2020年1月に亡くなった、米ハーバード大学経営大学院のクレイトン・クリステンセン教授。『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社刊)など多くの著書を残し、特に日本人の間で人気がありました。前回『【追悼】クリステンセン氏はなぜこんなにも愛されたのか』は同氏の魅力をひもときましたが、今回はクリステンセン氏の教えを通して、私たちはどうすれば「イノベーションのジレンマ」や「破壊的なイノベーション」と付き合えるのかを解いていきたいと思います。

(写真/Shutterstock)
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【上】 【追悼】クリステンセン氏はなぜこんなにも愛されたのか
【下】 【追悼】「破壊的なイノベーション」と我々はどう付き合うべきか

 クリステンセン氏の代表的な著書である『イノベーションのジレンマ』は、世界的に大きく注目されましたが、特に日本で人気が出ました。その理由は、日本という社会制度では既存企業の存続がとにかく重要な課題だと認識されてきたからでしょう。リーダー企業となったイノベーターが新しい破壊的なイノベーションに対応できず、競争力を失ってしまっては困ると思う人が多かったのです。

『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社)は、なぜ業界をリードしていたはずの企業が市場や技術の変化に直面すると失敗してしまうのかを解き明かす。難しいイノベーションに対応するには、すべての経営者は「破壊的イノベーションの法則」に従うべきだと警鐘を鳴らす
『イノベーションのジレンマ 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社)は、なぜ業界をリードしていたはずの企業が市場や技術の変化に直面すると失敗してしまうのかを解き明かす。難しいイノベーションに対応するには、すべての経営者は「破壊的イノベーションの法則」に従うべきだと警鐘を鳴らす

 破壊的なイノベーションは多くの場合、既存企業に対して相対的に経営資源に限りがある新規参入企業によってもたらされます。ということは、スタートアップ企業が増えてくれば、社会にも破壊的なイノベーションが多くなることが予想されます。既存企業にとっては対応が厄介です。競争力を失ってしまいかねません。

 これをどうにかしようとすれば当然、何とかしてジレンマを解消し、自社で破壊的なイノベーションを行おうとします。収益性の高い既存ビジネスをやめて破壊的なイノベーションへと向かおうとする企業もあるでしょう。しかしこれは明らかに、過剰反応です。

 既存企業がまずやるべきは、自社の強みを生かし、そこから高い収益性を獲得していくことです。高い収益性が期待できるのは、もちろん持続的なイノベーションです。持続的なイノベーションを行いながら収益を稼ぎ、次世代の事業の柱となるようなビジネスに成長機会への投資を進めていくことこそが基本です。目新しいことはありません。企業の全社戦略的には基本通りです。

陳腐化し、競争力がなくなったビジネスからは撤退する

 持続的なイノベーションばかりやっていては、イノベーションのジレンマが起こってしまうのでしょうか。確かにそうです。しかしクリステンセン氏が指摘しているように、このジレンマはそもそも解消が難しい組織にとって本質的な問題です。

 もし、破壊的なイノベーションによって既存のビジネスが陳腐化させられ、収益性が低下したとしたら、速やかに撤退することが重要です。既存企業にとってまずいことは、競争力が落ちたビジネスを長年にわたって維持し続けてしまうことです。そうすなると、新しいビジネスを開拓しようとしてもそのスピードは遅く、投資の規模も小さくなってしまいます。

 また、市場に競争力が低下した企業が多く存在していると、産業全体の収益性も低下してしまいます。つまり競争力を失い、収益性が低くなったビジネスはできるだけ速やかに撤退することこそが産業全体にとっても重要なのです。

企業はあくまでも「器」にすぎない

 企業は社会の公器ですから、そこで働いている人もいるし、そう簡単にビジネスから撤退すべきではないと考える人もいるはずです。確かにその通りと言いたくなるところですが、少し冷静に考える必要があります。というのも日本では、やや「企業は社会の公器」という概念が拡大解釈されてきたように思うからです。

 社会に必要とされる製品やサービスを生み出していくことこそが、社会の公器としての企業に求められる本来の役割です。もしその製品やサービスが陳腐化し、社会から求められなくなったのに、自分たちの雇用を守るためにビジネスにとどまるとすれば、もはや社会の公器ではなく、私物化された器ではないでしょうか。

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