早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏は「今起きている変化はティール組織の考え方にすごく合っている。副業やテレワークが進むと、いろいろな人たちが勝手に横でつながりだす。そうなると、これまでのカリスマリーダーを中心にした放射状ネットワークの中心がなくなっていく」と言います。
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世界的ベストセラー『予想どおりに不合理』でおなじみ、行動経済学の権威であるダン・アリエリー氏(米デューク大学教授)が人間の幸せについて語り尽くした書籍『「幸せ」をつかむ戦略』(日経BP、アマゾンで買う場合はこちら)。その著者(聞き手)であるPreferred Networks執行役員・最高マーケティング責任者の富永朋信氏が「幸せな組織のあり方」について、前回「会社の幸せは自分の幸せ? 富永朋信氏×早大・入山章栄教授」に引き続き、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏に聞いた。
富永朋信氏(以下、富永) 個人の幸せというレベルから離れ、企業や組織の一員と考えたときにオートノミー(自主性)が重要だと思いますか。
入山章栄氏(以下、入山) これからの時代は必要だと思います。というのは、終身雇用性が崩れて、1人の人間が1つの組織にずっと所属し続ける時代はもう終わりになりつつあるからです。そうすると、やっぱり「自分がやりたいことは何だろう」「自分の幸せって何」と考える時代になってきたのかなと。特にミレニアム以降の若い世代は確実にそうなってきているので。
早稲田大学ビジネススクール教授
富永 企業は軍隊と同じで、機能的な組織の集まりがあって、人がそれに合わせるという形ですよね。そのパラダイムを否定した上で、企業側が個人の行動に合わせるように変化しなきゃいけない。そういう変化は可能だと思いますか。
入山 それがこれからの課題だと思います。今起きている変化は「ティール組織」(米国のコンサルタントであるフレデリック・ラルー氏が提唱する、社員間の上下関係がない組織形態)の考え方にすごく合っている。ティール組織が学術的に正しいかどうかは別で、個人的には結構面白いなと思っています。
人間や組織のドライビングフォース(けん引力)が時代とともに変わるというのがティール組織の考え方。封建制の時代は「パワー」で押さえ込んでいた。ところが、人類が資本主義を発明した結果、それに代わるものとして出てきたのが「効率性」。多くの従来型の日本企業は、いかに効率性を最大化して企業価値を上げるかというパラダイムの中にあります。
それに対して今起きているのが、トップのやりたい「ビジョン」に共鳴して人が付いてくること。例えば米テスラのイーロン・マスクだったら「世界を救いたい」、ソフトバンクの孫正義さんだったら「デジタルで人類を幸せにしたい」といったビジョンに共鳴して人が集まる。そういう時代だと思うんですよね。
そしてここから先に行くと、僕はネットワークの時代になると理解しています。終身雇用性が崩壊して、副業やテレワークが進むと、いろいろな人たちが勝手に横でつながりだすからです。働き方も自由になるし、みんな自由に動く。そうなると、今まではカリスマリーダーを中心にした放射状のネットワークだったのですが、その中心がなくなっていく。ティール組織の考えはこれに近いのです。ここで必要になるのはビジョンよりも「バリュー」で、こういうことをやっていると面白いよね、楽しいよねといった感じで、価値観で共鳴する人が横で勝手につながっている組織みたいなものができて、共鳴しなくなったら離れてもいいというような時代に徐々になりつつあるのかなと思います。
特に最近の若い人はバリュー重視が多くなっている印象です。自分がすごく大事にしている価値観に共鳴する人たちと緩くつながりながら生きていくのが幸せ、みたいな時代が来る。それ以前の効率性の時代なら、会社組織をきれいに回すためにオートノミーは重要ではないのかもしれませんが。