サービス自体は、とりたてて目新しいものではない。Zoomの他にも米マイクロソフトの「Teams」、「Skype」、米グーグルの「ハングアウト」、シスコシステムズの「Webex」など、類似サービスは複数存在する。その中で、Zoomが突出して注目を集めた背景にもパーセプションが関係している。

 従来のオンラインビデオ会議サービスのパーセプションはビジネスパーソンが使う「ビジネス支援ツール」で、Zoomも同様だった。これが新型コロナウイルスの感染拡大以降、ビジネス以外の用途が広がったことで変化。Zoomに「ビジュアルコミュニケーションツール」という新たなパーセプションが加わった。

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