特集ダイナミックプライシングの第1回第2回は名古屋グランパスエイト、第3回は浜崎あゆみのコンサートを例に解説。第4回は180店超の実店舗を持つ家電量販大手ノジマが導入した電子棚札を取り上げた。第5回はECにおける変動価格制の可能性と課題についてロハコを例に探る。

 前回(特集第4回)は、実店舗をチェーン展開する一般小売りでダイナミックプライシングを実施するには、その前提として棚札の貼り替え作業を不要にする電子棚札が不可欠であることを、全店に導入した家電量販大手ノジマの取り組みを通じて解説した。

 では、実店舗のようなリアルな棚札がなく、基幹システムで価格を修正すればそれが反映されるECサイトなら、オンラインで作業が完結する分、ダイナミックプライシングを導入しやすいのではないか? 消費者向けEC「LOHACO(ロハコ)」を運営するアスクルが2019年からダイナミックプライシングの実証実験に取り組んでいる。

ダイナミックプライシングの実験に取り組み中のロハコ
ダイナミックプライシングの実験に取り組み中のロハコ

 ダイナミックプライシングの実験を主導した同社BtoCカンパニー事業企画本部ビジネスマネジメント&アナリティクス統括部長の成松岳志氏は、実験の狙いを次のように語る。

 「ロハコで商品価格を決めているのは商品カテゴリー別のMD(マーチャンダイザー)。相場を踏まえつつ、お買い得価格を設定して集客を担う商品、利益を稼ぐ商品といった具合に商品の役割を分け、それぞれKPI(重要業績評価指標)を設定して達成度を見ながら価格を微調整していく。ダイナミックプライシングでこの値付けを最適化、自動化したい」。

 EC業界ではダイナミックプライシングが話題になる以前から、値付け作業を自動化するオートプライシングが注目され、導入されてきた。ベンチマークとする競合ECサイトの販売価格をクロールして、それより1円安い価格を指定して最安値を維持する、といった使い方をする。

 ただしオートプライシングで最安値指定を続けると、競合サイト側もオートプライシングで自社をベンチマークしていた場合、1円の値下げ合戦が際限なく続く消耗戦に陥ってしまう。このため、ロハコではオートプライシングは採用しなかった。

 ロハコが19年5~8月にかけてYahoo!ショッピング店(※19年10月からPayPayモール店に移行)で実施したダイナミックプライシングの実験では、競合他店の価格に振り回される値決めではなく、利益を取りに行くことを重視してアルゴリズムを設計した。過去の販売価格や販売数量を機械学習し、値下げするとどれだけ販売数量が増えるか、逆に値上げするとどれだけ販売数量に響くか、価格弾力性を把握し、商品特性に応じた値付けをしていく。食品やリビング・キッチン用品など8カテゴリー400アイテムを対象に約3カ月実験し、価格変更は計1万2000回に及んだ。結果、「売り上げを伸ばしながら対象商品の利益額も20%アップできた」(成松氏)という。

 商品点数を絞った実験でも400点と取り扱いアイテム数が多いECでは、購入に影響を及ぼす要素が多く、単品の販売数量や利幅の伸びだけで成否は判断できない。ある商品でよい結果が出ても、合わせ買いが減っていれば成功とは言い難く、トータルで見る必要がある。また、リピート購入の多い消耗品をたまたま安値設定時に購入したユーザーは、再来訪時に値上がりしていると、それが元値に戻っただけでも高い印象を受けてリピート購入を躊躇(ちゅうちょ)する要因になりうる。

 ロハコはダイナミックプライシングのシステム事業者と共に効果測定と値付け最適化の開発を進め、今年も実証実験を行う予定だ。

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