早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は「幸せのキーワードは信頼や共感」だという。「頼母子講(たのもしこう)とか、昔の日本の地域や村社会の仕組みは、他者の幸せを考える共同体のコミュニティーとして機能していた。そういうものを若い人たちが今取り返そうとしているようにも見える」

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 世界的ベストセラー『予想どおりに不合理』でおなじみ、行動経済学の権威であるダン・アリエリー氏(米デューク大学教授)が人間の幸せについて語り尽くした書籍『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP、アマゾンで買う場合はこちら)。その著者(聞き手)であるPreferred Networks執行役員・最高マーケティング責任者の富永朋信氏が「幸せな組織のあり方」について、前回「組織にカリスマリーダーは不要? 富永朋信氏×早大・入山章栄教授」に引き続き、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏に聞きました。

富永朋信氏と入山章栄氏
早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏(右)
入山 章栄 氏
早稲田大学ビジネススクール教授
慶応大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、08年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。13年より早稲田大学ビジネススクール准教授。19年より現職

入山章栄氏(以下、入山) 『「幸せ」をつかむ戦略』で面白かったのが、幸せになるにはセルフィッシュじゃなくて、「他人を自分の効用に組み込む」というところですね。こういう時代になってくると、もっとそういうことができるのかなという。

 実はたまたま、幸福学を研究している慶応大学システムデザイン研究室の前野隆司先生と対談する機会があり、やはり時代の流れはそっち側に行っていて、「信頼」とか「共感」がキーワードになるかと。

 昔の日本にはそういう仕組みがあって、頼母子講(たのもしこう)とか、地域や村社会の仕組みは、他者の幸せを考える共同体のコミュニティーとして機能していました。そういうものを若い人たちが今取り返そうとしているようにも見えます。

 他者を自分の効用に組み込むときに難しいのが共感だと思います。共感がどのくらいの範囲まで適用するかはかなり重要です。究極の共感って、例えばゲリラ組織ですよ。IS(イスラム国)とか半端なく自律分散じゃないですか。連絡も取り合っていないのに、なぜか同時に行動を起こす。あれは社会にとって悪い例かもしれませんが、ポイントはメンバー同士が共感しているからできる、ということです。

富永朋信氏(以下、富永) 共感は人間の大事な特性ですよね。人は社会とか集団の中で「We(俺たち)」と「They(あいつら)」というふうにどうしても見てしまう性質があって、Weのネットワークの中だと共感はポジティブに作用しますけど、外に対しては逆に作用して虐殺のようなことが起こってしまう。

入山 人間が自分と他人を分けるって本当に面白いところで、例えば生まれたときの赤ちゃんって、病室の隣で寝ている子が泣くと、自分も泣くんですよね。僕の浅い知識ですけど、何でそれができるかというと、生まれたての赤ちゃんには自我がないからなんですよ。ところがだんだん成長していくと生後何カ月かから自我が出てきて、さらに言語を身に付ける。そうすると、「自分は自分、他者は他者」となり、その間がつながっていないと考えるようになる。

 ただ、先の赤ちゃんの例のように、実は人間はもともと根底ではつながっている、という考えもあるはずです。藤田一照さんという和尚さんが以前おっしゃっていたのですが、「人間は一人ずつ独立しているように見えるが、実は伸びた木の根っこのように土に埋まって見えないだけで、根底ではつながっているというのが禅の考え方だ」と。そしてこの土は何かというと、「自我」だというんです。

富永 自我が断絶を生んでいると。

入山 禅では、その自我を取るに至ったら、それが「悟り」なのだそうです。

富永 明解ですね。

入山 そうすると、実はみんなつながっているという感じになるので、自分、相手というのがなくなるという。『「幸せ」をつかむ戦略』でダン・アリエリーが語っていることも、それに近いですよね。

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