ダイナミックプライシングをテーマとする本特集の第1回と第2回はサッカーJリーグの名古屋グランパスエイト、第3回は浜崎あゆみのコンサートを例に、それぞれが実施した変動価格制について解説した。第4回は、一般小売りでダイナミックプライシング実現に向けて走り出した家電量販のノジマの取り組みを追う。
ダイナミックプライシングの導入に積極的な業界にはどんな特徴があるか。本特集の第1~3回で挙げたスポーツ観戦やコンサートのチケットの他、ホテルの室料、特急券の料金、航空運賃、さらには一時利用の駐車場料金でも実験、導入が進んでいる。いずれのサービスも、キャパシティーの上限が決まっていて、開催・運行日に埋まっていない分は運営側に一銭も入らず、後日その枠を売るのは不可能なことが特徴だ。そのため、空き席は値下げしてでも売り切りたいし、早々に売り切れるほど人気ならもっと高値で売って利幅を取りたいというニーズが切実なわけだ。
だが大半のマーケターにとって、こうしたスポーツ・エンタメや運輸・旅行の業界はやや特殊な世界に映るだろう。今日買い手がつかなければ価値がゼロになってしまうような商品はそう多くない。強いて言えば、食品スーパーやデパ地下の消費期限が迫った総菜だろう。こうした商品は閉店2時間前に10%割引、1時間前に20%割引、30分前に半額といった具合に段階的にシールを貼り替えて、売り切るように努める。AI(人工知能)が価格を決めていなくても、大胆に価格を変動させるという意味ではダイナミックプライシング的である。
では一般小売りの世界でもダイナミックプライシングが浸透する余地はあるだろうか。実際のところアパレルにしても家電・AV機器にしても、発売から数カ月もたてば人気の商品以外は数%~数十%、値下げしているケースはよくある。価格変更の回数も変化率も決して“ダイナミック”とまでは言えず、また値上げ局面はあまりないものの、需給に基づいて価格自体は変更している。したがって、過去の売れ行きなどの販売データや競合店の値付けなど、インプットする情報量を増やして学習させることで、より最適な価格をはじき出すこと自体は不可能ではない。
ところが理屈の上では有効でも小売店でなかなか導入が進んでいない。その理由は、価格変更には棚札の差し替えという物理的な作業を要するためだ。さほど頻繁には価格変更していない今まででも、小売店にとって棚札の差し替え作業は大きな負担の一つ。さらにきめ細かく最適価格を日々提示されたら、売り場では対応が追い付かない。
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